炎魅子vs久遠 禍々しき魔神の恐怖！⑩　作：はにわ改

　
ーー久遠のフィールドに現れた、鮮血を思わせる濁った赤色の髪を携えた、色の濃い肌を持つ妖艶な美女。
だが頭から連なるように生えた６本の角と、『ベルゼブブ』並の巨体が示すように、その姿はあくまで下界の者たちを惑わす仮の姿に過ぎない。

ーー『混濁魔神 アスタロト』。
暴虐と憤怒を司る魔界の王。
身体に巻き付く鎖の両端には、無数の針が付いた鉄球が取り付けられている。

レベル８、攻撃力は２９００。
高い攻撃力に加え、凶悪な能力が炎魅子を襲う。

「ーー『アスタロト』の効果発動！
墓地の悪魔族モンスターの攻守を０にして、相手の場に攻撃表示で特殊召喚する！」

「（ーー来やがった）」

「私の墓地から『イビル・ゲイザー』を攻守０にして、炎魅子のフィールドに特殊召喚！」

『アスタロト』の効果が適用されて、また炎魅子の場に姿を現す眼球の化け物。
しかも攻撃力０で攻撃表示、

「攻撃力０のモンスターを無理矢理あたしの場に召喚して、『アスタロト』で殴ろうってか。
相変わらずえげつないねぇ」

「くすくす・・・あと、『アスタロト』の攻撃力は、『アスタロト』の元々の攻撃力より低い攻撃力を持つ相手モンスター１体につき、１０００ポイント、攻撃力がアップするのよ」

『アスタロト』の更なる効果。
炎魅子の場には攻撃力２８００の『爆晶竜（バーニング・フレア・ドラゴン）』と、攻撃力０の『イビル・ゲイザー』。
いずれも『アスタロト』の攻撃力２９００より下であるため、
その効果で２０００ポイントアップし、４９００となる。

ただ炎魅子のライフは７００であるということを考えると、蛇足な攻撃力だ。
あるいは圧倒的攻撃力でわずかなライフを削るという事に、一種の爽快感を味わおうと言う久遠の意地の悪さか。

ーーだが、炎魅子はそんな久遠のやり方を見抜いていた。
そのために用意した最後のリバース・カードである。

「行くわよ、炎魅子。
バトルフェイズ！
『アスタロト』で『イビル・ゲイザー』を攻撃！」

そして告げられる無情の一撃。

『アスタロト』が鎖に繋がった巨大な鉄球を振り回すと、それが『イビル・ゲイザー』に向かって投擲される。
攻撃力４９００のモンスターによる、攻撃力０のモンスターへの攻撃。
残り７００のライフどころか、原点のライフすら吹き飛ばす暴悪な攻撃。

炎魅子を応援する生徒たちの表情が一様に歪む。
『もう駄目か』とーー。

「リバース・罠カード、オープン！
『ダメージ・カウンター』！」

しかし、炎魅子は動いてくれた。
諦めていた生徒たちが一斉に声を上げる。

「自分のモンスターが、そのモンスターより攻撃力の高いモンスターに攻撃された時に発動！
互いの攻撃力の差の数値だけ、相手にダメージを与えて、攻撃モンスターを破壊するよ！」

炎魅子の最後のリバース・カード、『ダメージ・カウンター』。
その効果により、炎魅子が受けるはずの４９００のダメージがまるまる久遠へと跳ね返る。
瀕死の炎魅子が放った逆転の一打が決まったーー。

「ーー残念でした。
手札から『イビル・シェイド』を墓地へ送って効果発動」

「（あちゃー、引いてやがったか・・・）」

「フィールドに「混濁魔神」が存在する時に、手札のこのカードを墓地に送って発動。
相手の罠カードの発動と効果を無効にして破壊するわ」

久遠の手札から『イビル・シェイド』が墓地へ送られると、その瞬間に『ダメージ・カウンター』が砕け散る。
炎魅子は思わず苦笑いを見せた。

「なぁそのカードって今、引いたのか？」

「１ターン目に持ってたら後攻ワンキルを決めてるわ」

「・・・だよな。
ちぇ、持ってねぇと思ったから迎撃出来るつもりだったのに」

「でなきゃ、こんな自信満々に攻撃したりしないわ」

「『バーニング・コロナ』の時にスルーしやがって・・・。
こりゃイケる、って少しでも思ったあたしがマヌケじゃんか」

「お馬鹿さん。
あなたがどんなカードを伏せているかなんて、過去のデュエルからお見通しなの。
マスト・カウンターを見極めるなんて、簡単なことよ」

このターンのドローフェイズでドローしたという久遠の『イビル・シェイド』。
炎魅子は自らの勝ち運の無さに落胆し、久遠はさも当然、という表情で応えた。

ーー結局、『アスタロト』の攻撃は止まらず、鉄球が『イビル・ゲイザー』を打ち潰す。
同時に４９００の戦闘ダメージが炎魅子のライフから削られ、０。

ここでデュエルは決着した。
双方合わせて４ターンの短い戦いだったが、
二人が織り成した応酬は少なからず見ている者たちを満足させたようだ。

「（ま、やっぱり敵わないね、こいつら姉妹にゃ）」

一方、負けた炎魅子は悔しさを感じさせないさばさばとした態度。
ただ本人は惜敗とは思っておらず、完敗と感じていた。
何故ならば、結局最初から最後までペースを握っていたのは久遠だからだ。

「ふん・・・ま、退屈はせずに済んだわね」

柔らかい髪を悠然と揺らす久遠。

勝って当然、という勝者の貫禄に満ちた姿がそこにあった。