透矢vsエリザ 偉大なる吸血鬼の力！⑩　作：はにわ改

　
ーー残りライフ１００のエリザに引導を渡すべく、『メルセディア』が長筒の引き金に力を込める。
エリザのフィールドにモンスターはおらず、あるのは２枚のリバース・カード。
１枚は発動済みの『血の口づけ』であり、あともう１枚。
それがエリザの死命を決する１枚となる。

「ーーリバース・カード、発動させますわ！
ーー『死の超越』！」

「ここで発動か！」

エリザは発動させた。
『そのカード』を。
エリザのデッキに眠る最強のカードを呼び出すためのカードをーー。

「わたくしの墓地からレベル８以上のアンデットモンスター３体を除外して発動！
デッキより、『不死の女王（ノーライフ・クイーン）バートリー』を特殊召喚しますわ！」

地面から未知なる力で掘り出され、空中に浮く３つの棺桶。
それは『ヴラド』、『ジル・ド・レ』、『アンジェリカ』のもの。
そしてその棺桶の隙間から紅い血が滴り落ちると、それが『死の超越』のカードに注がれる。
やがてその血溜まりが禍々しいその形を作り上げていくーー。

「こ、これはーー」

その姿を晒したエリザの切り札。
人骨を組み上げて造られた玉座に腰を預ける、青白い肌を除いて髪から着ているワンピースのドレスまで、紅く染め上げられた姿。
そしてその玉座を下から４体の巨大な人体白骨が、抱えて持ち上げている。

ーー『不死の女王（ノーライフ・クイーン） バートリー』。
その圧倒的存在に透矢は圧倒させられる。

レベル１０、攻撃力は２０００ーー。

「これがエリザの・・・エースモンスターか！」

エリザは透矢のその言葉に肯定も否定もしない。
だが今までエリザが見せた純血のヴァンパイアとは、桁違いともいえる存在感から、エリザの最強カードに違いない、と確信していた。

「で、でもな、エリザ！
俺の『メルセディア』は相手のフィールドにモンスターがいても、直接攻撃が可能なんだ！
モンスターを召喚しただけじゃ、俺の攻撃は防げないぜ！」

エリザのフィールドを全てを埋め尽くすかのような、『不死の女王』。
だが『メルセディア』の攻撃から逃れる事は出来ない。

「承知してますわ。

・・・ですが、その前に『バートリー』の特殊能力が発動しますの」

「特殊・・・能力！」

「『バートリー』の特殊召喚成功時と、わたくしのターンに１度、墓地のモンスター１体を特殊召喚出来ますの」

「墓地のモンスターを・・・。

でも、そうやってモンスターを増やしても『メルセディア』の攻撃はーー」

「くすくす・・・止める方法はありますわ。

ーーわたくしは、トーヤの墓地から『三騎士 守護の鎧』を特殊召喚します！」

「なっ！？
俺の墓地からーー？！」

『バートリー』が立ち上がり、その身体を赤黒く渦巻く魔力が覆う。
そして伸ばした右手の指先を、上に向ける動作を取ると、
透矢のフィールドの地面から、棺桶が飛び出し、それがエリザのフィールドに移動する。
そしてその棺桶が開け放たれると、そこから『守護の鎧』が姿を現し、エリザの場で守備の態勢をとった。

「『バートリー』の効果で蘇ったモンスターはアンデット族となり、更に『バートリー』の攻撃力はフィールド上に存在するアンデット族モンスターの攻撃力の合計数値だけ上がりますわ。

ーーでも、そんな事よりも大事なのは、トーヤの墓地に『守護の鎧』が存在しなくなったこと、ですわ」

「しまった・・・それが狙いだったのかーー！」

「墓地に素材モンスターが１体以上いなければ、Ｔ・Ｆモンスターはその存在を維持できないーーでしたわね？」

エリザが笑う。

今、『バートリー』の効果で透矢の墓地から『守護の鎧』を特殊召喚したことで、透矢の墓地に『守護の鎧』は１枚も存在しなくなった。

よって『メルセディア』はその存在を維持出来ず、エクストラ・デッキへと帰るーー。
『メルセディア』は悔しそうな表情を残して、透矢のエクストラ・デッキへと還っていった。

「うふふ・・・そんなに終わりを急ぐものでもありませんわ。
私のライフは１００で、トーヤのライフも８００。
お互いに後がない、『ここから』が本当の勝負の始まり・・・そうは思わないかしら？トーヤ」

「へ、へへ・・・なるほどな。
そうかもしれないなーー」

エリザの言葉に頷く透矢。
だがエリザには余裕があるが、透矢にはそれはない。
お互いの気持ちには確実に差があった。

ライフをほんの一刻み、たった１００ポイントが削り取れなかった透矢。
今の攻撃に全力を込めていただけに、それが空振ってしまったのは精神的に大きなダメージである。

加えてエリザの場に君臨する、『不死の女王』。
果たして透矢はあの巨大なモンスターを倒せる余力はあるのだろうかーー。

「メイン２。
カードを１枚、セットしてターンを終了ーー」

いつまでも嘆いていても仕方ない、と透矢はこのターンにドローしたカードをセットして、ターンを終わらせた。
まだデュエルは終わらない。
一刻も早く気を取り直し、もう１度勝利を目指して、戦術を組み直さなくてはならない。

「ーーでは・・・わたくしのターン、ドローします」

だが透矢が勝つために最大の障壁となるだろう、このエリザのターン。
このターンを僅かなカードで凌ぎ、再び勝利へのチャンスを掴めるだろうかーー。

観客たちも固唾を呑んで見守る一進一退の攻防。
デュエルはいよいよ終盤戦へと突入するーー。