大会、近付く　作：はにわ改

　
ーー親睦戦終了から３日後の日曜日。
透矢、真希、千鶴、そして刹那以下生徒会メンバーたちは、空港へと赴き、
そこでクリスと久遠以下３名のワシントン校代表たちがアメリカへ戻っていくのを見送った。

時は短いものだったが、シェリル、メリッサはそれなりに満足してくれたようである。

ただ刹那と久遠の双子姉妹は、傍目にはいつものように接していたものの、どこかよそよそしい雰囲気があるのを一同は感じていた。
そんな久遠に常に寄り添うように付いていたアルフレッド。
だがその事に敢えて触れる者はおらず、二校の代表たちは今度はアメリカの地、大会の場にて再戦する事を誓い、そして別れを告げた。

別れとはいえ、透矢たちも来週にはアメリカへ発つ事になっている。
すなわち一時の事であり、近々に今度は大会の覇を競うライバルとして相まみえるのだーー。


ーーそれから空港を後にした透矢たち一同は、神楽坂邸へとやって来ていた。
クロエは来週に控えた渡米に向けての雑務があるから、と別れて、透矢たち代表生徒のみの集いである。

透矢にとってもう何度めかになる神楽坂邸への来訪。
もう驚くことは無くなったが、自分を始め、７人のメンバーが家へ押し掛けてもなお広さを感じる、相変わらずの豪邸だ。

更に庶民の日常ではまず見掛けることはない、更級 蓮華を筆頭とする待女たちが出迎え、
そして飲み物と菓子を用意してくれる。
透矢同様にこの雰囲気に慣れていない千鶴は、柔らかいソファーに背筋を伸ばした張り詰めた姿勢で佇んでいた。

「さ、みんなこれを見て。
昨日、遂に届いたの」

空港から帰って来た身体を少しリラックスさせた後、刹那が本題とばかりに大きさの違う紙を２枚、皆に見せるようにテーブルに置いた。

「お、トーナメント表だね」

「トーナメント表、ってことは大会のかっ！」

炎魅子が第一声を上げると、透矢が身を乗り出して食い入るように見る。
広げられた２枚の内、小さな紙の方は大会運営本部からの案内通知。
そして４つに折り目が付いた大きな紙はトーナメント表。
全員の注目がその表に集まった。

「すっごい・・・こんなに多くの国の人たちが参加するんだ・・・」

「全１６ヵ国ね」

「世界にはこんなにデュエル・アカデミアがあるんだな・・・」

「まだまだ発展途上よ。
これからもどんどん、世界各国に新しいアカデミアを創設していくみたいだから」

トーナメント表を見ながら声を上げる真希と透矢に、刹那が答えている。
刹那の両親はデュエル業界にも深く繋がりがあるという話だから、こういった事情にも詳しいようだ。

「ーー１回戦は・・・イギリス校が相手ですね」

「おほっ、確か前も２回戦で当たったよねぇ」

地影が日本校の名前を見つけ、更に相手となる国の名前と両方を見て、炎魅子が過去を思い出しながら声を上げる。

「えーと・・・久遠のワシントン校は、山が分かれてるから、戦うとしたらーー決勝か」

「決勝まで３勝、だね、お兄ちゃん」

千鶴の声に頷く透矢。

２つの山、ＡブロックとＢブロックに分かれたトーナメント表。
Ａブロックに日本校、Ｂブロックにワシントン校の名前がそれぞれ刻まれている。

「んで？
どんな感じで勝敗が決まるんだ？」

「準決勝までは３名ずつ選抜の、１対１デュエル方式。
２勝したら勝ち、ね」

「３名選抜か・・・。
俺たちはえーと・・・水花も入れて６人いるわけか」

「うん、参加可能メンバー上限ぴったり。
あとはこの６人でうまくローテーションを組むわ」

「了解」

「透矢くん、真希には早く雰囲気に慣れてほしいから、１回戦から行きたいな。
期待してるわよ、二人とも」

「任せろ、望むところだぜ！
な、真希？」

「う、うん・・・。
でもやっぱり緊張しそうだな・・・」

透矢の質問に答えていく刹那。
初参加となるとなる透矢と真希。
透矢はどんな状況でもデュエルさえ出来れば、という感覚だが、
真希は想像出来ない状況に不安げだ。
そんな真希を千鶴が応援し、炎魅子が自分たちだってまだ２回目だから、と不安を和らげてくれる。

「で、決勝は？」

「決勝戦だけ特殊で、４対４なの」

「４対４？
引き分けになったらどうすんだ？」

「１番最後、つまり大将戦だけ２ポイント入ることになってるの」

「あ、なーる。
でも変わったルールだな？」

「決勝に残ったアカデミアの大将戦だから重きを置く、という考えから作られた特殊ルールだそうです」

刹那と地影が透矢の質問に答えて、ようやくどんな形で進行していくのが分かっていく。
更に細かな内容を確認し、マメな地影と千鶴が用意していたノートにメモしていく。
千鶴はデュエルこそしないが、大会に於ける日本校のみならず、他校のデュエルの記録係を地影と共に務めるという大事な役を買っている。
そのため、既に前々から地影とは打ち合わせを重ねているようだった。

「ーーん？
この主催者の『神楽坂アミューズメント産業』ってーー」

「ああ、私の両親が経営する産業の１つよ」

「ってことは、この大会を取り仕切ってるのは刹那の両親なのか！」

「大したことはしてないわ。
開催者、ってだけで実質な運営は他の企業に丸投げしてるから」

「いや、大したことあるだろ・・・。
やっぱり刹那の親御さんってすげぇんだな・・・」

通知書に書かれていた主催の名に気付いて、刹那の両親が世界を股にかけた仕事をしているということに気付かされる透矢。

「ねぇ、ここも見て、透矢、千鶴ちゃん！
優勝賞金１０万ドルだって！」

「１０万ドルっ？！
・・・っていくらぐらいだ、それ」

「んーと、１千万円くらい？
ひょっとしたらもう少しもらえるかも」

「一千万かよ！？
そんなにあったら何パック買えるんだ？」

「まーた、あんたは！
どうしてすぐにそうやってカードの事ばかり考えんのよ」

「いやだって、カード大会の優勝賞金だぜ？」

「そりゃそうだけどさ・・・あんた全部カードパックに注ぎ込む気？」

透矢のよく言えばストイックな脳に、呆れる真希。
ただし優勝賞金はあくまでアカデミア側が納める事となるため、自分たちが貰えるのはせいぜいお小遣い程度、と刹那から知らされて、『なーんだ』となった。

「いや、にしてもさ！
全然、今まで実感が湧いてなかったけど。
こういうのを見ると、俺たち本当にアメリカまでデュエルしに行くんだなってさ」

「うん。
何だかちょっと信じられないよね」

ーーひとしきり話が済んだところで、透矢と真希がそんなことを口にする。
少し前までは、アメリカで世界大会どころか、そもそもアメリカに行く事すら考えられなかった。
渡米してデュエルをしている自分の姿が思い浮かばないのは当然だろう。

「ーー頼むぜ、二人とも。
ウチが優勝出来るかどうかは、お前たちに懸かってんだからな！」

「分かってます！
気合い入れて行くぜ！」

炎魅子が二人の背中に立って、その肩を叩きながら勇気づけると、透矢はそれに力強く応えた。


ーーそうして大会まで。
一同はその準備・支度に追われるような時間を過ごし、あっという間にその時は訪れたのだった。