地影vsメリッサ プライドを賭けた決闘⑦　作：はにわ改

　
「ーーよっし、朝霧の奴、押してるな！
このままイケるぜ！」

ーー観客席。
地影の戦いぶりのみに集中する透矢は早くも彼女が勝ったような言い回しを見せる。

「朝霧とは生徒会大戦以来、デュエルする機会がなかったからなぁ～、
近いうちにまた戦ってみたいもんだぜ！」

地影の実力は戦った透矢がよく知っている。
だから地影の勝利を信じて疑わない。
だが彼より地影を更によく知る二人、刹那と炎魅子。
その表情は何故か固い。

「・・・どうかねぇ」

「え、何っすか？先輩」

「あたしはむしろ、地影が攻めさせられているような気がするね」

「攻め、させられている？」

険しい面持ちで炎魅子語られた、意味深な言葉。
刹那もそれに頷く。

「ーーメリッサはここまでユニオンモンスターを使い、ただひたすらあの『エミリア』を守っているだけだけどーー」

「だけど？」

「あの子・・・そうすることで、墓地にユニオンモンスターを『貯めてるわ』。
さっきの『ハイパー・ジャミング』での、墓地送りも多分、その狙いに沿ったものだわ」

「墓地に・・・貯めてるーー？」

刹那の観察眼。
メリッサの狙いを大筋で見抜いているかのような語り。
だがそれだけでは透矢はその意味の全てを察する事は出来ない。

「透矢くん、忘れないで。
あのメリッサも代表に選ばれた生徒なの」

「・・・」

「このまま、何もアクションを見せずして終わるとは思えないわ」

そう言われて、これから始まるメリッサのターンに一抹の不安を覚える透矢。
ーーメリッサも、あのアルフレッドやシェリルと肩を並べる代表選手。
確かにそう考えれば、このまま終わってしまうような不様は見せないのだろう・・・。

「ま、でもこれはあくまで親睦デュエルさ。
メリッサもそこまで手の内を晒してはこないかもしれないねぇ」

炎魅子が緊張を解くように、背もたれに体重を預ける。
今日は言わば練習デュエルのようなものであり、本番はあくまで世界大会。
ならばメリッサもそれを意識して本気は出してこないかもしれない。

それはそれで理解出来るが、どんなデュエルにも全力投球を心掛ける透矢にはどこか納得のいかないものがあった。

そんな中、ふと横で地影のＰＣを預かった千鶴を見る。
今、デュエルしている地影の代わりに千鶴が内容を記録しているはずだが、千鶴の指が止まっていた。
遠くを見るような目で俯いている。

「千鶴・・・？どうした？」

「あ・・・」

「大丈夫か？指が止まってるけど」

「あ、あ・・・ご、ごめんなさい」

「い、いや謝らなくてもいいよ。
疲れたんなら、俺も手伝うぜ？
あんまり、コンピューター、分からねぇけどな、ははは」

「う、ううん・・・だ、大丈夫。
しっかりやらないとーー」

別に咎めたわけではないのだが、妙に卑屈な態度で記録を再開する千鶴。
その様子を見て、透矢はやはり真希の事を気にしているのだろうか、と窺っていた。
勘の鋭い刹那も、千鶴の様子から何かを感じ取っていたようだ。

「ーーそういや、刹那？
水花はどうしたんだ？」

「水花？」

透矢が気にしつつも聞きそびれていた事をここで聞く。
いつもなら刹那の膝の上にぬいぐるみのように座っている水花の姿がない。

「水花は・・・保健室に行ってるわ」

「保健室？
どこか調子でも悪いのか？」

「う、うん・・・でも、大丈夫。
その内、戻ってくるわ」

「そっか・・・久遠とアルフレッドもいないし、今日は何だかーー」

人が少ないーーそう言いかけて、止める透矢。
保健室に行っているという水花。
通訳を担当する久遠とアルフレッドだが、今は壇上にはいない。
どこに行っているのだろうか？

そして真希の不在。

寂しいわけではないが、物足りないという気分から違和感を覚えずにはいられない透矢だった。





ーーそして壇上。
メリッサの２回目のターン。
ドローして、手札は４枚。

ここからいよいよメリッサの本格的な戦いが始まる。

「ーーメイン、フェェイズ！
あたしは『エミリア』に装備された『幻影光子剣』の効果を使いまっす！」

「効果？」

「イエス！
このカードを破壊する、という効果を、です！」

「破壊ーー？」

『エミリア』が両手に持っていた刀身のない柄の部分のみの武器、『幻影光子剣』が砕け散る。
何とメリッサは自らそのカードを破壊したのだ。

「（本来、ユニオンモンスターは特定のモンスターに装備するか、解除して特殊召喚するか、どちらかの効果を適用出来る。
だがメリッサの『エミリア・ユニオン』は少し違う）」

「『遺失武装』が破壊されたので、『聖域』の効果で除外しておいた『遺失武装 Ｌ・Ｔ（ルナ・タブレット）・アーマー』を『エミリア』に装着！」

シェリルが横目で伺う中、『エミリア』にまたしても新たな『遺失武装』が装備される。
銀色の素材で造られた装甲が、薄着の『エミリア』を包み込んだのだ。
肩、手首、胸、股の部分に特殊な装甲が現れ、そして足の膝から下を包み込む厚い装甲で覆われた装備。
その足の部分に取り付けた装甲の踵の部分から、白い炎のようなものが噴射されると『エミリア』の身体が、メリッサの頭上へと浮き上がる。

「『Ｌ・Ｔ・アーマー』の装備効果で、『エミリア』の攻撃力・守備力が４００ポイントアップ！」

「（なるほどーー『聖域』の特殊召喚効果を能動的に使用するために、各ユニオン・パーツには自壊能力が備わっている。
つまり尚の事、あの『聖域』はメリッサさんのデッキに於いて、重要なファクターであるということですねーー）」

『エミリア』の攻守は、『Ｌ・Ｔ・アーマー』の効果によりそれぞれ９００となる。
だが装備を付け替えた程度に過ぎず、やはり地影の『ウルカニウス』や『ガイア・プレート』には遥かに及ばない。

「（あの『アーマー』にも何か特殊能力がありますね・・・一体、どんな効果がーー）」

だがあの自信満々なメリッサの態度。
当然、何かあるに違いないと読む。
まず疑うは『アーマー』の特殊能力だが、
メリッサにすればこれは『布石』を整えたに過ぎない。

「やりましたぁ！
これで準備完了です！」

「えっ？！」

「今、あたしのフィールドには『機巧司令官 エミリア』、そしてフィールドと墓地に合計５枚の『遺失武装』が存在するの！」

メリッサが跳びはねながら歓喜する。
それは彼女がここまで虎視眈々と行ってきた『準備』が完了したからである。
フィールドに『Ｌ・Ｔ・アーマー』を装備した『エミリア』、墓地には
これまでに使用した『遺失武装』が３枚と、『ハイパー・ジャミング』で送った１枚と合わせて計４枚。

すなわち場に『エミリア』、フィールド・墓地に計５枚の『遺失武装』パーツを集めたのだ。

「行くよ、チカゲ！
リバース罠カード、オープン！
『全武装合体（フルアーマー・コマンド）！』を発動！」

「うーーっ！？」

「自分フィールド上に『エミリア』、そしてフィールドと墓地に５枚以上『遺失武装』ユニオン・モンスターがある時に発動！
あたしの場のカードを全て墓地に送り、エクストラ・デッキから『真のエミリア』を特殊召喚するよ！」

「（今まで、装備を付け替えていたのは、このカードを発動するための『布石』ーー？！）」

メリッサがそのカードを発動させると、エミリアの真下の地面が光を発し、そこから破壊されたはずの『遺失武装』が次々と姿を現す。
そしてそれら全てが、『エミリア』に装着するべく意思を持ったように集う。

『連装式電磁加速砲（ツイン・レール・ガン）』が両肩に、
次にさっき１度は自ら破壊した柄のみの武器、『幻影光子剣（ミラージュ・セイバー）』、
更に背中に取り付けられた『八連装波動砲塔（タランチュラ）』、蜘蛛の足のような、８つの砲塔が片方４基ずつ、両腕の外から回り込むように生える。
最後に『空間歪曲場』。
再び小さな機械が『エミリア』の周囲に配置され、彼女の周りを緑色の障壁で包み込んだ。
そして元から装備されていた『Ｌ・Ｔ・アーマー』。
この５つの装備を以て、『エミリア』は最終形態をとった。

「ーー召喚！
『全無効境界（ディバイン・キャンセラー） エミリア』！」

姿自体は変わらないものの、別のカードとして生まれ変わった『エミリア』。
彼女が『本来の能力』を最大限に発揮させ、赤い光が瞬間的にメリッサと地影のフィールドを駆け抜けた。

「ーーうっ！
な、何・・・？
今のはーー」

瞬間的ではあったが、その光に目を眩ませた地影。
メリッサが懸命に布石を整えた上で特殊召喚された『真のエミリア』の能力。
その脅威の力が今、発揮されるーー。