真希vs千鶴 もう守られるだけじゃない⑪　作：はにわ改

　
「ーーあたしのターン、ドロー！」

ーー３回目の真希のターン。
先の千鶴のターンに、『ヒステリック・パーティー』を犠牲にドローした１枚と合わせて２枚。

「（千鶴ちゃんの場の『小さな魔法使い』は全員攻撃表示ーー。
つまり『三姉妹』と『ペット竜』の攻撃を通せば、あたしの勝ち・・・）」

千鶴の場には攻撃力５０００の『マジシャンズ・レジェンディリア』、そして攻撃力２００の『小さな魔法使い』たちが３体。
そして千鶴のライフは２９５０。
千鶴のライフを０にするには、真希のモンスター２体で、『小さな魔法使い』を狙って攻撃を行う必要がある。

「（『三姉妹』の攻撃は十中八九、通る。
問題はーー『ペット竜』か・・・）」

『ハーピィ・レディ トライアングル・シスターズ』は攻撃時に相手の罠カードを封じる事が可能。
問題は『ペット竜』が通るかどうかだ。

「（千鶴ちゃんが前のターンで伏せたカード・・・）」

真希は読みを働かせる。
ーーとはいえ、いくら真希でもピンポイントでそのカードの正体を見極める事は出来ない。

だが千鶴のあの気迫に満ちた表情。
そこには絶対にこのターンを凌いでみせるという自信に満ちてもいる。

「（やっぱり・・・あのカードを使うしかないんだ。
千鶴ちゃんに勝つにはーー）」

真希は手札の２枚を見る。
正にこのデュエルを制するために引かせた２枚。
千鶴が先のターンで勝負を決め損ねたために、流れが真希に傾いたのだろうか。

「（ここまで頑張った千鶴ちゃんに勝たせてあげたい、けどーー）」

それは千鶴の首が懸かっている、というのもあるが、
それ以上に全力で立ち向かってきた千鶴に、永遠の目標と言ってくれた自分に勝たせてあげたい。

だがもう、そんな手心は加えない。

千鶴は成長したのだ。

そんな千鶴の成長を認める意味でも、手加減などしてはならない。

ーー真希は覚悟を決めた。
このデュエルに自分が勝った時の、その後の事についても全て。

「ーーバトルフェイズ！
『トライアングル・シスターズ』で『チコル』を攻撃！」

真希はメインフェイズを飛ばし、いきなりバトルフェイズへと移行する。
まずは『トライアングル・シスターズ』の攻撃。
三姉妹必殺のＸの型を成す熱線、『トライアングル・エクスタシー・スパーク』が放たれる。

「（罠カードは・・・発動出来ない！）」

千鶴は前のターンに伏せたリバース・カードに目を遣るが、『トライアングル・シスターズ』の効果で罠カードは発動出来ない。
だがこれは千鶴も覚悟の範疇。

Ｘの熱線がチコルを焼き尽くし、同時に戦闘ダメージが千鶴を襲う。

「きゃあああ！」

２５００もの戦闘ダメージ。
前のターンで回復していなければ耐えることはできなかった。
甲斐あって残り４５０、と首の皮一枚残す。

「続けて、『ハーピィズペット竜』で『マリル』を攻撃！」

だがそんな千鶴に止めを刺すべく、容赦ない追撃が下される。
『ハーピィ・レディ』の忠実な下僕である『ペット竜』が口を開き、その奥から光が漏れる。
ーー攻撃力２９００。
これを通してしまえば、千鶴は今度こそ耐えられない。

「今だ！
『聖なるバリア ミラー・フォース』！」

千鶴は粘る。
ここに来て用意していた策は、『ミラー・フォース』。
相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊するカード。
攻撃を迎撃する罠としては、最も知名度が高く、また決まった時の威力は随一。
どんなに攻撃力の高いモンスターであろうと、一掃できる破壊力だ。

もはや攻撃の止まらない『ペット竜』の口から光の熱線が放たれるが、その瞬間に千鶴のフィールドを透明の青白い光が覆い、その攻撃を拡散・跳ね返した。
跳ね返された攻撃は、真希のフィールドへと還り、その攻撃が真希の攻撃表示のモンスターを全滅させるーー。

ーーやったっ！

千鶴は素直にそう思った。
これで真希のモンスターが全滅すれば、きっとまた自分にチャンスが生まれる、と。
あの目標にしていた真希に勝てるーーと。

千鶴がそう逸るのも無理はなかった。

「ーー手札から速攻魔法、『融合解除』、発動！」

「融合解除？！」

だが真希はその先を既に見通していた。

『融合解除』は融合モンスターをエクストラデッキに戻し、可能ならばその素材となったモンスターをフィールドに特殊召喚出来る。
要は融合する前の状態に戻すのだ。

しかも速攻魔法であるため、まずその融合モンスターで攻撃し、そのバトルフェイズの最中に融合を解除し、戻した素材モンスターで追撃する、という戦術も採れる。

だが今回の場合は少し違う。

「『融合解除』の効果により、『トライアングル・シスターズ』をデッキに戻して、その素材となったモンスターを守備表示で特殊召喚！」

まず『三姉妹』のカードが真希のデッキへと戻され、墓地から３枚の『ハーピィ・レディ』を守備表示で３枚置く。
すなわち『ハーピィ・レディ』として扱う『レディ１』、『ライダー』、『ウィンガー』の３体である。

ーーここで迫ってきた『ミラー・フォース』によって跳ね返された『ペット竜』の攻撃。
『ペット竜』は自らの攻撃によって果てたが、『守備表示』で召喚した『ハーピィ・レディ』たちは間一髪難を逃れた。

「（うう・・・『ミラー・フォース』が避わされた・・・。
でもーー）」

真希の鮮やかな返し技で、『ハーピィ・レディ』たちは生き残った。
しかしながら、その『ハーピィ・レディ』たちは、全員守備表示。
一見、これ以上の追撃はないように見える。

あるいは３体のモンスターで守りを固めるつもりかーー。

「ーー千鶴ちゃん」

「え・・・？」

「これがあたしの、本気よ」

真希はそう語りかけながら、残された最後の手札の１枚を握る。
その仕草を見て、千鶴も察する。
場には３体の『ハーピィ・レディ』、いや鳥獣族モンスター。
すなわち真希の手札には既にあのカードがーー。

「手札から速攻魔法、『女王の大翼』を発動！
場の３体の鳥獣族モンスターをリリースして、デッキ・手札・墓地より、『疾風の女王（ハイソニック・クィーン） ミサギ』を特殊召喚！」

「ーーみ、『ミサギ』・・・っ！」

真希のデッキに眠る、彼女のエース・モンスター。
千鶴もその存在はよく知っている。

「（やっぱり、お姉ちゃんはすごい・・・）」

この場面で、『融合解除』と合わせてミサギを呼ぶカードを引き寄せた真希。
それは正に真希が持つ、紛れもない天性の素質。

ーー３体の『ハーピィ・レディ』、鳥獣族を生け贄に、真希のエース・モンスターが姿を現す。

『疾風の女王（ハイソニック・クィーン） ミサギ』。
荒ぶる風を自在に操る、強力な能力を持った女王。

レベルは８、攻撃力は２５００。

「すごい・・・カッコいい・・・っ！」

灰色の髪から二対の角が細く伸び、背中から翼を生やした逞しい女性。

こうして真希のエースと面と向かって立ち、千鶴は思わず素直な感想を漏らした。

「やっぱり・・・お姉ちゃんには敵わないな」

そして千鶴が眉を下げながらも笑い掛ける。
デュエルの行方を見切ったのだろう。
あと一歩、あと一歩が届かなかった。
だがそんな悔しさよりは、目標とする真希がここまで力を尽くしてくれた喜びの方が大きいようだ。

「大丈夫、千鶴ちゃん。
あたしと千鶴ちゃんはこれからもずっと一緒だから、ね」

「お姉ちゃん・・・」

真希が穏やかに笑い掛ける。

そしてふと透矢の方にも顔を向ける。
真希がなにかを語り掛けるように頷くと、透矢はその意図を察したか、頷いて返す。

「ーーバトルフェイズ！
『ミサギ』で『マリル』を攻撃！
『ブラッディー・ディスマーダー』！」

真希が最後のバトルを告げる。
ミサギが攻撃態勢に入り、手に持つ槍のような武器を振りかざすと、その周囲をいくつもの細い竜巻が囲む。

「ーー『ミサギ』の効果！
このモンスターが攻撃するとき、墓地の速攻魔法１枚につき、３００ポイントのダメージを相手ライフに与える！」

『ミサギ』の能力。
真希の墓地には３枚の速攻魔法が存在するため、合計９００のダメージ。
吹き荒れた風が千鶴を襲い、残り僅かなライフを奪い去った。
故に『マリル』とのバトルは最早必要ない。
攻撃態勢に入っていたミサギだが、その刃は『マリル』の眼前で静止する。
そして千鶴を見下ろすようにしながら、刃を納めると無言でその場から消え去った。

ここまで懸命に真希の猛攻を防いできた千鶴も、遂に力尽きた。
同時にこのデュエルの決着。

勝者は姉の貫禄、なのだろうか、真希が制するところとなったーー。