日米対決前哨戦 最終節 炎魅子vs久遠！　作：はにわ改

　
ーー時は進み、午後の部。
今日も五、六時限目の授業はなく、代わりにシェリル・メリッサによる交流戦。
だが二人はこの３日間、地影を含むアカデミアの挑戦者たちをことごとく打ち破り、無敗記録を打ち立てていた。
二人の実力もさることながら、それぞれ二百人以上とのデュエルを難なくこなした彼女たちの持久力もまた驚異の一言に尽きる。

ーーそして今、二人は最後となる挑戦者を同時に打ち倒し、ここに全勝を達成させた。

『ーーふぅ、やれやれ・・・少し、肩にきたな』

『そーう？
あたしはまだまだイケるよ？』

肩を揉むシェリルと、まだまだ体力が有り余っていると言わんばかりのメリッサ。
余裕の佇まいに、敗れた生徒たちはただただ言葉を失うばかりだ。

『ーーよし、ご苦労、二人とも。
観客席にて休め』

『は・・・？
観客席で、とは？』

『終わったら帰れるんじゃないんでーすか？』

審判兼通訳を務めていたシェリル・メリッサの統率役でもあるクリス。
そんなクリスの言葉に、シェリル・メリッサは訝しむような表情で訊く。

『この交流戦の締め、としてな。
最後に一戦、デュエルを行う』

『はぁ・・・それは初耳ですが』

『一体、誰と誰がやるんでーすか？』

二人も聞いていなかった、というクリスの意向。
するともう一人の審判・クロエと目配せを行うと、クリスは観客席のある方角へ目を向けた。

「ーー久遠！
決闘の舞台へと上がれっっ！！」

その先には透矢や刹那たちと少し離れた位置、アルフレッドが側に付く久遠の姿があった。
予期せぬ名指しに、久遠は目を見開く。

「は・・・？
何で、私が？」

まるで聞いてない、という久遠の表情。
アルフレッドに目を向けるが、彼も同様であるらしかった。

「ーー急げっ！
早くデュエル・ディスクとデッキを持って、壇上に上がるのだ！」

広い会場全体に響き渡るクリスの声。
何が何だか分からないが、久遠の本校教諭であるクリスの言いつけに逆らう事は出来ないらしく、眉をひそめつつも観客席を立ち上がり、準備へと向かう。


「ーーお、何だ何だ、久遠が呼び出されてるけど、まだ何かあるのか？」

「いえ・・・私も何も、聞いてないけどーー」

「刹那も・・・？
朝霧はーー？」

「いえ、何も聞いていません」

突然呼び出された久遠を見送りながら、何が始まるのかと期待に胸を膨らませる透矢だが、
水花を膝に座らせる刹那も、そして地影も何も知らない、という。

「あれ？
そう言えば炎魅子先輩は？」

「あ、そう言えば・・・戻ってきてない、ね・・・？」

次に真希が声を上げると、千鶴も気が付かされたように声を上げる。
どうやら少し前まで透矢たちと一緒にいたようだが、席を外したっきり帰ってきていないようだ。

「なんだ、なんだ。
刹那も朝霧も聞かされてないなんて、こりゃサプライズイベントの始まり、ってか？」

「・・・」

透矢が呑気な声を上げる横で、じっと考えるような姿勢の刹那。
さすがの彼女も、今回ばかりはこの突然の出来事の意図を図りかねているようだ。




ーー少しして、言われた通りにデュエル・ディスクを装着した久遠が壇上へと上がる。
生徒会長・刹那の双子の妹、久遠。
ここに来て以来、未だデュエルどころか、こうして決闘の舞台にすら上がっていなかった彼女の姿に、会場に残る観客たちがざわめく。

「ーークリス先生？
これは一体？」

「まだ分からないのか？
これから、お前にデュエルしてもらう」

「は？
デュエル・・・ですか？
それはまた唐突に、何故？」

当然、久遠はクリスに呼ばれた理由を聞くが、用向きの答えは至極当然と言えば当然。
ディスクを装着して、壇上に上がればすることはデュエルをおいて他にない。

「留学組でデュエルしてないのはお前だけだ。
たった一戦ではあるが、これも交流戦の一環だ」

「あら、それならば一言仰って下さればいいですのに」

クロエが続けて話すと、久遠は急な事にも関わらず余裕の姿勢を見せる。

「それで、相手はどなたですの？」

そして核心となる部分を突く久遠。
直前まで自分にすら隠していたこのデュエルの対戦相手とは、果たして誰なのか。
するとクロエ・クリスは久遠がやってきた方角と向かい側にあたる方を向く。

「ーーあんたの相手はあたしだよ、久遠！」

「炎魅・・・子？」

すると駆け足でやってきたのは、炎魅子。
そこまで驚いた様子は見せないものの、向かい際に立つ炎魅子の姿をまじまじと見る。

「ーー悪いね、久遠。
あたしがクロエ先生、クリス先生に頼んで組んでもらったのさ」

「炎魅子が？
なぁに？
そんなに私とデュエルがしたかったの？」

「まぁな。
ま、それだけじゃないけどね」

「どういうこと？」

「ここならお互いに逃げ場はないからね。
お前もあたしも。
デュエルが始まりゃ、決着がつくまでここから動けないんだ」

「・・・？」

何を当たり前の事を言うのか、という久遠の疑問に満ちたような表情。

このサプライズを仕組んだ、という炎魅子。
まさかただデュエルがしたかったわけではあるまい。
久遠は当然そう思い、親友・姉御として慕ってきた炎魅子の意図を探る。

「よし、二人とも。
デッキをセットしろ」

「セットしたら、互いに構えてーー」

クリス・クロエのその言葉に従い、二人は互いのディスクに自らのデッキを差し込む。
ディスクの機能の１つである、自動によるデッキ・シャッフルが行われ、それが終わると二人はディスクを水平に構えて一歩ずつ前に踏み出す。
そうして向き合った二人。

だが炎魅子は臨戦態勢を整えているものの、久遠はどこか真剣さに欠ける気持ちであった。

「ーー生徒諸君！
これより我がワシントン・アカデミアのナンバー１・デュエリスト、神楽坂久遠がデュエルを行う！」

クリスが観客席に向かって声を上げると、再び観客たちはどよめき立つ。

「そして我が校からは生徒代表として、生徒会副会長の紅月 炎魅子が出る。
諸君、二人の戦い振りを目に焼き付け、そして諸君のこれからの糧としてもらいたい！」

続けてクロエ。
一気に観客たちの意気は昇り始め、炎魅子の名を呼ぶ声が上がり始める。

「では・・・二人とも、準備はいいか？」

「あたしはいつでもいいよ！」

「どうぞ、始めて下さい」

クリスが最終確認をすると、二人は頷く。
そして二人の間、左右に向かい合うように立つクリスとクロエは、互いに頷き合うと、一斉に右手を上げた。

『ーーそれでは交流戦最終節！
デュエル、開始！』

『ーーデュエル！』

クリスとクロエの声が重なり、すぐその後に炎魅子と久遠の声が重なる。

ーー炎魅子が仕組んだというこのデュエル、
交流戦という名目の裏側に、彼女のどんな意図が隠されているのか。
注目のデュエルが始まったーー。