真希vs千鶴 もう守られるだけじゃない　作：はにわ改

　
ーー次の日の放課後。

時は加速したかのように過ぎ去り、その時を迎えた。
すなわち、真希と千鶴のデュエル。
それは普段、毎日のように楽しみながらこなしてきたそれではない。
これからも千鶴がこのアカデミアに通えるか否かのデュエルである。

そんな大事なデュエルの試験官に、何故自分が選ばれたのか。
真希は朝から沈んだ様子で自問自答していたが、
何より千鶴がこの再試験を望み、そしてその相手は自分がいいという。
千鶴のそんな頑なな意志もまた、真希には分からずにいたが、他ならぬ千鶴が望むのなら、応えないわけにはいかない。

ーーそうして放課後の体育館・デュエル場。
戸惑いつつも覚悟を決めた真希は、特設デュエル場にて千鶴と向き合っていた。
特設デュエル場の傍らには透矢の姿もある。
二人の大事なデュエル、観客席などではなく、少しでも近くで見守りたいという思いだ。

そして観客席には炎魅子、地影、水花に加え、理事長のクロエ。
そして話を聞き付けた刹那の双子の妹、久遠の姿もある。
非公式のため、他に観客はいない。
というより、体育館に立ち寄る事が禁止されていた。

そんな中で今まさに始まろうというデュエル。
二人の近くに佇む透矢もまた、複雑な思いを抱えていた。

「ーー千鶴、しっかりな」

「うん・・・。
お兄ちゃんが近くにいてくれて心強いよ」

まず、千鶴に声を掛ける。
千鶴も緊張はしているようだが、両足はしっかりと地に付いており、震えた様子はない。
透矢は千鶴の笑顔を見て、ひとまず安心する。

「真希・・・」

「ーー大丈夫。
何とか、やってみせるから」

問題はやはり真希であろう。

透矢の呼び掛けにそう応えはしたものの、表情は厳しく強張ったままだ。
千鶴は、全力で立ち向かえばいい分、ある意味では単純である。
だが真希はーー。
透矢はもし、自分が真希の立場だったらこのデュエルにどう臨むべきか、考えていた。

デュエリストならば、どんなデュエルだろうと全力で戦う。
それは分かっているが、やはり人間同士、感情というものはそう簡単に割りきれない。

やはり千鶴を説得し、刹那に対戦相手を変えてもらう方が良かったのかーー。
今さらそんな事を考えても仕方がないが、透矢は辛さを一身に背負う真希を見守る事しか出来ない自分に歯がゆい気持ちを抱いていた。

ーーそして、同じく特設デュエル場の傍らで待機していた刹那が真希に近づいていく。
真希は刹那を睨むように見据えた。

「ーー真希。
言うまでもないけど、手心は無用よ。
全力を尽くして、戦いなさい」

「ーー分かってるわよ」

刹那も厳しい表情で、真希の視線を真っ向から受け止める。
まるで真希は千鶴ではなく、刹那とデュエルするかのような雰囲気だ。

「真希。
これは鳴瀬さんのためであるのはもちろん、何よりもあなたのためなの」

「あたしの・・・？
どういうことよ、それ」

「あなたのデュエル、見させてもらうわ」

それだけ告げた刹那は真希から離れる。
意味を読み取れない真希は、何を言ってるのか、と心で悪態をつきもした。

真希から離れた刹那は透矢の隣りに立つ。

「ーー隣りで・・・観戦していいかしら、透矢くん」

「あ、ああ・・・」

てっきり観客席で見るのかと思っていた透矢は意外に思いつつも、特に断る理由もないため、刹那の申し出をすぐに承諾する。
これで透矢と刹那は二人並んで、このデュエルを一番近くで見守ることとなった。

そんな刹那にずっと鋭い視線を送り続ける真希。
刹那はそんな視線を知ってか知らずか、ただ真希と千鶴、二人の間を見つめているようであった。

「ーーお姉ちゃん」

「あ・・・」

千鶴に呼び掛けられて、真希はその方向に向き直る。
千鶴は既にデュエルディスクを構えて、既に臨戦態勢。
ここに至ってなお、何故千鶴が自分とこんな形でデュエルしたいのか、考えていた。
あるいは千鶴に嫌われるような事をしたのだろうか、とさえ邪推してもいた。

「お姉ちゃん、本気で・・・本気で戦ってね」

「千鶴、ちゃん・・・」

「私、頑張るから・・・頑張って、お姉ちゃんを超えてーー」

超えてーー。
その先を語らなかった千鶴。
覚悟を決めたような千鶴の眼差し。
真希はその視線を自分に向けられているのが悲しかった。

そんな揺らぐ気持ちの中、真希はゆっくりデュエルディスクを構える。
デッキを納め、オート・シャッフル。
そして互いに最初の手札５枚を手に持ち、いよいよその時は来た。

『ーーデュエル！』

一方ははっきりと強い思いを込め、そして一方はどこか弱気。
普段ならば前者が真希、後者が千鶴、というところだが、今回は真逆。

実の姉妹のように育ってきた二人の本気のデュエル。

今、幕を開けるーー。