真希vs千鶴 もう守られるだけじゃない⑦　作：はにわ改

　
「ーーあたしのターン、ドロー」

再び巡る真希のターン。
ドローして手札は３枚。
千鶴にとって、そしてこのデュエルを見守る一同にとっても、真希のターンは緊張の時間でもある。

「（・・・千鶴ちゃんは本気であたしに勝とうとしてる。
あたしとの本気のデュエルでーー）」

そんな中、真希はずっと考えていた。
前のターンから千鶴のターン中も、そして今まで。

最初は真希は千鶴に、刹那に不信がられないように上手く負けてあげるのが、自分の役目だと思っていた。

だが千鶴の気迫、カードに込められた思いが真希にも伝わり、それでいいのかと疑問を抱き始めている。
千鶴の身を守る話以前に、それは千鶴を冒涜する行為ではないか、と。

「（あたしは・・・千鶴ちゃんの事をーー）」

真希は目を強くつぐむ。
気付いてしまった、自分の心の『闇』。
自分は今まで千鶴のためを思って行動してきたはずだが、その実ーー。

千鶴を虐めていた生徒たちと、本質は自分も変わらないのだと。

「ーーメインフェイズ！
手札から『ハーピィ・ウィンガー』、召喚！」

真希はそんな自らの頭を覆う『闇』を振り払うように、力強くディスクにカードを打ち付ける。

そうして現れたモンスターは、青く透き通った髪を持つ、『ハーピィ・レディ』と同じく美女の肢体を持つ、有翼獣。

レベルは４で、攻撃力は１６００。
ただ『ハーピィ・レディ１』の永続効果により、その数値は１９００まで上昇する。

「『ハーピィ・ウィンガー』の召喚時効果！
デッキから『ハーピィ』モンスターを墓地に送り、相手フィールド上のモンスターを１体破壊！」

「う・・・っ！」

「あたしはデッキの『ハーピィズペット竜（ドラゴン）』を墓地へ送り、千鶴ちゃんの『マリル』を破壊！」

『ハーピィ・ウィンガー』の能力がすかさず発動。
素早い飛行能力で頭上から『マリル』に襲いかかり、その両の鋭い爪で一気に引き裂いてしまう。

「『マリル』・・・！」

成す術なく破壊された『マリル』を見て、顔を歪ませる千鶴。
そんな千鶴を目にしつつも、真希は次なるカードを手札から引き抜く。

「手札から魔法カード、『融合』！」

「『融合』！？」

真希が発動させたカード。
それもまたこのデュエル・モンスターズの代表とも言うべき有名なカード。
エクストラ・デッキに存在する融合モンスターを召喚するために、無くてはならないカードである。

「私は場の『ハーピィ・レディ１』、『ハーピィ・ライダー』、『ハーピィ・ウィンガー』を、
つまり『ハーピィ・レディ』３体を融合素材にーー」

真希の上空に、渦を巻く不思議な空間が現れ、そこへ真希の３体のモンスターが吸い込まれる。
『融合』はこうして決められたモンスターを素材として、強力な融合モンスターを特殊召喚する戦術。
これを主とするデュエリストも決して少なくはない。

「召喚！
『ハーピィ・レディ トライアングル・シスターズ』！」

そして今、真希が融合召喚によって召喚したモンスター。
それは『ハーピィ・レディ』を代表とする『レディ１』、『レディ２』、『レディ３』からなる三姉妹。
また全員が本来装備魔法である『薔薇の鞭』、『サイバー・ボンテージ』を装備し、より強化された姿である。

レベルは７、攻撃力は２７００を誇る。

観客席からは声が上がった。

「融合召喚・・・『ハーピィ・レディ三姉妹（トライアングル・シスターズ）』・・・！
真希の奴、こんな戦術も持ってたのか！」

透矢が真希とデュエルした際、真希は『疾風の女王 ミサギ』という強力なモンスターを使い、透矢を苦しめていたが、
真希にとって『ミサギ』は戦術の１つでしかなかったのか。

この『ハーピィ・レディ トライアングル・シスターズ』もエース級の存在感を持っているーー。
実際に向かい合わずとも、肌で透矢はそれを感じ取っていた。

「『ハーピィ・レディ トライアングル・シスターズ』の効果！
融合召喚に成功した時、手札または墓地から『ハーピィズペット竜（ドラゴン）』を１体、特殊召喚出来る！」

そしてその能力の一端が解放。
先ほど、『ハーピィ・ウィンガー』の効果コストで墓地に送った『ハーピィズペット竜』が復活する。

ーー蘇るは紅い肌を持つ、巨大な首長の有翼竜。
首輪は主人である『ハーピィ・レディ』に対する忠実さを示し、額には銀色の装飾品が取り付けられている。

レベルは７、攻撃力は２０００。
本来、『ハーピィ・レディ』がフィールドにいれば、１体につき攻撃力が３００ポイント上がる効果を持つが、『トライアングル・シスターズ』は厳密には『ハーピィ・レディ』とは扱わないので、その効果は適用されないーーと、思われたが。

「『トライアングル・シスターズ』の効果、２つ目！
私の場の『ハーピィズペット』と名の付くモンスターの攻撃力を９００ポイントアップする！」

そう、『トライアングル・シスターズ』にそれを補う効果が備わっていた。
これにより、『ハーピィズペット竜』の攻撃力は２９００まで跳ね上がる。

最上級モンスター２体を前に、気合いみなぎっていた千鶴も、さすがに後退った。

これがーーこれが、真希の本気なのだろうか。
自分に優しくしてくれる姉のように慕う真希も、デュエルの中ではその厳しさを相手に教え込む。
その厳しさに耐えられなければ、ただ果てるのみ。
真希が動く１ターン１ターンが、相手にとって如何に凌ぐかを考えさせるものとなるのだ。

「ーー千鶴ちゃん。
望み通り、ここからはあたしも本気でいく。
荒れ狂う風に・・・振り下ろされないように、しっかりね」

「お姉ちゃん・・・うん！」

真希の中の何がそう決断させたか、彼女はいよいよ本腰を入れ始める。
千鶴は真希の全力を前に、その力の全てを出し切れるのかーー。

デュエルは終盤へと差し掛かるーー。