炎魅子vs久遠 禍々しき魔神の恐怖！⑧　作：はにわ改

　
「ーーリバース・カード、オープン！」

炎魅子の『爆晶竜（バーニング・フレア・ドラゴン）』の一撃が迫るその直前、久遠は用意のリバース・カードを放つ。
そのカードは全て、最初からここまでの流れを想定した久遠のコンボの真の終演の形であった。

「ーー『アスタロトの嘲笑』！」

「（くっ！！
やっぱり既に用意してーー！）」

炎魅子の顔が歪む。
序盤に久遠が『アスタロト』を墓地に送っていたから、炎魅子の中にもまさかという予測はあったのだがーー。

「私の墓地に『混濁魔神（カオス・デビル） アスタロト』が存在する時に、レベルの合計が８になるように私の場のチューナーと、チューナー以外のモンスターをリリースして発動！」

『アスタロト』、前の久遠のターンの一番始めに、自らの効果で墓地へ送られている。
そしてチューナーモンスターでレベル１の『イビル・バイター』、チューナー以外のモンスターでレベル７の『イビル・ブルーム』がリリースされて、『アスタロトの嘲笑』が効果を発動する。

「効果は・・・知ってるよね、炎魅子？」

「・・・互いのライフを入れ替えるーー」

「そ。
くすくす・・・。
せっかく残り７００まで削ったのにーー残念ね？」

『アスタロトの嘲笑』のもたらす効果は、何と互いのライフの入れ替え。
炎魅子のライフ４０００と、久遠のライフ７００がそっくりそのまま入れ替わるのだ。

二人の身体が赤い光に包まれると、炎魅子はまるで何かを吸い取られたかのような感覚を味わう。
そしてその光が二人の身体から飛び出し、フィールドの中央で交差し、
互いが放ったものが互いの身体に飛び込む。

結果、久遠のライフは４０００に回復し、逆に炎魅子のライフは７００に落ち込んだ。

「その後、『アスタロト』をエクストラ・デッキに戻す」

最後にエクストラ・デッキへと回帰する『アスタロト』。
炎魅子は苦々しげな表情で久遠を見た。

「最初からここまでーー全てお前のシナリオ通りだったってのか」

「くすくす・・・」

炎魅子の質問に答える代わりに、嘲笑を浮かべる久遠。
確かに先をある程度見通していなければ、『アスタロトの嘲笑』をこれ程効果的に使うのは無理がある。

「ーーくすくす、これが『私のデュエル』よ、炎魅子」

「あん？」

「私にとってのデュエル。
それは全て『遊び』でしかないの。
モンスターゾーンを埋め尽くしてみたり、今みたいにライフを『敢えて』削らせて、一気に回復してみたりーー。
見てる人も、何より私が楽しめるデュエルよ」

「へ、へへ・・・そうやって相手を見下して、楽しんでるわけか」

「そうよ。
だって私とまともに戦えるデュエリストなんて、お姉さまの他にいやしないわ」

絶対的な自信。
粗をつきたくても炎魅子には出来ない。
現にここまで久遠の思い通りにデュエルが進行してしまったのだから。

「ま、そのお姉さまも、あの程度のデュエリストに肩入れするようじゃ、程度が知れたって感じだけど」

「あの程度・・・って、誰のことさ」

「透矢くんよ」

横目で観客席の透矢がいる方向を見る久遠。
それを聞いた炎魅子が鼻を鳴らしながら笑う。

「お前こそ目が雲ってんじゃねぇか？
あいつを嘗めると痛い目に遭うぜ？」

「はん！
彼が？
私に痛い目を遭わせるですって？
笑わせないで、炎魅子。
彼なんて所詮、フレッドより遥かに格下よ」

「それはどうかねぇ？

ーーま、大会でその答えは出るさ」

「ふん・・・見なくても分かるわ。
彼にフレッドは倒せない。
みんな、過剰評価しているだけよ」

そこまで話して、炎魅子は敢えてそれ以上はその話に触れず、また中断しかけたデュエルに意識を戻す。

「ーーバトルフェイズの続き、行くよ！
『爆晶竜』で『イビル・ゲイザー』を攻撃！」

バトルフェイズ再開。
『爆晶竜』が口から放った火球が、目玉の化け物、『イビル・ゲイザー』を焼き尽くす。
『爆晶竜』の攻撃力２８００に対し、『イビル・ゲイザー』の攻撃力は２６００。
その差２００の戦闘ダメージとなるはずだが、炎魅子が使った『ヘルフレイム・クライム』の効果により、そのダメージは０になる。

「ーー『ヘルフレイム・クライム』の効果を受けた『爆晶竜』が相手モンスターを戦闘で破壊した時、相手ライフに５００ポイントダメージを与えるよ！」

久遠のライフが３５００に減る。
だがライフを回復した久遠には、微々たる一撃に過ぎない。
更に『爆晶竜』は『ヘルフレイム・クライム』の効果であと二回攻撃出来るが、久遠の場に残ったのは攻撃力３０００の『ベルゼブブ』。
残念ながらこれ以上追撃は出来ない。

「バトル、終了。
あたしはカードを２枚セットして、エンドフェイズ。
フィールド魔法『クリムレイト』の効果が発動するよ」

「好きにしなさいな」

「フィールド上に存在する『バーニング・カウンター』一個につき、１００、互いのプレイヤーにダメージを与えるよ！」

『クリムレイト』の炎魅子のエンドフェイズで発動する効果。
フィールドにある『バーニング・カウンター』は『爆晶竜』に乗った２個のみ。
よってお互いに２００のダメージが発生する。

どこからか放たれた２つの火球が、久遠にダメージを与え、ライフを３３００に減らした。

「ーー悪いけど、炎属性・ドラゴン族の『爆晶竜』をコントロールしてるあたしはダメージが０だよ」

「ふん・・・お互いとか言いながら、その実、相手だけにダメージを与える自分勝手なフィールド魔法ね。
炎魅子にはぴったりよ」

「何とでも言いな。
あたしはターンエンドだよ」

刺々しい言葉遣いを軽くあしらいながら、ターンを終わらせた炎魅子。
ライフを逆転されて、逆に追い詰められながらも、炎魅子にその焦りは感じられない。

対して久遠にとっては、このデュエルは既に終わっており、後はその終わりまでの手続きのようなもの。
ーー実際そうなのだろう。
既に久遠は最後まで見通しているようだった。