炎魅子・地影の気遣い　作：はにわ改

　
「（勝てなかったーー）」

勝利に喜ぶメリッサを温かい目で見守る地影。
その心中は暗い。
確かに地影のこのデュエルに於ける役割は、メリッサのデッキを偵察すること。
その点では、今回充分に役割は果たした。

だがやはり勝てなかったのは悔しい。
前回の大会でも敗れ、そして今回もまたーー。

敗因は何だったのだろうか？

攻めに集中する余り、守りが薄くなったのが原因か。
あるいはまんまとメリッサの思惑通りに動いた自分の甘さかーー。

「（まだまだ、ですねーー）」

地影は俯き、ため息をつくと、眼鏡の位置を立て直す。
敗因は何であれ、要は自分の実力が及ばず気合いだけが空回りしてしまった。

地影はこのデュエルを反省とし、自らの更なる昇華への糧とする事を心中で誓っていた。

「ヘイ、チカゲ？」

するといつの間にかすぐ目の前まで迫ってきていたメリッサ。
地影の手を取り、両手で握ってくる。

「デュエルしてくれて、サンクスでぇす！
とても楽しかったです！」

「・・・いえ、まだまだメリッサさんには及びませんでした。
修行が足りません」

「ノゥノゥ！
私の引き運が良かっただけ！
チカゲ、とっても強かったです！
チカゲの戦い方、とっても参考ににりました！」

慰めなどではなく、きっと本心からそう言ってくれてるのだろうメリッサ。
デュエルを楽しんでくれた。
そんな気持ちが伝わり、地影の気持ちも少し楽になる。

「次こそは・・・必ず、私が借りを返してみせます」

「Ｙｅａｒ！
大会でまた当たるのを楽しみにしてます！」

両手と両手が互いに強く握り合う二人。
その様を横目で見ていたシェリルは鼻を鳴らしながら小さく笑みを見せると、自らもまた自分のデュエルに決着させた。
これでシェリルは、地影とメリッサがデュエルしている間に、二人の生徒に勝利した事になる。





「ーーすみません、不甲斐ないところをお見せしました」

ーー観客席。
透矢たちの元へ戻ってきた地影は、親睦デュエルの一対戦に過ぎない自分のデュエルの敗北に対し、深々と頭を下げて反省の意を示した。

「どんまい、だぜ、朝霧！
次の大会本番でリベンジしてやれよ！」

「はい。
もうあまり期間はありませんが、本番までに調整しておきます」

「何なら、練習デュエル、いくらでも付き合うぜ？」

「ありがとうございます・・・と、言いたいところですがーー」

透矢の気遣いに笑顔を見せた地影。
だがすぐにそれはどこか悲しげな笑みに変わる。
間近で見せられた透矢も当然、その変化に気付いた。

「私よりーー千歳さんを気遣ってあげてください」

「真希を？」

「もし・・・体調こじらせて、大会当日まで長引いたら大変ですから」

「あ、ああ・・・そういうことか。
ま、あいつなら大丈夫だって。
すぐに元気になって、早けりゃ明日にでも顔出すさーー」

地影の憂いに対しても、呑気な態度で返す透矢。
そんな彼の頭に石で殴られたような、鈍く、そして快音とも言える響きが貫いた。

「い、痛ってーっ！
せ、先輩っ？
な、何すか、いきなりっ？！」

「あー、悪い。
なんかいきなり殴りたくなった」

「い、意味分かんないっすよ」

「女ってのは気分に左右されやすいもんなのさ」

「気分？」

「ま、それだけデリケートってことだよ」

「？？？」

何が言いたいのか、まるで理解できない透矢。
炎魅子は苛ついた様子で立ち上がると、今度は刹那を見る。

「ーーおい、刹那。
ちょっと、ツラ貸しな」

「炎魅子・・・？」

「話がある。
早く付いてきな」

行動にこそ出さないが、まるで無理矢理にでも引っ張っていこうという炎魅子の異様な強気。
炎魅子の荒々しい性格は知りはすれど、透矢も今の彼女の姿を見たのは初めてである。

刹那もそんな炎魅子の態度に何かを感じたのか、何も言わずに立ち上がった。
そして立ち去る二人。
一体、炎魅子は刹那にどんな話があるというのか。
透矢は妙にそれが気になって仕方がなかった。

「ーー鳴瀬さん、記録ありがとうございました」

「あ、はい！」

千鶴も透矢と同じ思いだったのだろう。
炎魅子の背を見送っていたが、地影に声を掛けられて、我に返る。
そして預かっていたＰＣを地影に手渡した。

「今日はもういいですから、下校して下さい」

「え、でもーー」

「ホームルームもありませんし、大丈夫です。
早く、お見舞いに行ってあげて下さい」

「朝霧先輩・・・」

千鶴もここに至って地影の気持ちに気付く。
千鶴はそれに応じるように頷くと、透矢に目を遣る。

「遊戦名くんも、今日は先に上がって下さい」

「え、でもまだデュエル終わってないしーー」

「まさか、鳴瀬さんを一人で帰すつもりじゃありませんよね？」

「わ、分かったよ・・・」

一方、何も気が付いていない透矢は地影の意向に渋るが、
地影が眼鏡の奥から視線を光らせると、その威圧に押されるように応じた。

かくして今日の親睦デュエルはそれからおよそ３０分以上に渡って行われる事になるが、透矢と千鶴は一足早く家に帰るのだった。
そしてシェリルとメリッサは淡々とデュエルをこなし、結局今日は１つも落とすことなく、その実力をまざまざと見せつけたのである。