波乱の２回戦始まる　作：はにわ改

　
ーー翌日。
大会２回戦、その開催の時を迎えようとしていた。
その第一試合、日本校とアラスカ校の対戦。
日本校は前回準優勝の実績を残しており、アラスカ校は前の一回戦でニューヨーク校を瞬殺している。

回を進めれば内容も濃くなるだろう事を期待し、観客のボルテージも更に高まりつつあったのだった。


「ーーなぁ、刹那。
本当に大丈夫なのか……？」

ーー日本校陣営。

既にデュエル・スペースを間に、相手のアラスカ校と睨み合える位置。
今回、記録係である地影と千鶴を抜いた一同が集まる中で、透矢が刹那に不安そうに尋ねた。

「大丈夫よね、水花？」

「……（こくり）」

未だ額に包帯を巻く刹那に手を繋がれた小さな背の女の子・水花。
刹那の言葉に、無機質な表情で頷く。

今回、対アラスカ校に向けて選ばれたメンバーは、大将に刹那、副将に炎魅子、そして先鋒に水花。
いずれも前大会にて既に参加していて、ある程度の慣れがあるのは間違いない。
加えて、水花はこれでもジュニアでは敵無しの天才少女と日本で持て囃された存在である。

だが透矢には不安があった。
それは水花の実力に対するものではなく、言わば『メンタル面』においてである。

「昨日も言ったけどさ、水花ってほら……何て言うかさ、デュエルの時はテンションが変わるっていうかさ」

一度、水花とデュエルしている透矢。
水花は普段は無表情で無口だが、デュエルの時は人が変わったように感情を剥き出しにする。

「それに……ほら、事情が事情、だろ？」

透矢が刹那に耳打ちするように言う。
水花にはある人前で語れるような事ではない、過去の重い『事情』を抱えている。
それが原因で透矢とのデュエルでも、水花は一時『癇癪』に似た症状を見せていた。

刹那からその『事情』を聞かされてもいる透矢は、その事が心配なのだ。

「心配しないで。
もし、万が一、様子がおかしくなったら、すぐに棄権させるから」

「でも……さ」

「昨日も話したよね？
相手はかなり速攻で決めに来るタイプのデッキよ。
同じ速攻タイプの水花の力は必要不可欠なの」

思い出される昨日の作戦会議。

刹那・地影が中心となって話を進めていく中で、水花に白羽の矢が立ち、そして一同もそれに納得したのだ。
速攻には速攻。
早い動きを得意とする水花の出番だ、と。

「大丈夫、だよ……？」

「水花……」

「だから……応援、して？とうや」

水花が任せろ、と透矢に訴える。
小さな妹を心配する兄の心境である透矢。
だが本人がやる気とあっては、これ以上引き止めるのも、流石に気が引けるのだろう。
透矢は頷きながら、小さな頭を軽く叩いた。

「ーー水花。
これ、お守りよ」

そう言って刹那が懐から取り出したのは、青く光る石の周りを銀色の装飾で覆ったペンダント。
それを水花の首から吊り下げる。

「それは？」

「昨日、病院の帰りに買ってきておいたの」

「へぇ、良かったな～水花！」

まるで不思議なものを見るようにペンダントの石を触る水花に、透矢と刹那が笑顔を向ける。

「……ありがと、せつな」

「頑張ってね、水花」

感情を表さないから、見る者に感動も伝わらない水花の表情。
だが短くその簡素な御礼に、水花なりの感情は込められていた。

「ーーにしてもよ、向こうは本当に薄暗いっつーか、どんよりしてるねぇ」

炎魅子がそんな声を上げ、一同がアラスカ校の面々を見る。
炎魅子の言うとおり、３人の選抜生徒及び引率者らしき教諭は、全員俯くようにぼんやりと地面を眺めているだけで、とてもこれから世界大会のデュエルをする雰囲気には見えない。

「油断は禁物ですよ、先輩！
何せ、一回戦は相手を圧倒してましたからね」

「わーってるって。
でも如何せん、あんなテンションでやられちゃ、こっちもやりにくそうだねぇ……」

真希に釘を刺されるも、困ったような表情で頭を掻く炎魅子。
熱いところがある炎魅子からすれば、向こうの陣営は冷めきったスープのような、覇気の無さだ。

「炎魅子、私はあなたのデュエルに於けるクールな思考を買って、副将になってもらったの。
……信じてるからね」

「あいよ、任せときなって！
刹那こそ、大将戦しっかり頼むぜ？」

「ーー大丈夫。
最悪、水花、炎魅子のどちらかが勝ってくれればーー私が最後決めるから」

ーー自信。
それは決して自意識過剰ではなく、任せられるという安心感を一同に与える。
そしてそれが前を行く事になる水花・炎魅子に対する勇気にもなり、リラックスさせるのだ。

「ーーさぁ、始まるぞ。
ここはまだ優勝に向けての通過点に過ぎん。
だがこの一歩を踏み越えずして、目指す地平も見えてはこない。
各々、集中し、実力を出し切るのだ」

「はい、クロエ先生」

最後にクロエが声を掛けて刹那が頷く。
そして同時にいよいよ、大会進行役のＭＣが２回戦開始を告げ、両軍の先鋒に壇上に上がるよう声が掛かる。
刹那と透矢に背中を押された水花が、小さな足並みでゆっくりと壇上へと上がる。


「ーーあれは……まさか」

「間違いない。
『あの御方』が探し求めていた『神子（みこ）』だ」

「ーーどうしますか」

「どうもこうもない。
この好機を逃す手はない。
我々がこの大会に参加したのも、『神子』の身柄を確保するためなのだからな」

「ーー分かりました」

アラスカ校の面々が表情をそのままに小さな声で言葉を交わし合う。
そして引率者らしき者の言葉に、先鋒の人間が頷くと、
そのまま壇上へと上がり、水花と向かい合った。

「ーー世界大会などという茶番もここまでだ。
『神子』さえこちらの手で確保すれば、この世界も最早我らの手に堕ちたも同然。
くっくっく……」

引率者が怪しく嗤う。

今、正に始まろうと言う２回戦。
だがこれから予想だにしない事態が待ち受けているとは、
誰もが予測出来るはずもなかった。

ーーそれを『作戦』の一部と組み込んだクロエ・刹那を除いてーー。