透矢vsエリザ 偉大なる吸血鬼の力！④　作：はにわ改

　
ーー兜を脱ぎ、その素顔を晒した『守護の鎧』。
金色の美しい髪が『姫』の名に相応しい。
そして顔以外の全身を金色の鎧で堅く守り、正面には巨大な盾が３つ宙に浮かんでいる。

『不屈の闘姫 メルセディア』。
『守護の鎧』の魂を１つに重ねた真の姿である。

「あの戦士は・・・確か、水花の時に出てきたーー」

「はい。
高い守備力と、自分以外のモンスターに対しての防御能力を秘めた、鉄壁の戦士、ですね」

真希が記憶を辿ってそう口にすると、地影が頷く。
透矢と水花のデュエル。
水花の強力な攻撃を、この『メルセディア』が透矢への致命傷を回避させた。
そして守るだけが能ではなく、反撃能力も持つ優れた戦士である。

「ーー『メルセディア』の効果の１つ！
墓地の『守護の鎧』１体につき、守備力が７００ポイントアップ！」

「トーヤの墓地にそのモンスターは３体・・・。
つまり合計２１００ポイントの上昇かしら？」

「ああ！
元々の守備力と合わせて、メルセディアの守備力は４０００だ！」

素の能力値は据え置きだが、進化した効果により守備力が上昇。
守備力４０００という数値だけで言えば、神の攻撃さえも防ぎきれる。
故に生半可な攻撃では、『メルセディア』には指一本触れる事さえ出来ない。

「更に『メルセディア』にはまだ効果がある！

ーー１つ、よろしく頼むぜ？
『メルセディア』！」

『ーー任せられよ、マスター』

透矢の呼び掛けに『応える』、『メルセディア』。
すると腰に差していた長筒を取り出すと、エリザに向けて照準を合わせる。

「ーーバトルフェイズ！
『メルセディア』は守備表示のまま、相手プレイヤーに直接攻撃が出来る！」

「・・・要塞のような守りと、直接攻撃能力。
理想の組み合わせですわね」

「エリザに直接攻撃だ！」

引き金を引き、火を吹く銃口。
それはエリザの『ジル・ド・レ』と自我を失った『白銀の盾』の間を突き抜けて、エリザに命中する。

ーー直接攻撃を決めた『メルセディア』の攻撃力は６００。
エリザのライフは３６００に減るが、軽傷、と言わんばかりにまだ余裕さを失わない。

「ーーバトル、終了。
カードを１枚セットしてターンを終了ーー」

『白銀の盾』の攻撃を残しているが、『ジル・ド・レ』には遠く及ばず、またアンデットと化したとはいえ、エリザの『白銀の盾』も１ターンに１度戦闘で破壊されない効果を有する。
よって口惜しいがこれ以上の追撃はなし、と透矢はターンを終了させた。

「（『メルセディア』は出せたけど・・・『アリアス』は救えなかったーー。
でも、次のターンには必ずーー！）」

決意の眼差し。
だが透矢のフィールドにいる『白銀の盾』が彼を見つめたまま、何かを訴えるように首を振る。
透矢はそんな『白銀の盾』を見ると、彼女は穏やかに笑った。

（ーー『アリアス』は気にするな、と言っている）

（気にするな、ってーー）

（お前が『アリアス』を思う気持ちは私も嬉しい。
私も同じ思いだが、だからといってそれに縛られ過ぎるな）

（でもよ・・・）

（『アリアス』のために、万が一お前が負けるようなことになれば、あいつが何より悲しむ。
優先順位は決して見失うな）

（・・・）

『白銀の盾（アリアス）』の気持ちを代弁してくれた『女帝』。
透矢はそれに頷きつつも、こちらを敵視するように睨んでくる彼女を見ると、透矢はやはり心を痛めるのだった。

「ーーそれではわたくしのターン、ドローさせて頂きます」

そんな透矢の複雑な表情を捉えつつ、２回目のターンを迎えたエリザ。
手札を補充して、手札は４枚。

「スタンバイフェイズですわ。
永続魔法『吸血鬼の庭園（ヴァンパイア・ガーデン）』の効果を発動します」

「何だって？
まだ効果があるのか？！」

「わたくしのスタンバイフェイズ毎に、デッキから『ヴァンパイア』モンスターを１枚、手札に加えられますの。

わたくしは『純血の盟主（ノーブル・ヴァンパイア） ヴラド』を手札に加えます」

『吸血鬼の庭園』の３つ目にして最後の効果を使用し、新たなヴァンパイアを加えると共に手札を増強したエリザ。
彼女の進撃は続く。

「メイン。
『吸血鬼の庭園』の効果により、ライフを５００ポイント支払い、
手札から『純血の盟主 ヴラド』を特殊召喚しますわ」

メインフェイズ。
ライフを３１００に減らし、加えたばかりのヴァンパイアを即座に、自分のフィールドへと降臨させるエリザ。
虚空より突如現れた無数の小さなコウモリたちが人の姿を型どると、それが一瞬の内に彼の姿を作り出した。

盟主・『ヴラド』。

『ジル・ド・レ』同様に由緒正しき家柄を感じさせる正装。
手に血で造られたかのような細い刀身の剣を携えた、精悍な顔つきの男。
やはり見た目には人間と変わりない。

だがレベル８、攻撃力２８００と、低級・低俗なモンスターなど手もなく葬れる能力値を持つ。

「ーー『ヴラド』の効果。
このモンスターがフィールド上に存在する限り、攻撃力２０００以下のアンデット族モンスターは、相手プレイヤーに直接攻撃出来ますのよ！」

「な、何っ？！
こ、攻撃力２０００以下？！」

「驚きまして？

ーーでも驚くのはここからでしてよ。
わたくしは場のリバース・カードを発動」

「リバース・カード・・・！」

「永続罠カード、『赤い月（ブラッド・ムーン）』！」

『ヴラド』の凶悪な能力が明らかになると同時に、場に伏せてあったカードを発動させるエリザ。
赤い花が散りばめるフィールドを、更に空に浮かんだ赤く染まった月が同じ色に染め上げる。

「『赤い月』は『ノーブル・ヴァンパイア』がフィールド上に存在する時に発動可能ですの。
その効果は・・・１ターンに１度、デッキから『鮮血の人狼（ブラッド・ワーウルフ）』を１体特殊召喚出来ますわ」

「新しいモンスターをーー！？」

「お出でなさい・・・『鮮血の人狼』！」

『赤い月』に導かれ、エリザのフィールドに狂乱の叫びを轟かすそのモンスターが現れる。
筋肉質な人間の身体を剛毛な灰色の毛が覆い、顔は上側の犬歯が顎の下まで伸びる狼そのもの。
両手には鋼で出来たナックル・パートを装備し、そこからは爪のような鋭利な刃物が伸びている。

レベルは６、攻撃力は２０００である。

「くすくす・・・この『鮮血の人狼』も当然、アンデット。
更にこのモンスターと戦闘を行ったモンスターは、ダメージステップ終了時に破壊されますのよ」

「うぅ・・・」

「どうかしら、トーヤ。
わたくしのアンデット・・・いや、ヴァンパイア・デッキ。
少しは楽しんで頂きまして？」

エリザの場に並んだ、不死のモンスターたち。
中には『純血のヴァンパイア』の呪いの力でその仲間とさせられた『白銀の盾』の姿もある。
そして二人の『純血の吸血鬼』がそれらを支配ーーいや、フィールド全体を赤く染めて支配しようとしていたーー。