親睦戦終幕　作：はにわ改

　
ーー親睦戦、最終戦。
炎魅子と久遠のデュエルは、久遠の勝利で幕を閉ざした。

「（ふむ・・・さすがだな、久遠。
炎魅子でさえ、こんなにあっさり倒してしまうか）」

審判の一人、クリスは自分の生徒でもある久遠の完勝に、満足そうに頷く。

「（久遠め・・・五分、いや、四分程の力しか出してないな。

・・・ふ、この親睦戦はひとまず我ら日本勢の完敗、だな）」

もう一人、クロエが自嘲気味に小さく笑う。
今回の戦いと合わせて、シェリル・メリッサによるごぼう抜き、
更には前に遡って、アルフレッドも流石を相手に完璧な勝利を収めている。
クリス率いるワシントン校代表が、確実にその実力を示したと言えるだろう。


「ーーちぇ、負けたよ。
さすが久遠、相変わらずバケモノみたいな強さだな」

負けたというのに、満足そうな炎魅子は、明るい笑顔を見せながら久遠に歩み寄る。
対して久遠は真顔のまま、腕を組んだ姿勢で炎魅子を見ていた。

「デュエル、してくれてありがとな。
この機会逃して、お前がまたアメリカに帰っちまったら、もうデュエルなんて出来ないかもしんないからな」

「あ・・・」

「大会本番じゃ、今年こそお前と刹那の姉妹対決が見られるかもしんないな！
あたしにとって最後の大会、楽しみにしてるぜ？」

このデュエルに懸ける炎魅子の思いの一部分が、穏やかな表情と共に語られた。
デュエルの最中にも語られたが、炎魅子は来春には卒業の身。
先んじて社会に出る事になる彼女は、その前に久遠とのデュエルを純粋に望んでいたようである。

「さぁてと、約束だったな、久遠。
あたしにどうしてほしい？」

「え？」

「ほら、勝った方の言うことを負けた方が聞く、って約束したろ？
あたしに出来ることなら、何でもしてやるぜ？」

負けた炎魅子から、『賭け』の約束を切り出す。
すると久遠は少し目を反らすようにしてから、今度は炎魅子を睨むように見据えた。

「も、もう、私とお姉さまの事に余計な口出ししないで！」

「あぁ・・・そっか。
やっぱり余計なお節介だったか」

「ええ、全くもって余計なお世話よ！
いくら炎魅子でも、人の深いところまで土足で踏み込むような真似は二度としないで！」

「ーーオーケイ。
分かったよ。
もう二度と余計なお節介は焼かない」

気を立てて言い放つ久遠に、炎魅子も真顔でそれに応じた。
そして炎魅子に念を押すようにしばらく睨み付けたあと、久遠は踵を翻した。

「ーーお姉さまとは、大会できっちり決着をつけるわ。
私の方が上だと言うことをみんなに見せるために」

「ーーそうかい」

「炎魅子。
お姉さまの足を引っ張って、途中で負けたりなんかしたら許さないから」

「へっ！
誰にもの言ってんだ！
あたしゃこのアカデミアの副会長、炎魅子さまだぜ？」

「ふん・・・私に完敗しておいて、よく言うわ」

「うぐ・・・口の減らない奴だね！」

背を向けた久遠と話す炎魅子。
辛辣な久遠の口調ではあるが、炎魅子はどこか気持ちが解れたような表情で声を返している。

そうして炎魅子を置いて歩き出す久遠。
久遠はそのまま観客席にいる透矢たちのところへは顔を出さず、先にアカデミアを後にした。






「ーーいや～、負けちったぜ。
恥ずかしいトコ見せちまったね」

ーー観客席の透矢たちの所へと戻ってきた炎魅子。
頭を掻きながら照れ笑いを一同に見せる。

「いや、惜しかったっすよ。
さすが、先輩！
見応えあるデュエルでした！」

「そう？
ま、そう言ってくれると嬉しいけどね」

まず透矢、真希、千鶴が炎魅子を笑顔と小さく拍手で迎える。
だがすぐその間に割って入るように、腕を組んだ刹那が炎魅子を正面から睨み据えた。

「・・・炎魅子」

「わーった、わーった！
また勝手に動いて悪かったよ。
反省してるから、そんな怖い顔すんなって」

何かを言われる前に、愛想笑いで誤魔化そうとする炎魅子。
だが刹那は逃がしてくれそうにない。

「炎魅子。
久遠と何を話していたの」

「あん？
別に何だっていいじゃねぇか。
雑談だよ、雑談」

「私にも言えないの？」

「乙女の秘密、ってやつさ」

あくまで惚けた態度で白を切り通そうとする炎魅子。
すると刹那は透矢たちの目も気にしてか、諦めたようにため息をついた。

「もう・・・どうせ余計なお世話を焼いたんでしょ」

「にゃはは、それ久遠にも言われた」

「まぁいいわ。
その代わり手作りスイーツ、ご馳走しなさいね」

「はいはい。
お安いご用です」

矛先を納めた刹那を見て、炎魅子もほっとしたように胸を撫で下ろす。
二人の様子を気にしていた透矢たちにも、刹那からうまく誤魔化し、結局この事はうやむやとなった。


『ーーさて、私たちも帰るとしようか』

『イエース。
あたし、お腹空いちゃった！』

ーー立ち上がるシェリルとメリッサ。
親睦デュエルも終わり、生徒たちも少しずつ帰り始めている。
アルフレッドも久遠を追って、既にその姿はない。
自分たちも生徒たちに紛れて帰ろうとしたところだった。

『ーー待って、二人とも』

そんな二人を刹那が英語で呼び止めた。

『親睦デュエルも無事終わった事だし、これから私の家でささやかだけどお疲れ様のパーティーを開きたいの。
二人も是非参加してほしいの』

『ワォっ！
本当に？』

『ええ。
ここにいるみんなも全員参加してくれるわ。
本当の意味の親睦会をしましょ』

『感激！
もちろん、行く！』

メリッサはとても嬉しそうに飛び跳ねるが、シェリルは遠慮がちに刹那を見る。

『気持ちは嬉しいがーー迷惑ではないのか』

『気にしないで。
私の家、私と水花、それに久遠とアルフレッドの４人でももて余してるぐらいだから。
賑やかになってくれると、私も嬉しいの』

遠慮するシェリルをメリッサも後押ししてくる。
するとすぐにシェリルも有り難くその好意に応じた。

ーーその後、刹那の家で先に帰っていたアルフレッド・久遠も含めて慰労会という名目でパーティーが行われた。
久遠の雰囲気の重さはあったが、罰ゲームと称して炎魅子が自前でスイーツを作ったり、透矢たちも明るく振る舞った事で、刹那のいう本当の親睦も深められたのだった。