舞、夜の街を往く②　作：はにわ改

　
ーー数の多くない街灯、民家の光、そして月のわずかな光を頼りに暗闇でのデュエルが始まった。

日夜、その身を闇に隠し、デュエリストを狩る黒装束の男。
それに対するは日本の大会代表に引率として付いてきた養護教諭・舞。

人知れず行われるこのデュエルで、舞はどんな戦術を見せるのか。

「ーー先攻はもらうよ。

・・・とと。
う～ん・・・こう、両手が塞がっちゃあ煙草一本吸うのも億劫だねぇ」

舞の先攻。

ヘビー・スモーカーである彼女は、いつもその口に煙草をくわえている。
だが今は左手はデュエル・ディスク、手札が握られていて完全に塞がっている。
右手が塞がっているわけではないが、手札からカードを抜く役目がある。

ただそれは当たり前であり、デュエル中に煙草を吸おうとすること自体が問題なのだがーー。

「よし、ならこうしてやる。

あたしはカードを５枚セット！」

舞が動く。
何と初期手札の５枚全てを、魔法・罠カードゾーンにセットしたのだ。

「あたしはこれでターンエンドさ。

はは、これで手が自由になったね！」

『（５枚セットしてターンエンド、だと・・・？）』

ターンエンドを宣言したあと、颯爽と煙草を取り出す舞。
見ようによっては煙草を吸いたいがために、邪魔な手札全てをセットしたように見えるが、
黒装束の男は冷めた目で見据えていた。

『（伏せカード戦術かーー。
あの惚けた振る舞いは、俺を油断させるためのワナ、か・・・？）』

舞の行動を素直にそうとは受け取らない黒装束の男。

『俺のターン、ドロー・・・』

「あーもうっ！
点かないねぇ、この中古ライター！」

『（・・・舐めやがって）』

始まる黒装束の男のターン。
だが、舞は煙草をくわえて、火が点かないライター仕切りに点けようと苦闘している。
その様を見て、男は苛立ちを感じながらも、ある『策』を企てる。

男の右腕の袖に隠されたカード・ホルダー。
黒装束で隠れるため、相手からは見えないようになっている。
男はそのホルダーに予め仕込んでおいたカードと手札のカードを入れ替えようと画策したのだ。
言うまでもないが重大な反則行為である。

『（くく・・・手札に加えるのは“ハーピィの羽根箒”。
奴のリバース・カードを一掃してくれるわ）』

カード・ホルダーには実際のルールで使用枚数制限を定められた、強力なカードを中心として、幾枚か忍ばせてある。
これまで他のデュエリストを『潰す』時も、隙を見ては入れ替えを行い、優位に事を進めてきたのだ。

しかも今、舞は明らかな隙を晒している。
男はドローしたカードをすり替えようと、カードホルダーに手を伸ばそうとしたーー。

・・・が。

「あ、ドローした？
んじゃ、リバース・カード発動しとくわ」

『何っ？！』

「永続罠カード『真実の眼』」

相変わらずライターの火を点けようとしていた舞。
だが不意にその目が黒装束の方を向き、５枚の内の１枚を発動させる。

『し、“真実の眼”だとっ？！』

「そうだよ。
効果は知ってんだろ？
早く手札を公開しな」

『ぐ・・・っ！』

永続罠カード、『真実の眼』。
このカードが舞の場にある限り、黒装束の男は手札を公開し続けなければならない。

男はやむなくドローカードを加えた６枚の手札を舞に晒す。

「魔法、３枚に・・・罠、１枚。
それに効果モンスターが２枚、か。

ーーおっ、ようやく点いた点いた！」

『（こ、こいつ・・・っ！）』

カードの種類だけを簡単に確認した舞。
そしてやっと煙草に火が点いた事で、満足そうに口から白い煙を噴かす。

さすがに公開している手札をすり替えるわけにはいかず、男の反則行為は封じられてしまった。

『だ、だが、スタンバイフェイズ！
“真実の眼”の効果は俺の手札に魔法カードが１枚でもあれば、このスタンバイフェイズ毎に、ライフを１０００回復する！』

「んあー、そうだっけか？
ま、いいや、通し通し」

『真実の眼』のデメリットにより、黒装束のライフは上昇し、ライフを５０００にする。
舞は自由な右手の指で煙草を挟み、また豪快に口を開けて煙を吐き出させた。

『お、俺のメインフェ・・・』

「おーっととと、待ちなよ。
スタンバイの終わりにリバース・カードを発動するよ」

『な、何だと！』

「罠カード、『狂医学の実験成果』を発動！

その効果により『マッド・ウイルス』トークンを特殊召喚！」

舞が２枚目のリバース・カードを発動。
舞のフィールドに紫と黒で彩られた毒々しい細胞のような球体が姿を現す。

レベルは１で、攻守は共に０。
更にカード表示のないトークンモンスター扱いである。

「このトークンはね・・・『デッキ破壊ウイルス』カードを発動するための、リリースモンスターの代わりになってくれんのさ」

『で・・・“デッキ破壊ウイルス”だと・・・』

「くっくっく・・・つまり、こういうことさ。
更にリバース・オープン！」

３枚目のリバース・カード。
その正体はーー。

「『闇のデッキ破壊ウイルス』！」

「が・・・っ？！」

発動されたカードは何種類かある『デッキ破壊ウイルス』の１つ、『闇』。
男の口篭もった声が漏れる。

「攻撃力２５００以上の闇属性モンスターをリリースして発動！
魔法か罠、どちらかを選択し、
相手の手札、フィールド、３ターンの間にドローしたカードに宣言したカードがあればそれを全て破壊！」

『き、貴様！』

「あたしは『マッド・ウイルス』を代わりにリリースして、魔法カードを宣言！」

本来攻撃力２５００以上の闇属性モンスターをリリースしなければならないが、『マッド・ウイルス』はあらゆる『デッキ破壊ウイルス』のリリースモンスターの代わりとして使用できる。
『マッド・ウイルス』が舞の場から消えると、黒装束が握っていた魔法カード３枚が、カビが生えたように黒い『ウイルス』が増殖し、そしてそれらのカードを破壊してしまう。

『あ、ああ・・・俺の手札がーー』

「あーあ、いきなり３枚ハンデスは痛いねぇ。

ま、地獄を見るのはこれからだけどねぇ？」

『な、何！？』

「リバース・カード！
『広域大感染（パンデミック）』を発動！」

ーー舞の恐るべき戦術。
それが更に男を徹底的に苦しませる。

それが４枚目のリバース、『広域大感染』。

「『デッキ破壊ウイルス』を発動したターンに発動可能！
デッキから『デッキ破壊ウイルス』罠カードを墓地に送り、その効果を適用する・・・」

『お、お前・・・まさか、また！？』

「あたしは『魔のデッキ破壊ウイルス』を墓地に送り、その効果を適用。
相手の手札・フィールド・３ターンの間にドローした攻撃力１５００以下のモンスターを死滅させる！」

舞が選んだのは『魔』。
『真実の眼』によって黒装束の手札が分かる舞は、それに合わせた『ウイルス』を墓地に送れる。
黒装束の手札にあったモンスターはいずれも攻撃力が１５００以下。
よってその２枚も破壊されるーー。

『き、貴様・・・鬼か』

５枚の手札を一瞬にして奪われた黒装束の男。
思わず出た言葉がそれだった。

「ま、生徒相手にゃやらないけどね。
お前たちみたいな外道相手にゃぴったりさ」

『ぐ・・・』

「覚悟しな・・・ぐっちゃみそに叩き潰してやるよ。
あっはっはっはっ！」

吸い終えた煙草を再び黒装束の男に向かって投げつけ、高笑いを上げる舞。
その言葉に黒装束の男たちは背筋に寒いものを感じずにはいられなかったーー。