透矢vsエリザ 偉大なる吸血鬼の力！⑨　作：はにわ改

　
「ーーわたくしはカードを１枚セットして、ターンを終了します」

３体の純血のヴァンパイアを従えながら、このターン透矢を仕留め切れなかったエリザ。
だが相変わらず余裕の態度は変わらず、緩やかな動きでカードを１枚セットし、ターンを終了させた。

それもそのはずで透矢とエリザのライフは４０００ポイントという差がついており、そしてその透矢の残りライフはわずか８００、と風前の灯火である。

「ーー俺のターン・・・ドロー！」

ただし透矢も、そこまで追い詰められながら、まだ気迫は失わない。
むしろ追い詰められて、逆に意気が向上さえしているかのようだ。

そして、このターン引いたカードとはーー。

「ーー俺は墓地から『メルセディア』の素材モンスター、『守護の鎧』を１枚デッキに戻して、手札から『女帝』を通常召喚！」

まず透矢がしたのは、２回目となる『女帝』の召喚。
『女帝』は場のＴ・Ｆモンスターの素材モンスターを墓地から１体、デッキに戻せば、リリース無しで通常召喚が可能。
１ターン前もこうして召喚したのだ。

透矢のフィールドに再び、異様な存在感を与える、『女帝』がその姿を晒した。

レベル７、攻撃力は２５００。

「ああ・・・『女帝様』。
何度見ても素敵ですわ」

勇ましい女性の姿である『女帝』を見て、再び感動に浸るエリザ。
前のターンにも、同じような態度を見せていた。

（ーーいよいよ、勝負に出る気だな、透矢）

一方、『女帝』はフィールドに出るなり、透矢に語りかける。

「（ああ・・・このままじゃジリ貧さ。
一気にケリを付けるぜ）」

（うむ・・・だが、気を付けろ、透矢。
あの女傑・・・まだ何か力を隠しているようにも見える）

「（へへ・・・マジかよ。
ラグナシアの予感は当たるからな）」

（・・・用心しろ）

「（ーー了解！）」

『女帝』こと『ラグナシア』が感じた不気味な気配。
透矢はそれにただならぬものを感じつつも、とにかくこのターンは前のターンから狙っていた戦術で攻めるしかない。
頭の片隅には留めつつも、透矢は更に動きを加速させる。

「ーー『アリアス』の効果、発動！
墓地の『白銀の盾』を１体、デッキに戻すことで、
俺はデッキから『女帝』を手札に加える！」

「（これで３枚目ーー。
トーヤ、『女帝』と『三騎士』を見事に使いこなしていますわ）」

『アリアス』の能力によって、３枚目となる『女帝』を手にした透矢。
エリザはそれを頷きながら、心中で感心していた。

「『アリアス』を攻撃表示にして・・・よし、バトルフェイズだ！」

「（トーヤの場には、攻撃力１４００の『アリアス』と、２５００の『女帝』ーー。
普通に考えるなら、『アリアス』で『ヴラド』を、
『女帝』で『アンジェリカ』をーーといった流れかしら？）」

バトルフェイズを宣言した透矢に、エリザは彼の動きを読む。

確かに『ヴラド』は前のターンに『影縫いの微刃』によって攻撃力が下げられていて、攻撃力は５００のまま。
攻撃力が低めの『アリアス』で充分に打倒でき、更に『女帝』で攻撃すれば２体のヴァンパイアを倒せる。

「（ですが、わたくしのヴァンパイアは倒されても何度でも復活する能力があるーー。
単純な攻撃ではこの状況は打破できませんわ）」

ーーと、そこまで考えてエリザは察する。
彼はそんな無駄とも言えるバトルを行うようなデュエリストではない、と。
ならばこのバトルフェイズで、一味違ったものを見せてくれるのだろう、とーー。

「（続けてで悪いけどーー頼む・・・『ラグナシア』）」

（分かっている。
これもお前の勝利のためだ）

「ーー『女帝』で、『ジル・ド・レ』を攻撃！」

『女帝』に１度、断りをいれてから、透矢はバトルを宣言。
標的は攻撃力が２５００、と『女帝』と互角の『ジル・ド・レ』。
攻撃力が下がった『ヴラド』や、『アンジェリカ』など、攻撃力で勝る相手がいながら、あえて『ジル・ド・レ』との同点バトルに挑ませたのだ。

「ーーわたくしはリバース・カード、『血の口づけ』を発動！
その効果により、『女帝』の攻撃力分のライフを回復しますわ！」

ーー『血の口づけ』。
前のターンでも使われたカードで、『ヴァンパイア』が存在する時に、相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、その攻撃力分のライフを回復する。
これにより、エリザのライフは７４００まで回復。
透矢を更に突き放す。
しかも『血の口づけ』は再びセットし直され、次のターンにまた発動可能になるのだ。

「構うもんかーー行け、『ラグナシア』！
ーー『アーク・ブラスト』！」

ーー『女帝』と『ジル・ド・レ』、互いの攻撃がぶつかり合い、やがてそれが弾けてお互いの身体を崩壊させる。

同点バトルによる同士討ち。
エリザがはっとする。

「これは・・・まさか、前のターンにした事をまた？」

「ああ・・・通常召喚した『女帝』が墓地へ送られた場合、フィールドに存在する『三騎士』か、『三騎士』を素材とするＴ・Ｆモンスターの攻撃力を２５００ポイントアップさせる！
俺は『アリアス』を選択！」

前のターンは『鮮血の人狼』によって道連れにされ、『女帝』の効果を発動させた。
そして今回は『ジル・ド・レ』と同士討ちによって、『女帝』が墓地へ送られ、再びその効果を発動させたのだ。

これにより『アリアス』の攻撃力は３９００へ。
『女帝』の力を受け取って、更に白銀の輝きを増した『アリアス』。
その剣に、力の全てを込める。

「『アリアス』で『ヴラド』を攻撃！
ーー『セイバー・オブ・ラグナシア』！」

『女帝』の力を受け取った『アリアス』が、かつてない気迫と共に『ヴラド』の身体を一閃のもとに斬り裂く。

「ーーうぅっ！
なかなか・・・強烈な一撃ですわ」

攻撃力の差は３４００。
同時にそれがエリザへの戦闘ダメージとなり、一気に４０００まで削る。
とは言っても原点に戻しただけで、まだまだエリザには余裕があるように見えたがーー。

「ーーまだだ！
リバース・罠カード、『ツイン・ソード・ストライク』を発動！」

「そのカードはーー！」

「戦士族モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動！
そのモンスターでもう一度続けて攻撃することが出来る！」

透矢が前のターンに伏せておいたカードがここで炸裂する。
次のターンのための布石としてカードを伏せる、透矢本来の味がここで出た。

「『アリアス』で『アンジェリカ』に連続攻撃！
『セイバー・オブ・ラグナシア、“ツヴァイ”』！」

透矢のフィールドに１度戻ることなく、『ヴラド』を斬り裂いた刃を返し、そのままの勢いで『アンジェリカ』をも斬り裂いたーー。

「う・・・っ！」

ダメージは１６００。
エリザのライフは更に２４００へ。
さすがにエリザの表情から余裕が消えた。

「まだまだだぜ！
『ツイン・ソード・ストライク』の効果を受けたモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊したとき、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える！」

『アリアス』の剣はまだ納められない。
『ヴラド』、『アンジェリカ』と連続して倒したその刃で、エリザをも斬り伏せたのだ。

「く・・・っ！
き、利きましたわよ、今のはーー」

『アンジェリカ』の攻撃力は２３００。
よってその数値分のダメージを受け、残りは１００。
首の皮１枚で生き残ったエリザだったーーが。

「ーーよし、ヴァンパイアは全滅した！
これで『呪い』から解き放たれる！」

「は・・・っ」

透矢が声をあげて、エリザは気付く。
未だ、自分は危機を脱していないということにーー。

そう、透矢の言うように、今この瞬間、『ヴァンパイア』は全て倒された。
それにより、エリザの罠カード『アイアン・メイデン』の呪いの棺桶に亀裂が走る。

「（『アイアン・メイデン』はわたくしの場にヴァンパイアモンスターが存在しなくなった時に、破壊されるーー）」

『アイアン・メイデン』は相手の効果は一切受け付けない強固なカードだが、ヴァンパイアモンスターがいなければその存在を維持できないのだ。

「復活だ！『メルセディア』！」

ーー亀裂が入った棺桶。
するとそれが一気に中から弾けて砕け、封じられていた戦士が甦った。

ーー『メルセディア』。
身体中を傷つけられながらも、不屈の闘志で渾身の力を振り絞り、呪われた拷問器具から遂に脱したのだ。

「だ、大丈夫か、『メルセディア』！」

『ーー大事ありません。
この程度の事で、私の意志は折れはしません』

脱がされた黄金の甲冑を着込み、透矢に応える『メルセディア』。
内側から伸びる針に、肌を貫かれていたというのに、まるで苦にしていない凄まじい胆力。
透矢は心配しつつも、こうして『メルセディア』を解き放ち、成さねばならない事をやり遂げた、嬉しさを思いに抱いた。

「ーーよし、最後の一押し、行けるな？『メルセディア』！」

『ーーお任せを、マスター』

ーーまだ、バトルフェイズは終わっていない。
『メルセディア』は守備表示だが、自身の効果でその状態のまま直接攻撃が可能。
そして『メルセディア』の攻撃力は６００。
エリザの残した僅かなライフを削り取れるのだーー。

「ーー行くぜ！
『メルセディア』で、エリザにダイレクトアタック！」

そして下された攻撃宣言。
『メルセディア』が己を閉じ込めた相手に、直接とどめを刺すべく攻撃態勢に入るーー。

「（くす・・・楽しいですわ、トーヤーー！）」

だが、その絶対絶命の危機を前にして、エリザは笑った。

ーー『女帝』が感じた『予感』。
その正体が明らかになるーー。