最強タッグ？！深淵より出ずる者！　作：はにわ改

　
『ーーデュエル！』

三者の声が重なり、それをデュエル開始の合図とする。
部屋の奥に佇む『ラピス』を頂点として、左側に刹那、右側に透矢、と展開したトライアングル・デュエル。
水花を取り戻すため、透矢と刹那は協力して『ラピス』に立ち向かう。
対して『ラピス』は単騎で、二人を相手に如何なる戦術を見せるのか。
その巨大な力が今、明らかになろうとしている。

『ーー我のターン』

『ラピス』の先攻１ターン目。
このトライアングル・デュエルに於いて、全てのプレイヤーは最初のドローフェイズ及びバトルフェイズがスキップされる。

故に最初の手札は全員５枚。
『ラピス』は左腕の肌を変化させた不気味なデュエル・ディスクの、牙が生えた口のような部分から吐き出された５枚のカードを受け取る。

『ーー我はまず、場に２枚のカードをセットし……』

５枚のカードを見て、一瞬だが嫌らしい笑みを浮かべると、
その中の２枚を魔法・罠カードゾーンにセットさせた。

ーーそして。

『我は魔法カード、“深淵（アビス）”を発動』

発動されたそのカード。
フィールドに現れたそのカードから、黒い影のような帯が飛び出し、
地面を黒く染めていく。

「な、なんだっ！？」

「あ、あのカードは……！」

ただならぬ雰囲気を感じてか、焦燥を募らせる二人。
すると魔法カード『深淵（アビス）』がその効果を発動。
『ラピス』が最初の手札を受け取った口の部分から、カードたちが一斉に飛び出し、黒く染まった地面に次々と吸い込まれていく。

『“深淵”の効果。
これは手札を全て捨てて発動しーー』

『ラピス』が残りの２枚の手札を地面に投げ捨てる。

『我がデッキのカードを全て墓地に送る』

「デッキのカードを全て、だと？！」

ーー驚愕の効果。

そう、『ラピス』のデュエルディスクから吐き出されているカードは、デッキの残りのカードであり、それが『深淵』の効果で墓地へ送られているのである。

『この効果で墓地に送られたカードは、“アビス”の名の付くカードを除き、一切のプレイが許されず、
更に“アビス”と名の付く効果以外の方法で手札やデッキに加える行為、更に特殊召喚が行えなくなる』

『深淵』による、墓地に送られたカードに対する『枷』。
それはすなわち『深淵』と名の付くカード以外による再利用を封じる、というものであった。

やがてデッキの全てのカードが黒い地面に吸い込まれ、『ラピス』のデッキは『０枚』となった。

「だ、だってお前……そんな事したら次のターン、ドロー出来なくて負けじゃねぇか！」

倒すべき敵であるにも関わらず、思わずそんな事を訊いてしまう透矢。

『“深淵”の効果にはまだ続きがある。
我はこのデュエル中、ドローフェイズを永続的にスキップし、更にカード効果によるデッキからのドローを行えない』

「なるほど……ドローフェイズがスキップされるならば、デッキ切れによる負けはなくなるーー」

刹那が頷きながら呟く。

『それだけではない。
我のスタンバイフェイズ毎に、墓地のカードをシャッフルし、その後ランダムに墓地からカード１枚を手札に加えるのだ』

「な、何なんだ、その効果はーー？」

まるで『ラピス』だけに、新たなルールを課したかのような『深淵』の効果。
これまでにないその能力に、透矢はただ圧倒されているかのようだ。

『ーーふふ、そして。
この瞬間、我の場に５体のモンスターが特殊召喚される！』

「何っ？！」

『“深淵”を司る我が僕たち……。
それこそが“”Ａ・Ｄ（アビス・ドミネーター）”だ』

「Ａ（アビス）、Ｄ（ドミネーター）……？」

透矢はそれを聞いてすぐに思い出す。
先の大会会場で、水花とデュエルした相手が召喚したモンスター。
あれも確か『Ａ・Ｄ（アビス・ドミネーター）』の名を冠していた。
そしてそのモンスターこそが、突如水花に牙を剥き、その身柄を連れ去ったのである。

『ーー甦るがいい、我が僕よ。
ーー“アクティニオン”！
ーー“アフロディトイス”！
ーー“サードリウス”！
ーー“メガロディニクス”！
ーー“グラボイド”！』

『ラピス』が僕たちの名を呼ぶと、黒い地面が波打つように飛沫が上がり、
そこから５体の醜悪な姿をしたモンスターたちが一瞬見えたかと思うと、それは再び『ラピス』の足元の地面に溶け込んで姿を消してしまう。

そうして見ると、『ラピス』のモンスターゾーンには、裏側守備表示のモンスターが５体、並べられていた。

「一気に５体のモンスターを特殊召喚した？！」

「しかも、裏側守備表示……だと？！」

再三、驚愕させられる刹那と透矢。
それら５体のモンスターは一体どこから、どのようにして現れたのかまるで見当も付かない。

『ーーくす。
よく目に焼き付けよ、些末な人間たち。
これがお前たちの遊戯とは違う、真の“デュエル”ーーそして、“深淵（アビス）”の力だ』

『ラピス』がその力を解き放つかのように、その小さな身体から黒い瘴気が溢れ、それが刹那と透矢の周りの空間をも侵食する。

恐るべき『アビス』の力が、二人を圧倒しようとしていたーー。