死闘、決着　作：はにわ改

　
ーー全身を覆う、黒のボディスーツの上に白い甲冑を纏う女騎士。
額には数字の『６』を３つ重ねた不思議な痣が刻まれていて、白と黒が入り交じる髪がそれを見え隠れさせている。
そして何より、見る者全てを圧倒するその存在感。
『アリアス』ら後進の騎士を束ね、指揮する『女帝』と呼ばれるようになった以前、
戦場に立っていた頃は『剣聖』・『剣帝』とも呼ばれた。

名を『アレクシア』。
ーー『ラグナシス・アレクシア』。

深淵の闇を斬り払うべく、今。
透矢というマスターの力の下、その大いなる力がフィールドに光をもたらす。

『ーー我が魂の“欠片”の能力。
通常召喚した“欠片”が墓地へ送られた時ーー』

「フィールド上に存在する『三騎士』、または『三騎士』を素材とするＴ・Ｆモンスターの攻撃力を２５００ポイントアップ！」

魔法カード『ラグナクロス・アドベント』によって墓地へ送られた『魂の欠片』、すなわち『女帝』の効果が発動。
それにより『ラグナシス・アレクシア』の攻撃力が、２５００から５０００へと上昇する。

最強の騎士に恥じぬ攻撃力を得たが、透矢は『ラグナシア』のカードを見て愕然とする事になる。

「だ……駄目だ、ラグナシア！
確かに攻撃力や守備力はテキストに浮かび上がったけど、お前の効果が『解放』されてないっ！」

そう。
効果欄のテキスト枠は全くの空白なのだ。

「俺の……俺の力が、足りないから、か！？」

透矢が思い出す。
『ラグナシア』は他のカードとはまるで異質なもの。
その能力を発揮するにはマスターである透矢の力が不可欠。
以前の刹那戦に於いては、彼の内にあるエネルギーを用いて、その効果の一部を解放させた。

ラグナシアはデュエルを重ね、透矢が成長すれば徐々にその力を解放出来るとも言っていたがーー。

「畜生……まだ、俺の力だけじゃお前の力を引き出してやれないのか！」

吐き付けるように透矢。
折角ラグナシアを召喚したのにこれではーーと、悔しさを滲ませる。

『ーー案ずるな、透矢。
確かに今のお前の力だけでは、まだ我の力を充分には引き出せない。

ーーだから、そのための“そのカード”なのだ』

「え……」

ーーラグナシアがそう語ったのを裏付けるように。
再び透矢の墓地が光を発する。
同時に飛び出したのはまたしても『ラグナクロス・アドベント』。
それが透矢のディスクの魔法・罠ゾーン、ラグナシアの後ろに置かれる。

『ーー“ラグナクロス・アドベント”の更なる効果。
我を特殊召喚した後、我の装備カードとなる』

『装備、カードだと？』

『ラピス』が反応を示すと、『ラグナクロス・アドベント』が発する光がラグナシアの身体へと移る。

『そしてこの効果で装備している間……。

ーー我の全ての能力が解放される！』

『な、何……っ！』

ラグナシアのカードに、急速にテキストが刻まれ始めた。
透矢の目に露になる、『最強』の称号に恥じないその能力。
初めて目にするそのテキストに、透矢は固唾を飲みながら内容を把握していった。

『ーー我の効果はまだ続く。
我のＴ・Ｆ召喚に成功した場合、デッキから“女帝”カードを一枚手札に加えられる。

ーーマスター』

「あ、ああ……！」

ラグナシアに促されて、透矢はデッキのカードを手に持ち、その中身を見る。
ーー数ある『女帝』カード。
一体、何を加えるべきなのか。

『（マスター……気付け。
“アビス・デザイア”の下にいる奴は、無敵に見えてそうではない……）』

ラグナシアは敢えて口を挟まない。
マスターならば必ず気付いてくれる、と。
勝利をもたらすキーカードの存在に。

ーーそんな中、透矢は厳選する。
何を加えれば、『ラピス』を倒せるのか？

そう考えていく内に、『あるカード』に目が留まった。

「ーーそうか……そういうことか」

透矢の中で全てが一本に繋がる。

ラグナシアの能力。
無敵の『アビス・デザイア』の唯一の死角。
そしてそれを衝くための『そのカード』。

「俺は……『女帝の聖剣 ラグナロク』を選択！」

『ふ……』

透矢の選択。
それが正しかったかは、ラグナシアが一瞬見せた笑みが物語っていた。

『ーーくす。
我はこの瞬間、“サードリウス”の効果を発動！
相手がモンスター効果を発動させた時、そのモンスターを破壊する！』

だがそのタイミングで『ラピス』も動いたのだ。
芋虫のような外見、頭部から複数伸びる触手、と異様な姿をした『サードリウス』がその効果を解き放つ。
過去のターンで、『白銀の盾（アリアス）』を葬ったモンスターでもある。

『ーー消えろ、女ぁっ！』

『サードリウス』の触手がラグナシアに向かって鋭く伸びる。
その先端は人間の皮膚を突き破り、肉を裂くほどに強力。
だがその触手が眼前まで迫りながら、ラグナシアの表情に焦燥はない。

「ーー俺は場の『蒼き槍迅』を墓地へ送り、ラグナシアの効果を発動！」

透矢の宣言と共に、フィールドから消える『蒼き槍迅（リューゼリッド）』。
同時にラグナシアの身体の前面に白い障壁が張られて、それが触手の侵攻を阻む。

『何だ……？』

『ーー小細工は無意味だと言った筈だ、“ラピス”』

「手札またはフィールドから、『三騎士』または『三騎士』を素材とするＴ・Ｆモンスターを墓地に送ることで、
相手の魔法・罠・モンスター効果の発動を無効にして破壊する！」

白い障壁の内側からラグナシアが右の手のひらを触手に向けてゆっくりと伸ばすと、まるで跳ね退けられるように触手は押し戻され、そのまま『サードリウス』の身体が突如砕け散る。

ラグナシアの見えない力によるものだろうか？
ともかくこれにより自身の効果は阻害されず、透矢は手にしたラグナシアの『剣』をそのまま魔法・罠ゾーンにセットさせる。

「『女帝の聖剣』をラグナシアに装備！
攻撃力を８００ポイントアップ！」

ラグナシアが何もない空間で、右手に何かを持つかのような仕草を取ると、そこに現れた彼女の専用の大剣。
攻撃力は更に上昇し５８００。
他の騎士とは一線を画す、比類無き力を数値にして見せつける。

『く……！
ーー“アクティニオン”！』

『ラグナクロス・アドベント』の時には発動出来なかった『アクティニオン』の効果をここで使う『ラピス』。
魔法カードの発動に反応し、そのカードを破壊する能力を持つがーー。

『ーー“メルセディア”、済まないな』

ラグナシアが声を掛け、『メルセディア』が頷く。
すると彼女が糧となり、再びラグナシアの効果を発動。
手にしたばかりの『ラグナロク』の切っ先を『アクティニオン』に向けると、そこから放たれた細い光線がその身体を撃ち抜き、破壊する。

『ち……っ』

「『メルセディア』、『リューゼリッド』！
お前たちの思い、無駄にはしないぜ！」

ラグナシアの無効能力はコストが払える限り、何度でも使用可能。
相手の抵抗を一切許さない驚異の能力と言える。

『くす……だが、どうするつもりだ？

我が“アビス・デザイア”もまた無敵。
“デザイア”を退けぬ限り、貴様の刃は我が身体を貫く事は出来ん』

『ラピス』の場に残るは『黒き太陽』、『アビス・デザイア』。
戦闘・効果に完全な耐性を持つ無敵にして堅牢なる守護神。
透矢はこのモンスターの攻略法にずっと頭を悩ませていた。

ーーが。

「ああ、確かにそのモンスターは無敵さ！
いくらそいつを何とかしようにも、倒す手段なんてねぇ！」

『ほう……？』

「だけどようやく気付いたんだ。
無敵なのはあくまでそいつだけで、
お前は無敵じゃねぇ、『ラピス』！」

『何を言ってる……？』

透矢が気付いた『死角』。
それがようやく明らかになる。

「俺は、『影縫いの微刃』に装備された『三剣の誓い』の効果を発動！
デッキから同名モンスターを墓地へ送り、攻撃力を４００ポイントアップ！」

ラグナシアの隣に佇む『影縫いの微刃（ベアトリーチェ）』。
彼女に装備されている『三剣の誓い』の効果により、攻撃力は２３００から２７００となっており、
更に今の効果により攻撃力が３１００へと上昇する。
前のターンにも行った事であるが、このターンに於ける狙いは攻撃力上昇ではない。

「続けて、『三剣の誓い』のもう１つの効果！
今の効果を合計２回使用したこのカードと装備モンスターを墓地に送る事で、デッキからカードを一枚ドロー！」

『三剣の誓い』と装備していた『影縫いの微刃（ベアトリーチェ）』の２枚が墓地へ行き、代わりに１枚の手札を得る。
だがその手札が何であるかはこの際、問題ではない。
『手札が１枚増えた』、その事自体が重要なのだ。

「みんな、ありがとう……！
みんなのお陰で勝利へのルートを見出だせたぜ！

ーー『ラグナロク』の効果発動！
手札を１枚墓地へ送り、装備モンスターの攻撃力を１０００ポイントアップ！
更に貫通効果を得る！」

『な……か、貫通、だと？！』

この態勢を築くのに、『リューゼリッド』、『メルセディア』、『ベアトリーチェ』、更に刹那が遺した『ガブリエル』の犠牲を要した。
だがそれらが１つに実を結び、今、ラグナシアの力が最高潮に高まる。

その攻撃力、６８００。
更に守備モンスターを攻撃した場合でも戦闘ダメージを与える、貫通能力を得たのだ。

「ーーバトル！
『ラグナシス・アレクシア』で、『アビス・デザイア』を攻撃！」

透矢の宣言に合わせ、ラグナシアが『ラグナロク』を頭上に構える。

『ーー“無尽”』

ラグナシアはその状態からまるで動いていないーーように『見える』。
だが突如として起きた風圧と、同時に発生した弧月の型をしたエネルギーの塊が瞬間的に『アビス・デザイア』を突き抜ける。

『ぐ……！』

凄まじい風圧に耐えながら『ラピス』は頭上の『デザイア』を見る。
だが再三言うように『デザイア』自体は無敵であるため、如何にラグナシアと言えども戦闘破壊は不可能である。
『ラピス』はそれを見て確認して、笑みを見せた。

『くす……“デザイア”は我らを照らし、世界を深淵に染める太陽。
それを破壊する事など叶わぬわ』

「ああ、分かってるよっ。

でもよ、貫通ダメージは受けて貰うぜ！
そいつの守備力は０だから、ラグナシアの攻撃力６８００ポイントそのままだっ！」

『それも無駄だ……。
我もまた“デザイア”の加護の下にある！
受けるダメージ２００ポイントにつき１枚、除外カードを墓地へ戻し、その戦闘ダメージをキャンセルさせる！』

『ラピス』の周りを蠢くカードたちが次々と、彼女の腕が造り出した『デュエルディスク』の墓地へと送られる。
その数、実に３４枚。
これにより６８００ポイントのダメージを０にして、かつ未だに６枚の除外カードを確保している。

『くすくす……そして、忘れるな。
我が墓地にカードが貯まるということは、“Ａ・Ｄ（アビス・ドミネーター）”の特殊召喚条件を満たすということ。
手札もフィールドにも貴様以外のカードを無くしながら、我が“Ａ・Ｄ”たちの進撃を食い止められるかっ？』

指差す『ラピス』。
だがラグナシアは澄ました表情のまま、剣を下ろしてそんな『ラピス』を見据える。

『ーー悪いが、お前にターンが還る事はない。
ーー我が第３の能力、発動』

「ラグナシアの第３の効果！
ラグナシアが戦闘を行ったバトルフェイズ中に、墓地の『女帝』を１枚デッキに戻す事でーー」

『我はこのバトル中、“フィールドのカードを１枚墓地に送る毎に１回”、攻撃回数を増やす事が出来る』

『な、何……？』

透矢が墓地から２枚ある『女帝』の内の１枚をデッキに戻し、更に２ターン前に伏せたリバースカードを墓地へ送る。
するとラグナシアは今度は両手に持った剣を右に下ろして、やや腰を下げた構えを取る。

『ーー再び眠れ、深淵の主・“ラピス”よ』

『ぐ……』

ーー同時。
ラグナシアの姿がその場から消えると、瞬間的に『ラピス』の背後へと移動する。
同時に発生した突風と共に『デザイア』に“遅れて訪れる”斬撃。
その威力は貫通し、『ラピス』の身体を袈裟掛けに斬り裂いた。

『がは……っ？！』

再度、６８００の戦闘ダメージ。
『デザイア』の能力を駆使しても、そのダメージを軽減しきれず、今度こそその一撃が『ラピス』に食い込む。
僅か９００に過ぎなかったそのライフが０を刻んで尽き、『ラピス』は膝を付いて口から血反吐を地面に撒き散らす。

『お前にこの世界での居場所はない。
我とマスターの力がある限り』

『ら、ラグナ、シス、あ、アレク……シア！』

『ラピス』が倒れた事で、『黒き太陽』・『デザイア』に亀裂が走り、内から弾けるように崩壊した。
それに合わせるように闇が晴れていき、フィールドは本来の姿を取り戻す。

「勝った……勝ったんだ、な……！
畜生……刹那、『お姉さん』……！」

ーー決着。
だが手放しに喜ぶなど、到底出来はしない。
ただ己のすべき事をやり遂げたのみ。
そこに至るには、刹那の覚悟・犠牲が無ければ到底たどり着く事は叶わなかったであろう。

透矢もまた、脱力感に襲われたようにその場で膝を付いた。