透矢vsエリザ 偉大なる吸血鬼の力！⑪　作：はにわ改

　
ーー透矢とエリザのデュエルも最終盤。
互いのライフは１０００を切り、僅かな戦闘ダメージでそれは消し飛ぶ。

本来、消化試合でしかないこのデュエルだが、
二人が織り成す熱戦に観客たちは目を離せない。
そんな彼らもまた、デュエル・モンスターズが好きで仕方がないのだ。

「ーースタンバイフェイズ！
永続魔法『吸血鬼の庭園』の効果により、わたくしはデッキから『ヴァンパイア・ドール』を手札に加えますわ」

通常ドローの後、エリザは『吸血鬼の庭園』の効果で更にモンスターを加える。

「（エリザのライフは１００・・・。
ってことはこのままじゃ、『吸血鬼の庭園』の特殊召喚効果は使えない・・・はずだよな）」

『吸血鬼の庭園』は、１ターンに１度、『ヴァンパイア』モンスターを特殊召喚できる効果を持つが、それにはライフ５００ポイントの支払いが必要。
エリザのライフではそれは賄えないが、それはあくまで現状の話。
豊富なライフ回復カードを駆使してきたエリザならば、必要な分を回復してくるかもしれない。

「（ま・・・俺は、やるだけのことをやるしかないけどな・・・）」

透矢は伏せたリバース・カードを見る。
決して万全といえる対策ではないが、このカードに全てを託すしかない。
透矢は闘志を失ったわけではないが、半ば開き直ってもいた。

「ーーメインフェイズですわ！
『バートリー』の効果、発動！」

「（ーー来たか）」

エリザのエースモンスター、『不死の女王（ノーライフ・クイーン） バートリー』。
前のターンではその効果でエリザの命を救い、そして今再びその効果が発動される。

「わたくしのメインフェイズに１度、墓地のモンスター１体を特殊召喚！
わたくしはトーヤの墓地から『白銀の盾』を選択します！」

「ーーくっ！」

『バートリー』の効果。
それは正に生きる『死者蘇生』である。
互いの墓地からモンスターを、アンデットに変えて復活させるーー。
『死』を司る『王』を名乗っているのは伊達ではない。

「ーーまずいです！
『白銀の盾』を復活させられたら、『アリアス』の維持が出来なくなってしまいます！」

透矢の後ろで、戦いぶりを見てきた仲間たち。
地影が透矢の危機を告げた。
確かに墓地から『白銀の盾』がいなくなれば、『メルセディア』の時と同様に、『アリアス』も場に維持できなくなる。

「『アリアス』がいなくなったら透矢の場はがら空き・・・確かにこりゃまずいねぇ」

「透矢・・・っ！」

続けて炎魅子が口を開き、真希が心配そうに透矢の背中を見る。

「（いいえ・・・透矢くんはこんな形で終わったりはしない。
透矢くんならば！）」

不安を抱く真希たちとは違い、刹那だけは透矢の底力を信じていた。
口には出さないが、彼ならばこのピンチを切り抜けられると確信していたのである。

「ーーリバース・カード、発動！
『トライ・バスター』！」

透矢が動く。
自分が託した最後のリバース・カードを発動させた。

「自分フィールド上に存在するＴ・Ｆモンスターを選択して発動！
その素材モンスターをデッキから墓地へ送る！」

『バートリー』の効果にチェーンして発動された『トライ・バスター』。
その効果で透矢は『アリアス』を選択し、デッキからその素材モンスターである『白銀の盾』を引き抜き、それを墓地へ送る。

「そして、選択したモンスターの攻撃力は、エンドフェイズまで墓地に送ったモンスターの攻撃力分アップ！」

現在、『アリアス』は『女帝』の力を引き継いでいて攻撃力は３９００。
それに更に『白銀の盾』の攻撃力１４００が加わり、５３００。
驚異的な攻撃力を得た。

「さすがはトーヤ。
これであなたの墓地に『白銀の盾』は２枚。
その内１体をわたくしの場に特殊召喚したとしても、『アリアス』がフィールドから消えることはありませんものね」

土壇場で、危機を救うカードをドローしていた透矢。
その彼を賞賛しつつ、『バートリー』の効果を処理。
『白銀の盾』がエリザのフィールドへ守備表示で特殊召喚された。

「更に場にアンデットモンスターが増えたことで、『バートリー』の攻撃力がアップしますわ」

『バートリー』は場のアンデット族モンスターの攻撃力の合計数値だけ上がる。
エリザの場にはアンデットと化した『白銀の盾』、『守護の鎧』がおり、その攻撃力の合計は２０００。
よって『バートリー』の攻撃力は４０００となる。

「４０００・・・でもまだ、『アリアス』の方が攻撃力は上だ！」

『アリアス』の攻撃力は５３００。
まだ『バートリー』に１０００ポイント以上の差を付けている。

ーーだが。

「わたくしは手札から『ヴァンパイア・ドール』を通常召喚！」

『吸血鬼の庭園』の効果で加えた『ヴァンパイア・ドール』をエリザは召喚。
『吸血鬼（ヴァンパイア）』の名を持つモンスターであるが、その姿は不気味に朽ち果てたフランス人形とでも言うべきか。
片目が抜け落ちており、全体が血で濡れたその人形は、ひとりでにカタカタと音を立てながら蠢いている。

レベル１、攻撃力は０。

「な、何だか、不気味なモンスターだな・・・」

「くすくす・・・こういうの苦手かしら？」

「べ、別にそんなことねぇよ！」

「うふふ・・・！

ーー『ヴァンパイア・ドール』の効果を発動。
墓地のアンデットモンスター１体を選択して、次のわたくしのスタンバイフェイズまでそのモンスターの攻撃力を得ることが出来ますの」

どこか強がっている様子の透矢を見て可笑しそうに笑いながら、エリザは『ヴァンパイア・ドール』の効果を発動させる。

「わたくしは『鮮血の人狼』を選択。
その攻撃力２０００ポイントが、『ヴァンパイア・ドール』に加わります」

地面から白い人魂のようなものが、『ヴァンパイア・ドール』の空洞となった目から入り込む。
するとその空洞から紫色の光を発し、その攻撃力が２０００に上昇した。

「そして当然ですが、『ヴァンパイア・ドール』もアンデットモンスターですわ」

「てことはーー」

「そうです。
『バートリー』の攻撃力が更に２０００ポイントアップしますわ！」

『バートリー』の永続効果が、『ヴァンパイア・ドール』の攻撃力の変化に敏感に反応。
その攻撃力は何と６０００ーー。

強化された『アリアス』の攻撃力を上回ったのだ。

「ーーバトル！
『バートリー』で『アリアス』を攻撃！
ーー『怨嗟の狂詩曲（ラプソディー）』！」

バトルフェイズ。

『バートリー』が骨の玉座から立ち上がり『アリアス』に手の平を向けると、そこに赤黒い帯状のエネルギーが集束し、
巨大な頭蓋骨のような霊魂が作り出される。

そしてそれは呻き声をあげながら『アリアス』の身体を噛み付くように通過し、『アリアス』は全身に痛みが走ったのか、痛烈に苦しみながら膝を付く。

「『アリアス』・・・！

ーーでも、『アリアス』は１ターンに３回まで戦闘と効果で破壊されない！」

「でも、戦闘ダメージは受けて頂きますわ」

『アリアス』と『バートリー』の攻撃力の差は７００ポイント。
透矢のライフ８００から引かれて、残り１００。
ここに来て二人のライフは並んだのだ。

「ふふ・・・惜しかったですわ。
『アリアス』の攻撃力上昇さえ無ければ決まってましたのに」

「お互いにライフ１００ってか。
あとはどっちが先にそれを削るか、だな！」

「うふふ・・・わたくしが先ですわ！・・・と言いたいところですが、わたくしはこのターン、これ以上することはありません。
ターンを終了します」

エリザがターンを終了させる。
彼女もまた透矢のライフを削り切れなかったのだ。
お互いにライフは１００。
だが地力はエリザの方が勝っており、これ以上長引けばそう遠くない未来に透矢は力尽きる。

おそらく次のターンが事実上のラストターンとなるーー。

「ーー勝負だ、エリザ！
俺のターン、ドロー！」

透矢が渾身の気合いと、勝利への祈りを込めてカードを引く。
二人のデュエル、その結果やいかにーー。