真希vs千鶴 もう守られるだけじゃない②　作：はにわ改

　
「ーーわ、私の先攻！」

千鶴の先攻で始まったデュエル。
その掛け声には、彼女なりの気合いが込められていた。

一方、千鶴が手札を確認している間も真希は、いまいちデュエルに集中しきれずにいた。

「（何よ、刹那も・・・千鶴ちゃんもーー。
二人して『本気だせ』、『本気だせ』って・・・）」

この時、真希は苛立ちさえ感じ始めていた。
このデュエルを取り決めた刹那に対してもそうだが、千鶴も自分の気持ちも考えずに、『本気を出せ』とは何だ、と。

「（普段のデュエルなら・・・そんなこと言われるまでもないわよ！
でも・・・でも、このデュエルには千鶴ちゃんの首が懸かってんのにーー）」

このデュエル、自分が勝てば千鶴は除籍。
ならば本気を出すーーすなわち勝ちに行けるはずがない。
このデュエルに勝つということは、千鶴のために力を尽くしてきた自分を否定することに等しい行為だ。

「（どういうつもりなのよ！
千鶴ちゃんも、刹那も・・・！）」

真希は、透矢の隣りにいる刹那を睨む。
千鶴を除籍させたくないなら、うまく負けてみせろ、とでも言うつもりか。
それが、仮にも友達と言ってくれた自分に対する仕打ちか、と。
刹那はそんな真希の視線に、目を合わせようともしない。

「ーーわ、私は手札からも、モンスターを召喚！
『小さな魔法使い（リトル・マジシャン） チコル』をこ、攻撃表示！」

「あ・・・」

考え事をしているうちに、千鶴の掛け声が聞こえてきて、真希は我に返る。
千鶴のフィールドに、可愛らしい擬音と共にピンク色の煙が弾け、その中から魔法使い、というよりはそれらしい格好をした小さな女の子が姿を現す。
全身を隠すピンクのマントと、同じくピンクのとんがり帽子。
右手には先が星の形をしたステッキが握られている。
何より笑顔が屈託なく愛くるしい。
これが千鶴の操る『小さな魔法使い（リトル・マジシャン）』モンスターだ。

その内の一体、『チコル』。
レベルは２、攻撃力は２００である。
攻撃表示で置くには、あまりに非力すぎるモンスターであるがーー。

「か、カードを３枚セットして・・・えっと、え、永続魔法、『小さな魔法のお城（リトル・マジック・キャッスル）』を発動！」

千鶴の場に３枚のリバース・カード。
そして発動された永続魔法『小さな魔法のお城』。
千鶴の背後に重苦しい音と共に、カラフルに彩られた立派な造りの城が建つ。
ーーが、千鶴が入るにはあまりに小さい城であり、『チコル』のようなサイズならば丁度よい大きさである。

『お城』と合わせて、３枚のリバース・カード。
そこには非力な小さな魔法使いをサポートするカードが含まれているのか。

「た、ターンエンド、だよ、お姉ちゃん！」

先攻１ターン目に、バトルフェイズは許されない。
千鶴はターンエンドを告げた。

「（千鶴ちゃんはいつも通り、『小さな魔法使い』デッキか・・・。
もしかしたらデッキを変えてくるかなとも思ったけど、そんなことしないか）」

千鶴のメインデッキは、この『小さな魔法使い』デッキ。
真希にすればそれは百も承知であり、どんな戦い方をするのかも、日々の練習デュエルで知り尽くしている。

「（千鶴ちゃん、魔法と罠を伏せる時は気をつけなさい、っていつも言ってるんだけど・・・大丈夫かな）」

真希は不安になる。
千鶴は何気なくカードをセット・発動をしたが、その数４枚。
リバース・カードは確かに相手の動きを牽制する役割があるが、反対に常に注意しなければならない事がある。
それはーー。

「あたしの、ターン・・・ドロー」

真希のターン、ドローカード。
千鶴のそれに比べてやや覇気に欠けていると言わざるを得ない。
そしてそのドローカードを見て、思わず『あっ』と声を洩らしそうになる。

引いたカードは『ハーピィの羽根箒』。
不安的中、といったところか。
あるいは真希の持って生まれた天運が引かせたというべきか。
このカードは相手の魔法・罠カードを全て破壊する、有名な除去カード。
このカードがあるからこそ、カードのセットには気を配らないといけないのだ。

「（どうしよう・・・）」

真希は悩む。
もしこのカードを発動して、それが通り、
千鶴の魔法・罠カードを全壊、なんて事態にでもなれば、下手をすればこのターンで終わってしまう。
終わらないまでも、千鶴が壊滅的な被害を受けるのは明らかだ。

だがこの状況で『ハーピィの羽根箒』を握りながら、それを使わないのも不自然だ。
もし使わないまま手札に残して、デュエルが終わり、それが刹那の知るところとなったら、不信がられるに決まっている。

ーーどうするべきか？

「・・・お姉ちゃん」

「え、な、何？」

「大丈夫だよ。
私、頑張ってお姉ちゃんに付いていくからーー」

「千鶴ちゃん・・・」

「だからお姉ちゃんはいつも通り、戦ってほしいの。
それでもし、私が付いていけなかったら・・・『置いていっていいから』」

遠慮がちに、それでも笑顔を見せながら語った千鶴。
真希は揺らいだ。
どうしてそんなことを言うのか、と。
自分に大事な妹を切り捨てろ、とでも言うのかーー。

「ーーメイン、フェイズ！
手札から『ハーピィの羽根箒』、発動！」

決断の一手。
最後は自分のデュエリストとしての本分に従った、というべきか。

観客席からは声が上がる。
もしこれが通れば、その時点でほぼ終了。
真希が思ったように、それは同じ意見として一同が一致した。

「（千鶴ーーっ！）」

透矢も千鶴を見る。
果たしていきなりデュエルは終わってしまうのかーー。

千鶴の覚悟を宿した目が光る。