久遠とフレッドの学園生活　作：はにわ改

　
ーー真希と千鶴の戦いから一週間。
週に１度、金曜日にある実技試験を明日に控えたあくる日。
四時限目までの授業を終えた透矢は、真希、千鶴のいつもの二人に加えて、久遠とアルフレッドを連れ立って、昼食の時間を共にしていた。

ーー場所は屋上。
教室や学食堂で済ませる生徒がほとんどのこのアカデミアでは、わざわざ屋上まで足を運ぶ者は少ない。

事実、屋上には透矢たち以外に誰もおらず、昼食を摂るだけには広すぎる敷地。
その校舎へ続く通用口の脇で一同は敷物もひかずに腰を下ろし、それぞれの昼食を広げていた。

「う～んっ！
やっぱりこの時間は羽根を伸ばせていい一時ね、フレッド？」

「そうだな」

快晴の陽の下、素足を床に着けて腰を下ろす久遠が大きく伸びをする。
隣に胡座で座るフレッドことアルフレッドは、学食で買ったウインナーを挟んだパンに黙々とかじりついている。

「二人は注目の的だもんね。
ま、無理もないけど」

「二人はワシントン校、トップデュエリストなんだろ？
そりゃ俺だって気にもなるぜ」

「いや、多分透矢と他のみんなの注目するの意味は違うと思うけどね」

透矢に冷ややかに突っ込む真希。
人見知りするところのある千鶴はやや態度が固いが、会話の合間に笑顔をこぼしている。

久遠とアルフレッドが、透矢たちとこうして昼を共にするようになったのは、今週の始めからのこと。

ほんの１ヶ月の間ではあるが、ワシントン校に籍を置く久遠とアルフレッドの二人がこのアカデミアで学舎を共にする事となり、真希の言うように二人は生徒たちからの注目の的であった。

しかも久遠はあの生徒会長・刹那の双子の妹。
その事は限られた者しか知らない事実だった事に加え、
普段は近寄り難い雰囲気のある刹那とは違い、人当たりの良い久遠が人気を集めるのも無理はなかった。

またアルフレッドは異国の血を引く者であり、加えて背が高い線の細い美男子。
彼は特に女性陣から熱いアプローチを受けていたようだ。

そんな生徒たちからの人気は一週間を過ぎても収まる事はなく、正直辟易としていた二人は、せめて昼ぐらいはゆっくりしたい、と久遠が真希に頼んだのである。

そして今日も、人気の無い屋上で久遠とアルフレッドはささやかな和みの時間を噛み締めていた。

「そういえばアルフレッド？
俺、ずっと気になってたんだけどさ」

「なんだい、透矢？」

こうして昼を共にするようになって今日が四日目。
すっかり打ち解けた透矢とアルフレッドは友達同様に会話が出来るようになっていた。

「日本語、すげぇ上手いよな」

「あ・・・わ、私もそれ、思ってました」

透矢、そして千鶴の素朴な疑問。
アルフレッドが人気な理由の１つがそこにあった。

彼は日本人と全く遜色がないほど、流暢な言葉遣いなのである。
所謂、会話における言葉の壁、というものがないため、非常に話しかけやすいのだ。

「ああ、フレッドのご家族と私たちの家族とは元々とても仲が良いの。
その縁で、子供の頃からよく日本に来てたから」

「へーっ、そういえば久遠と刹那の両親は今、アメリカにいるんだっけ」

「うん。
それも昔から。
お仕事の付き合いで、私たちの家族は仲良くなったの」

久遠が代わりに透矢の疑問に答えてくれる。
久遠に対しても、双子だから当たり前とはいえ、刹那と全く同じ顔をした彼女に、少し戸惑っていた透矢も今は全くそういったものはない。

少しずつだが、刹那と久遠の区別も付けられるようになってきたようだ。



「ーーそういえば明日、実技試験ね」

ーー会話を弾ませながら、それぞれの昼も食べ終えた頃。
久遠がそう切り出した。

「へへ、実技の時間は毎回、楽しみだからな！
気合い入るぜ！」

「あはは、話に聞いてる通り、透矢くんはデュエルが好きなのね」

「そうなのよ、二言目には『デュエル』、だからね。
あたしも時々呆れちゃうもん」

「でゅ、デュエリストがデュエル好きで悪いか！」

「程度の問題ね。
あんたはちょっと脇目振らなさすぎ」

「たく、相も変わらず口うるせぇな・・・」

「何よ！」

「やるのか！？」

「も、もう・・・お兄ちゃん、お姉ちゃん・・・」

普通の会話から何故か小競り合いを始めてしまう透矢と真希に、千鶴が困ったように笑いながらそれを止める。
久遠はおかしそうに笑い、アルフレッドも小さく笑い声を上げる。

「えーと、久遠とアルフレッドは明日の実技試験はどうするんだ？」

「私は出ないわ。
フレッドはやるみたいだけど」

「へーっ、そりゃ楽しみだな」

「理事長先生から頼まれたのよね？
確か、相手ももう決まってるんでしょ？」

「ああ。
確か、『サスガ』・・・とか言ったな。
ブルーの一年らしい」

「サスガ・・・？
ひょっとして『流石』の事か？」

明日に控えた実技試験。
本来ワシントン校に籍を置く二人が、このアカデミアの実技試験など受ける必要はないはずだが、理事長・クロエの願いでアルフレッドは出るのだという。

そしてその相手は流石 凌斗（さすが りょうと）。
オベリスク・ブルー１年のトップ、期待のホープ。
透矢とも二度対決し、敗れはしたものの透矢を苦しめた実力者である。

「ふぅん・・・それなら楽しみね？
お手並み拝見、ってところかしら」

話を聞いた久遠が小さく笑いながらそう口にする。
その笑いには言葉とは別の感情が込められているように、透矢は小さな違和感として察していた。

「ーー本当は、君と是非、デュエルしたかったんだけどな」

アルフレッドが透矢を見る。

「お、望むところだぜ！
なんならこれから一丁、やるか？」

願ってもない、と透矢。
しかしその申し出をアルフレッドは何故か断った。

「焦ることはないさ。
君とはもっと大きな舞台で雌雄を決したいからな」

「大きな舞台って・・・ああ、そうか。そういうことか！」

アルフレッドの言葉の意味をすぐ察する透矢。
大きな舞台ーーすなわち世界大会。
既に開催まで１ヶ月を切った、デュエリストならば誰もが憧れる最高のデュエルの場。

「ーーそうだな。
確かにそこで当たったら、お互いに熱いな！」

「・・・楽しみにしてるよ」

「ああ！
ったく、そう考えたら余計に待ち遠しいぜ！」

お互いに強く手を握り合う二人。

ワシントン校のトップデュエリストであるアルフレッドが、是非戦いたいと名指しされた透矢。

だがそこにはアルフレッドの秘めた思いも隠されていた。

「世界大会、といえば久遠？
確か、あと何人か日本に来るはずだったんじゃないの？」

ふと思い出したように真希が訊く。
前の久遠の話ではあと二人来日する予定で、それが一週間後と話していたが、既に一週間以上が過ぎている。

「ああ、何か手続きに手間取っているみたい。
でも今週末には来日するそうよ」

「来たら親善試合、だっけか？」

「ふふ、それはまだ理事長先生と調整中。
でも出来たら楽しいかもね」

「何、言ってんだよ、楽しいに決まってるじゃねぇか！
絶対にやってもらえるよう、俺も理事長先生に頼もうかな」

「くすくす・・・確かに、『デュエル馬鹿』、ね」

間もなく来日するという、ワシントン校側の世界大会出場メンバー。
言うまでもなく選び抜かれたトップデュエリストであり、
その彼らと会える日が近いという事で、透矢は胸を高鳴らせるのだった。