透矢vsエリザ 偉大なる吸血鬼の力！②　作：はにわ改

　
ーーエリザのフィールドに特殊召喚された『純血の貴人（ノーブル・ヴァンパイア） ジル・ド・レ』。

貴族社会の人間を着るような、襟にレースを巻いた白い服の上に、赤紫色の厚手の上着を着込み、
更にその上からは黒のマントを羽織った端正な顔立ちの男。
波打つような長い金髪は一見女性と疑わせるような柔らかさである。

「こいつが・・・ヴァンパイアーー？
人間と変わらないな？」

眷族であるコウモリを一匹、肩に乗せた様は確かにそれらしき雰囲気は醸しているものの、
見た目は普通の人間と変わりない。
例えば肌の色にしても、ヴァンパイアと聞けば血の通っていない青白い肌を連想させるが、
彼はクリーム色を思わせる、温かささえ感じさせる肌色である。
何より吸血鬼という存在が、見る者にもたらす畏怖感のようなものがまるでない。

「ーー彼は『純血』のヴァンパイアですわ。
生まれながらにして、ヴァンパイアの血という呪われた運命を背負った・・・れっきとした人間ですの」

「人間・・・」

「多分トーヤや、皆さんが思い浮かべているヴァンパイアの姿は、１度死を迎えた人間が、そのヴァンパイアの『血』の力で蘇った者たちですわ。
純血のヴァンパイアは、姿形は人間と全く変わりありませんのよ」

「そ、そうか・・・詳しいんだな？」

「当然ですわ。
だってわたくしもその純血のヴァンパイアの血を引いているんですもの」

「え、えぇ・・・ま、マジか？
じょ、冗談だろ？」

エリザのまさかの正体を聞かされて、冗談とは思いつつも、透矢の背筋に冷たいものが走る。
そんな様を見て、エリザのオッドアイの瞳が怪しく煌めいた。

「あっははは！
冗談ですわ。
ヴァンパイアなんて伝説の生き物ですもの。
現代にそんな存在がいるはずありませんわ」

「だ、だよな。
そうだよな！
はは、はははは！」

「くす・・・今の反応、中々よろしくてよ。
トーヤって、からかい甲斐がありそうですわ」

「（うう・・・なーんか、最近俺の周りってこういう奴が多いよーな・・・）」

エリザの態度に既視感を覚える透矢。
すると後ろでは刹那が、前触れのないくしゃみに襲われたのだった。

「ーーでも、見た目は人間そのものでも、
その純血がもたらす力は、他のヴァンパイアの比ではありませんわよ、トーヤ？」

ーー純血のヴァンパイア、ジル・ド・レ。
レベル８、攻撃力２５００の最上級モンスター。
エリザが語ったヴァンパイアの伝説が語る、呪われた血の力が発揮される。

「ーーバトルフェイズ、行きますわ！
『ジル・ド・レ』で『白銀の盾』を攻撃！
ーー『鮮血の誓い』！」

突如、下される攻撃宣言。
『白銀の盾』も遅れを取ることなく構えたが、
『ジル・ド・レ』は一瞬の内にその姿を消し、次の瞬間には『白銀の盾』の背後に回り込んでいた。

「な、何っ！？」

目の前に現れた『ジル・ド・レ』の背中に驚かされる透矢。
すると『ジル・ド・レ』は『白銀の盾』の両腕を掴んで抵抗する手段を無くすと、
もがく『白銀の盾』の細い首筋に自らの『牙』を食い込ませたーー。

「ーーアリアス！」

『白銀の盾』が上げた小さな悲鳴。
透矢が彼女の名を呼ぶ。
『ジル・ド・レ』は左右２本の長い犬歯を『白銀の盾』の首筋に食い込ませたまま、喉を潤すように血を吸い続けた。
血を吸われる『感覚』に合わせて、『白銀の盾』は喘ぐような声を漏らす。

「ーーな、なんか・・・」

「みょ、妙にエロいっつーか、見てて恥ずかしくなる光景だねぇ」

「え、炎魅子さん！」

共に成熟した男女。
その男の方が女の首筋に歯を立てて、女が喘ぐ様。
それをまじまじと見つめる、真希、炎魅子が顔を赤くしながら言うと、地影は顔を紅潮させつつ、そんな炎魅子を叱りつけた。

ーーやがて、『ジル・ド・レ』が『白銀の盾』を解放すると、再び一瞬の内にエリザのフィールドへと舞い戻る。
解放された『白銀の盾』は噛まれた首筋を押さえながら、膝を付いた。

「だ、大丈夫か、アリアス！」

心配そうに声をかける透矢。
だが『白銀の盾』は応えてはくれず、悶えるように身体を震わせている。

「ーー『吸血鬼の庭園（ヴァンパイア・ガーデン）』の効果を発動します。
わたくしの『ヴァンパイア』モンスターが相手モンスターを攻撃した時、攻撃した相手モンスターの攻撃力の半分の数値だけライフを回復しますの」

一方でエリザは『吸血鬼の庭園』の二つ目の効果を発動させる。
攻撃された『白銀の盾』の攻撃力は１４００で、その半分の数値、７００が回復ポイントとなる。
エリザのライフは、『ジル・ド・レ』の召喚コストで５００ポイント失っていたが、
これによりそれを取り戻し、ライフを４２００とする。

「でも『白銀の盾』は１ターンに１度、戦闘で破壊されないぜ！」

未だに動けない（白銀の盾）を気配りつつも、透矢は『白銀の盾』のその能力を宣言し、彼女は凌いでくれたのだと言い聞かす。

だがーー。

「ーートーヤも聞いたことはあるでしょ？
ヴァンパイアに噛まれ、血を吸われた人間がどうなるかーー」

「え・・・？」

「呪われたヴァンパイアの血は伝染しますの。
つまりヴァンパイアに噛まれた人間も、同じヴァンパイアになりますわ」

『純血のヴァンパイア』、『ジル・ド・レ』の能力が今、明らかになる。
すると苦しんでいた『白銀の盾』が突如、自我を失ったかのように獣の叫び声を上げた。
透矢が戸惑う間もなく、『白銀の盾』は『ジル・ド・レ』に導かれるまま、エリザのフィールドへと居場を移す。

「あ、アリアス・・・」

「『ジル・ド・レ』との戦闘で破壊されなかったモンスターは、『ジル・ド・レ』の下僕、『ヴァンパイア』として生まれ変わりますの」

いつも穏やかに自分を見守ってくれていた『アリアス』が、赤く染まった瞳で透矢を睨んでいる。
口許にはヴァンパイアの証である鋭く伸びた犬歯を覗かせながらーー。

「これが・・・『純血のヴァンパイア』の力なのか・・・。
こりゃヤバい相手だな・・・くそ！」

『アリアス』を奪われた事で、心に炎をたぎらす透矢。
だが『純血のヴァンパイア』が持つという偉大な力はまだこれだけではないのだったーー。