炎魅子vs久遠 禍々しき魔神の恐怖！⑤　作：はにわ改

　
ーー１ターン目から、ともすれば倒されていたかもしれない状況を潜り抜け、２ターン目を迎えた炎魅子。
久遠の『ベルフェゴール』の効果で手札は補充してあり、更に開始時のドローで、手札を６枚とする。

「ーースタンバイフェイズ！
フィールド魔法、『クリムレイト』の効果が発動！
フィールド上のモンスター全てに『バーニング・カウンター』を１つ置くよ！」

炎魅子のフィールド魔法、『煉獄の地 クリムレイト』。
互いのスタンバイフェイズ毎に、その効果が発動する。
対象となるのは、炎魅子の『バーニング・エッグ』、『イビル・ゲイザー』。
そして久遠の『ベルフェゴール』と「ベルゼブブ」、そして『腐食の眷属』トークン２体。
それら全てのモンスターに、『バーニング・カウンター』が１つずつ乗せられた。

「しつこいようで悪いけど、『バーニング・エッグ』の効果が発動するよ。
『バーニング・カウンター』が乗ったから、久遠に２００ダメージ、な？」

『バーニング・エッグ』には既に９個もの『バーニング・カウンター』が置かれている。
そして４度目となるダメージ効果が発動。
卵のような形をした岩の、ひび割れから噴きこぼれた火炎が、久遠に降りかかり、ダメージを与える。

これで残りライフは３２００。
先ほどは苛立ちから取り乱した久遠だが、今回は小馬鹿にするように鼻を鳴らすだけだ。

「ーーで？
結局、このデュエルって何なの？
お姉さまの差し金？」

「はぁ？差し金？
んなわけねーだろ」

「嘘。
だったら、なんで私とお姉さまの関係がどうとか、聞いたりしたのよ。
どうせ、お姉さまが炎魅子に話したんでしょ？」

「ばーか。
んな事は聞かなくたってねぇ、あたしや地影にはお見通しなんだよ。
何年付き合ってると思ってんだい」

「よく言うわ。
私とお姉さま、半年以上も見分けられなかったくせに」

「う・・・っ、そんなこと、まだ根に持ってたのかよ」

冷ややかに突っ込まれて、誤魔化すようににやける炎魅子。
久遠は呆れるようにため息をつく。

「ま、あれさ。
親友の姉妹が喧嘩してる、って聞いちゃ、ほっとくわけにもいかねぇだろ？」

「・・・炎魅子の悪い癖ね。
そういうお節介なところ。
前から思ってたけど、正直ウザいわよ？」

「ははは、お前こそ相変わらずひねくれてんねぇ！

・・・ま、そのウザいお節介もあと少しの辛抱さ」

「は？
どういうこと？」

皮肉に満ちた久遠の言葉に怒ることなく話す炎魅子。
その炎魅子がふと洩らした言葉の意味を訊く久遠。

「あたしは来年卒業だからね。
お前たちより一足先に、社会に出なくちゃならない。

ーーそうなったら、構ってやりたくても構えなくなるからねぇ」

「あ・・・」

久遠の表情が僅かに陰る。
普段から呼び捨てで呼び合う炎魅子だが、彼女は久遠たちより１つ年上。
そのたった１つの年の差が、この歳になってお互いの関係を隔てようとしている。

「ーーなぁ、久遠。
ここは１つ、賭けといかないか？」

「え、か、賭け・・・？」

やや動揺しているかのような久遠に、突然そう持ちかける炎魅子。

「このデュエルに負けた奴が、 勝った方の言う事を１つ聞くってのはどうさ」

「勝った方の言う事を・・・？」

「そう。
その方がお互いに本気になれて、盛り上がんだろ？」

ーーこの会話は、左右にいるクロエ、クリスの耳にも当然届いているが、やはり何も口を挟まない。
最初から二人の間を邪魔するつもりがないのか。

「炎魅子・・・私に勝つ気でいるの？」

「ったりまえだろ！
勝つ気がなかったらデュエルなんかしねぇよ」

何故か遠慮がちに訊いた久遠に対し、炎魅子が気合いよくそう口にしてみせると、不意にデュエル・ディスクに指を伸ばす。

「ーーメインフェイズ！
あたしは『バーニング・エッグ』の効果を発動！
このカードをリリースする事で、このカードに乗っていた『バーニング・カウンター』の数以下のレベルを持つ、炎属性・ドラゴン族モンスターを墓地から特殊召喚するぜ！」

モンスターゾーンから引き剥がすように手に取り、墓地へ送られた『バーニング・エッグ』。

「ーー『バーニング・エッグ』には９個のカウンターが乗っていたーー？」

「ああ。
だからレベル９までの炎属性・ドラゴン族モンスターを特殊召喚出来るってことさ！」

炎魅子は『バーニング・エッグ』による効果ダメージを与える傍ら、真の狙いはこのカードに『バーニング・カウンター』を貯めること。
そしてその布石となる手も、既に前のターンで打ってある。

「行くぜ、久遠！
あたしは墓地から、レベル８の炎属性・ドラゴン族！
『爆晶竜（バーニング・フレア・ドラゴン）』を特殊召喚！」

炎魅子の背後にある、『クリムレイト』が作り出す風景の一部である火山がけたたましい音を立てて噴火する。
すると炎魅子の背後の地は噴き出したマグマの海と化した。
そしてそのマグマが大きく脈打ったかと思うと、突如円柱状に噴き出し、マグマで出来た柱を生み出す。

そうしてその柱の中から姿を現す、炎魅子の『エース・カード』。
炎魅子の全力の一打が久遠に向かって放たれようとしていた。