深き闇　作：はにわ改

　
『ーーぐわぁあああっ！？』

男の悲鳴が響く。
左手で手首を押さえた右手。
その手には今ドローしたカードと共に銀色の刃が突き刺さり、向こう側へと貫通していた。

銀色の刃、メス。
一体、何が起きて、男の手をメスが貫いたというのか。

答えはすぐに明らかになる。

舞がまるでボールを投げた後のような格好で、静止している。
舞が投げたのだーー。

「ーー『裏ワザ』、ありだったよねぇ？
・・・悪いけど、イカサマなカードはもう使わせないよ」

手にいつの間にか握られた何本かの銀色に光るメス。
彼女が着ているシャツの懐に潜ませていたものだ。

男がもがき苦しんでいると、貫かれたカードが縦に真っ二つに割れ、宙を舞いながら地に落ちる。
するとそれは黒い影となって、霧散するように消えて無くなった。

「ここからは『あたしがルール』だ。
また『闇のカード』とかいうイカサマなカードを使おうとしたら、同じ目に遭わせるよ」

『う・・・ぐぐ、ば、馬鹿な・・・。
“闇のカード”がーー』

「あたしは他の雑魚とは違う。
・・・よーく分かったろ？」

『（し、“死の天使”・・・っ！
そ、そんな・・・まさか奴までがこの世界に来ていたとはーー）』

メスを引き抜く男。
しかしよく見ると、その男の手からは血が流れていない。
だが未だに苦痛に喘いでおり、かなりの激痛を味わったのは確かなようである。

「ーーさ、もう一度ドローしな。
今のは『ノーカン』にしてやるよ」

『く・・・っ！』

「命が惜しくないなら、すり替えでも、イカサマカードを使うも、お前の好きにするといいさ。
あたしゃ別に構わないんだからねぇ？」

男を見下ろしながら、笑う舞。
『闇』に属するはずの男の目にも、その舞の笑いは悪魔の笑みに映った。

『ど・・・どろー・・・』

言われた通りに恐る恐るカードをドローする男。
引いてきたカードを見ると、それは何の変哲もない『魔法カード』。
しかし直後にそのカードに黒いカビが侵食する。

「・・・魔法カードを引いたようだね。
『ウイルス』発動！」

男のフィールドに今も生きる、『闇』と『魔』の『ウイルス』。
『闇のデッキ破壊ウイルス』によって指定された魔法カードをドローしたことにより、『ウイルス』が発動。
男がドローしたカードはそのまま崩れ去る。

「更に『メンゲレ』の効果が発動！
『ウイルス』カードによってカードを破壊されたプレイヤーは、１０００ポイントのダメージを受ける！」

舞の場にいる『メンゲレ』が長い前髪の向こうで、狂乱の笑い声を上げる。
すると黒いカビは、男の手から身体全体へと広がり、蝕んでいく。

『ーーんぐぎゃあああっ！』

身体をまさぐりながら、更なる苦痛に苦しむ男。
仮面を地に落とし、地面を転げ回る。
男のライフは１０００ポイント減り、残り１０００になった。

「あははぁん・・・。
お前のメインフェイズ。
お前はやることはないだろうが、あたしゃこのタイミングで、『リリー』の効果を発動！
ライフを５００、それを２回分払い、１回分につき５００、『リリー』の攻撃力をアップ！」

のたうち回る男の姿を眺めながら、なおも舞は残虐とも言うべき追撃を行う。
ライフを１０００払い、『リリー』の攻撃力をアップ。
舞のライフは５００になり、『リリー』の攻撃力は２５００へ上昇する。

「そして！
リバース・カード！
『闇のデッキ破壊ウイルス』発動！
『リリー』をリリースして、あたしは『罠カード』を宣言！
お前の場にあるその罠カードを、ウイルスが蝕むよ！」

デュエルに幕を下ろす一打。
『メンゲレ』の効果でサーチした２枚目の『闇のデッキ破壊ウイルス』が『リリー』を媒体に繁殖。
男の場には唯一残された使い道のない、リバース・罠カードがある。
それすらも新たに繁殖した『ウイルス』が蝕み、塵芥へと吹き消える。

「『メンゲレ』の効果発動！
『ウイルス』効果でカードを破壊されたプレイヤーに、１０００ポイントダメージを与える！」

『メンゲレ』が長い髪を振るわせながら、金切り声に似た狂おしい歓喜の声を上げる。
男の身体に更に黒いカビが繁殖した。

『ぐぇあああっ！？ぎっぎいえあああ・・・っ』

地を転がる男。
するとその男の身体全体から黒い影のようなものが、塊となって姿を現し、男の悲鳴に混じって獣のような声が聞こえる。
それは徐々に天に向かって消えていき、塊だったものは全て無くなる。
ーー男は動かなくなり、同時にライフが０を刻んだ。

ーー決着。
だが単に１つのデュエル決着以上に、舞は男に『憑いていた』ものを完膚なきまでに打ち倒した。

「一丁上がりぃ・・・ってか。
ーーはん！
イカサマ無しじゃあてんで話にならないじゃないか」

舞が足を進め、男の側に寄ると、
彼が落とした仮面を踏みつけて砕いてしまう。
周りの黒装束たちはその様を見て、恐怖するように身を引く。

「ーーさぁて、次はどいつが相手だい？
まとめてでもあたしゃ一向に構わないよ？」

舞が更に黒装束たちに向かって踏み出す。
だが黒装束たちに舞に立ち向かおうとする者は一人もいない。
今のデュエルを見て、様々な面に於いて太刀打ち出来ないと悟ったからである。

『ーーウフフフ・・・』

そんな時、舞の耳に『笑い声』が響いた。
小さな女の子のような笑い声。
舞が辺りを見回す中、黒装束たちの男が道を空けるように左右に散ると、そこにその声の主が立っていた。

「ーーお、お前ーー！」

『ーーウフフフ・・・』

ーー舞が最後に見た少女。
それはまさしく、自分たちが引き連れてきた『水花』の姿そのものであったーー。