アルフレッドvs流石 竜の支配者！②　作：はにわ改

　
「ーーいてて・・・ったく、酷い目に遭ったな・・・」

殴られた頭を擦りながら、引っ掛かれた頬を指で触り、沁みるような痛みに顔をしかめる透矢。
炎魅子と地影の間に逃げてきた彼は、大きくため息をついた。

「けっけっけっ、モテる男は辛いねぇ」

「からかわないで下さいよ、先輩」

「だはは！ったく、お前が来てからほんとうに退屈しなくていいよ」

右隣に座る炎魅子が、透矢の首を抱え込むように腕を回しながら、笑い声を上げている。

「大丈夫ですか、遊戦名くん？
すごく痛そう・・・」

「ああ、大丈夫だよ。
悪いな、朝霧」

「お水持っててよかった・・・」

水で濡らしたハンカチで、患部を丁寧に拭いながら冷やしてくれる地影。
憮然としていた透矢だが、良心を備えた地影の気遣いは心のオアシスであった。

「お兄ちゃん、大変だったね？」

「まったくだ。
ったく、あいつら・・・」

透矢が座る座席の後ろで、中腰で立つ千鶴。
透矢はふと炎魅子の脇から覗き込むと、そこには不機嫌そうにそっぽを向く真希と刹那、
そしてしきりに吹き出すようにしている久遠の姿があった。

「あーあ、もうデュエル始まってるし・・・。
えーと・・・おっ！
流石は得意の『次元竜』デッキか！」

ひとまず場が収まり、ようやくデュエルに集中できると透矢が目を向けると、凌斗のターンは既に終わっており、彼のフィールドには十八番の『次元竜』の姿がある。
少し前に自分も凌斗の『次元竜』と戦っているから、その事を思い出してもいた。

「そういえばさ、先輩、朝霧？」

「うんあ？」

「何ですか？」

「二人は去年の大会に出たんだよな？」

これからアルフレッドのターンが始まろうとしている中、透矢は不意に二人にそんな事を訊く。

「ああ、それがどうかしたかい？」

「いや、アルフレッドがどんなデッキを使うのかな、ってさ」

『大会』とは世界大会の事。
アルフレッドが籍を置くワシントン・アカデミアとは、去年の大会の決勝で戦っているという。
それなら、彼がどんなデッキを使うかは二人は当然知っているはずだ。

その問い掛けに、地影が答えようとしたのだが。

「ーー彼はドラゴンデッキよ」

答えたのはいつの間に透矢の背後に移動していた久遠だった。
驚いたように透矢が見ると、久遠はにっこりと微笑む。

「へ、へぇ、ドラゴンデッキか。
てことは超重量級で押してくるパワー・デッキ、って感じか？」

透矢は今までの経験から、自然とそう口にする。
ドラゴン族モンスターは攻撃力の高いカードが多く、また展開力にも優れている。
強力なパワーを駆使して、相手を一気に打ち倒す爽快感、
また『ドラゴン』・『竜』というネームバリューから、愛好者は多い。

「いや、アルフレッドの場合は・・・技巧派、かねぇ」

「そうですね。
技とスピード寄りの編成で、相手を翻弄して・・・時にはドラゴン族のパワーで、一気に大打撃を狙ってくるーーそんなデッキですね」

「へーっ、そりゃ少し意外だな。

ん～、でもなんだか余計にわくわくしてきた！
エース・モンスターがどんな奴かも、すげー気になる！」

透矢の今までの経験とは、一線を画するような、炎魅子と地影の分析を聞いて、彼の目は輝く。
すると背後の久遠がそんな透矢の耳元に唇を寄せてくる。

「彼のデッキの特徴はそれだけではなくってよ？透矢くん」

「え？
まだ何かすげぇ特徴でもあるのか？」

甘い吐息を吹き掛けてくる久遠。
だが透矢は特に気にした様子もなく、更にアルフレッドの事を聞こうとする。

「それはね。
彼のデッキは、透矢くんと同じーー」

と、そこまで言い掛けて、背後に迫る不気味な気配を感じて口を紡ぐ久遠。

「ーーくぅーおぉーんんーっ！」

「あ、あら、お、お姉さま」

久遠の背後にいたのは、目が据わった刹那。
久遠は愛想笑いを向けつつも、額には汗がにじむ。

「まぁた透矢くんにちょっかい出して！」

「ちょ、ちょっかいなんて出してませんわ。
私はただーー」

背中でまた姉妹喧嘩を始めてしまう刹那と久遠。
透矢も刹那にそれは誤解だ、と伝えるべく口を開き掛けたがーー。

「ーーぐぎぇっ！？」

つむじ付近を狙った拳骨一閃。
再び襲い来る鈍い痛みに、透矢は激しく悶える。
やったのはこれまた忍び寄るように、いつの間にか背後に移動していた真希。
所謂、『ジト目』で透矢を見ながら口を尖らせている。

「ってぇなぁ！
何すんだよ、真希！」

「なぁによ、デレッとしちゃってさ、みっともない」

「してねぇよ！」

「嘘、先輩と地影に挟まれて、嬉しそうにしてたじゃないっ！」

「別に普通にしてただろーが！
お前こそ、さっきから何、ツンケンしてんだよ！」

「ふん・・・馬鹿透矢」

訳が分からん、と訴える透矢にふてくされたようにそっぽを向くだけの真希。
ここから注目すべきアルフレッドの戦術が見られるというのに、透矢はいまいちデュエルに集中出来ていないようだった。

「（やれやれ、見てるこっちは楽しいけど・・・本人たちは大変そうだね。
刹那もどこまで本気なんだか）」

「（こんな状態で世界大会、大丈夫なんでしょうか・・・？
先が思いやられますね）」

透矢たちの様子を観察していた炎魅子と地影が顔を見合わせると、苦笑いを浮かべた。
その表情は内心呆れつつも、何かを温かく見守ってもいるようである。




ーーデュエル場。
アルフレッドが後攻最初のドローによって手札を増やし、６枚とする。

「ーーリバース・カード、オープン！」

「え・・・？いきなりだな」

「永続罠カード、『次元昇竜（じげんしょうりゅう）』！」

手札を確認していたアルフレッドの意識を遮る、凌斗の不意を突くようなカードの発動。
『次元昇竜』は『次元竜』が除外された場合に、デッキから新たな『次元竜』を特殊召喚できるカード。
透矢戦でも使われた、『次元竜』デッキにおいて中核を為すカードである。

「ふむ・・・そうか。
俺のターン、続けるぞ」

「（ぜ、全然、動じてねぇ・・・。
先輩みたいに一々反応してくるのもアレだが、こいつの場合は張り合いがなさすぎるな）」

アルフレッドの反応の薄さに、肩透かしを喰らったような凌斗の表情。
相変わらずのポーカーフェイスで、沈着な佇まいのアルフレッド。

しかし一度、ここから動き出すや一気に凌斗を呑み込みにいった。
さながら、それは頭上を通りすぎる餌を、泥の中に身を潜めて一気に丸呑みしようとするする肉食動物のように。

「ーー俺は手札からモンスターを召喚。
出でよ、『竜操姫（ドラグーン・マイスター） フォルテ』！」

デュエル・ディスクに納められ、先陣を切るのは、軽量の黒い甲冑を装備した美しき黒髪の美女。
だが身の丈の倍以上ある巨大な槍のような武器を片手で持つ強靭さ、腕力。
本来、耳があるはずの場所からは後ろに向かって、長い角のようなものが生えている。
人の姿は纏うものの、その正体は人に在らず。
それは凌斗を睨む、切れ長のつぶらな獣の眼からも充分に感じ取れる。

レベルは１、攻撃力は不定の『？』。

「攻撃力が決まってない・・・？」

「ーー『フォルテ』の攻撃力は、このカードのレベル×１００となる」

いぶかしむように凌斗が聞くと、アルフレッドは淡々とそう答えた。
アルフレッドの説明の通りに考えれば、レベルが１の『フォルテ』の攻撃力は１００、となる。

「攻撃力、たった１００のモンスター、だと？」

わざわざ不定、とするからにはどれ程かと思いきや、消え入りそうな攻撃力。
だが『フォルテ』の力はこれだけではなかった。

「更に『フォルテ』のレベルは、このカード以外のフィールド上のドラゴン族モンスターの元々のレベルだけ、上がる」

「フィールド上のドラゴン族のレベル、だけ・・・？」

「君のフィールドの『次元竜』もドラゴン族。
よって、そのレベル、３がフォルテのレベルに加算される」

その能力により、フォルテのレベルは１に加算、３で４となり、
更に攻撃力も４００に上昇。
しかし未だ最低ラインから脱することは出来ていない。

「へへ、フィールドのドラゴン族モンスターに乗じて攻撃力が上がるとはいえ、たったの４００か！
それじゃ俺の下級モンスターすら、なかなか倒せないぜ？」

『フォルテ』を軽んじるよう、また挑発するような口振りを見せる凌斗。
だがモンスターの価値を決めるのは攻撃力だけではない。
そのモンスターだけが持つ能力、そしてサポート・カードを駆使してこそ、自分だけの最強カードが作れる。

アルフレッドのモンスターも、言うに及ばず。

「手札から魔法カード、『竜の懐柔（りゅうのかいじゅう）』を発動！」

発動されたその魔法カード。
するとすぐに凌斗の場の『次元竜 レギア』の黒いシルエットの身体が小刻みに震え出す。

何事か、と凌斗が眺めていると、突如レギアはアルフレッドの場へと移動し、身体を回転させて凌斗の方を向く。

「な、何だ！？」

突如反旗を翻し、アルフレッドのコントロールに置かれた『レギア』に、凌斗は大いに狼狽する。

『竜』を『操る』『姫』、『フォルテ』。
その名前が指し示す意味が、今明らかになろうとしていた。