戸惑う真希　作：はにわ改

　
ーーその日の夕方。
いつものように透矢の家に集まった真希と千鶴。
当然と言うべきか空気が重く、特に真希は刹那に対する怒りに満ちているようだった。

「ーーいいわよ、もう。
要は刹那はあたしに『デュエル・キラー』を続けてほしいんでしょ。
だったらやってやるわよ」

「お、お姉ちゃん・・・」

真希は刹那の言わんとする事を、そう捉えているようだ。
でなければ、自分と千鶴の事を知りながら、除籍を賭けてデュエルなどさせるはずがない、と。

「いや、それは駄目だ。
デュエル・キラーなんて、少なくとも俺がいる内は二度とやらせない」

「透矢・・・！
でもそれじゃ、あたしと千鶴ちゃんがデュエルしなきゃいけなくなるのよ？」

「・・・やるしか、ないな」

「そんな、あんた他人事みたいにーー」

「それに刹那は、お前にデュエル・キラーをやらせたくて、あんな事言い出したんじゃないと思うぜ？」

「じゃなんなのよ」

「いや、それは・・・俺にも、分からないけどーー」

透矢も刹那に何かしらの狙いがあるだろう事は、何となくわかってはいた。
千鶴の試験で、仲の良い真希に試験官をやらせるのは様々な観点から相応しくない。
真希はアカデミアで一、二を争うデュエリストだから、とは言うが、
強いデュエリストと戦わせたいだけならば、何も真希である必要はない。
真希に匹敵する実力の炎魅子や地影でもいいはずだ。
刹那ならそれぐらい分かっているはずであり、
つまり真希と戦わせる他の何らかの理由があるはずだ、と。

それが何かまでは、もちろん分かるはずもないがーー。

「ーーなぁ、千鶴。
もう一度聞くけど、お前は試験の相手が真希でもいいのか？」

「・・・」

「お前も真希と戦いにくいんなら、俺がもう一度刹那に掛け合ってやるぜ？
別の相手にしてもらうように、さ」

透矢が千鶴に確かめる。

透矢が刹那に掛け合って覆る保証はないが、自分に出来ることは何も構わずするつもりである。

千鶴は俯き加減にしばらく黙っていたが、やがて意を決したように真希を見る。

「私・・・試験の相手はお姉ちゃんがいい」

「ち、千鶴ちゃん・・・そんなーー」

信じられない、という真希の表情。
真希は狼狽えるようにしながら、千鶴の二の腕を掴む。

「わ、私だって、千鶴ちゃんが試験を受けたい、って言うなら、は、反対は・・・しないけどーー。
で、でも、相手があたしなんて・・・」

「お姉ちゃん・・・」

「も、もし、あたしが勝ったら？
あたしが勝ったら、あたしが千鶴ちゃんをーー」

「お姉ちゃんに負けて、辞めるなら、私も・・・悔いは、ないから」

「ち、千鶴ちゃん・・・」

「だから、お姉ちゃんがいい」

千鶴の固い決意。
除籍を賭けて自分と戦いたい、と千鶴本人が言う。
真希はそんな千鶴の強い意志を感じ取り、愕然とするように顔を落とした。
そんな真希の肩を透矢が叩く。

「な、真希。
千鶴もこう言ってるんだ。
お前の気持ちも痛いほど分かるが・・・千鶴のためだ」

「でも・・・」

「酷なようだけど、あの一件の決着（ケリ）をつけるには、お前も責任を取る必要がある。
千鶴一人にそれを押し付けるわけにはいかないだろ？」

「・・・」

「それにお前もデュエリストなら、千鶴の気持ちを真正面から受け止めてやれ」

透矢自身、悲痛な真希に対する説得。
俺が二人を護る、なんて言っておきながら、他人事のように言うことしか出来ず、真希に辛い行いを強要しているようで、自分で自分が憎らしい。

だが逃げるわけにはいかない。
３人がまた変わらぬ日常で、同じアカデミアに通うためにも。

透矢は心を鬼にして、真希を説得し続けた。

「ーー分かった・・・元はといえば、あたしのせいだしーー」

「お姉ちゃん、そんなこと・・・」

やがて真希は項垂れながらも、頷いた。
するとそのまま立ち上がり、荷物を手に持って部屋から出ていこうとする。

「おい、真希ーー」

「ごめん、今日は帰る・・・。
ちょっと、心の整理つけないとーー」

「そ・・・そうか」

「また・・・明日ね」

生気を無くしたかのような真希。
言葉少なく、静かに透矢の部屋を後にした。

「お姉ちゃん・・・」

千鶴は思わず追いそうになりながらも、敢えてそれはせずに、寂しそうに真希の背中を見送った。
すると今度はそんな千鶴の肩をたたく透矢。

「大丈夫だ。真希は・・・きっと、お前の気持ちに応えてくれる」

「お兄ちゃん・・・」

「だから、お前も明日は絶対に勝たないとな」

「うん・・・うん！」

一度、二度と頷く千鶴。
透矢もそんな千鶴を鼓舞するように穏やかな笑みで頷いた。

「今日、少し時間大丈夫か？
明日に向けての調整、俺も手伝いたいんだ」

「うん、お願いします、お兄ちゃん！」

「こんな事ぐらいしか出来なくて、悪いな・・・」

「ううん。
・・・ごめんね、お兄ちゃん。
私のわがままのせいでーー」

ーーそれから二人は、千鶴の母から電話が来るまでの数時間を、千鶴のデッキ調整に費やした。
だが透矢はその中で、千鶴が自分と真希に何かを隠しているのではないか、と予感していた。
刹那の狙いと同様、それが何かまでは分からないようだがーー。

ーーかくして明日に控えた真希と千鶴のデュエル。
千鶴は秘めた思いを果たすために、決死の思いでそれに臨む。