真希vs千鶴 もう守られるだけじゃない④　作：はにわ改

　
ーー真希の１ターン目、そのバトルフェイズ。
真希の場にいる『ハーピィ・ライダー』は既に攻撃を完了しているが、これでバトルフェイズを終わらせるつもりはない。
真希は手札のカード１枚を手に取り、それをディスクにセットした。

「ーー手札から速攻魔法、『瞬速の追撃』を発動！」

真希の素早いデュエルの核となるカード群、速攻魔法カード。
通常魔法とは違い、バトルフェイズでの発動や、伏せておけば相手のターンにも使えるのが魅力だ。

「このカードは相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時に発動できる！
そのダメージ数値以下の攻撃力を持つ鳥獣族モンスターを、デッキから特殊召喚！」

「わ、私が受けたダメージは・・・８５０・・・？」

「私はデッキから攻撃力８００の、『瞬鋭の担い手（しゅんえい の にないて） コウガ』を特殊召喚！」

真希の速攻魔法の効果により、彼女の場に新たなモンスターが特殊召喚される。
嘴を象った仮面をかぶる、背面を無数の羽根飾りで覆った、古代の民族のような姿。
手には鋭く尖った矛のような武器が握られている。

レベルは６、攻撃力は８００。
レベルの割には攻撃力は貧弱と言える。

「『コウガ』で、『小さな魔法使い（リトル・マジシャン） チコル』を攻撃！」

バトルフェイズ中の特殊召喚。
故に、真希にはそのモンスターによる攻撃が即、許される。
コウガが手に持つ槍を突き出しながら、一足飛びで千鶴のフィールドに迫る。

「ーーら、ライフで、受けるよ、お姉ちゃん！」

チコルの攻撃力は２００。
千鶴はチコルを護るため、永続罠カード『小さな魔法の防御壁（リトル・マジック・ディフェンス）』を発動させる。
その効果によりチコルへの攻撃は、千鶴への直接攻撃となる。

コウガが矛が千鶴へと襲いかかった。

「う・・・っ」

少し、顔を歪める千鶴。
コウガの攻撃力８００がダメージとなるはずだが、『小さな魔法の防御壁』の効果により、その数値は半分になり、４００がダメージとなる。
これで千鶴のライフは１７５０となった。

「ーー『コウガ』の・・・モンスター効果、発動」

「え・・・っ？」

「このモンスターがバトルを行ったダメージステップ終了時、このモンスターをリリースしてーー」

真希のフィールドに舞い戻った『コウガ』が、そのまま光に包まれながら墓地へと送られてしまう。
これが新たな追撃を生む効果となる。

「デッキから攻撃力１５００以下の、鳥獣族モンスターを特殊召喚する！
出でよ、『ハーピィ・レディ１』！」

『コウガ』の代わりに現れたのは、ハーピィ・レディではもっともポピュラーな姿をした『ハーピィ・レディ１』。
薄緑色のたくましい翼と、ワインレッドの長髪を持つ美女。
だが両手足の鋭く伸びた獣の爪は、獲物を容赦なく引き裂く。

レベルは４、攻撃力は１３００、だがーー。

「『ハーピィ・レディ１』の効果！
このカードがフィールド上に存在する限り、風属性モンスターの攻撃力は３００ポイントアップする」

ハーピィ・レディ１の効果により、自身の攻撃力が１３００から１６００に、そして『ハーピィ・ライダー』の攻撃力が２０００となる。

ただ、この効果は相手モンスターにも影響を及ぼし、千鶴の場の『マリル』は風属性である。
しかしーー。

「ま、『マリル』は、攻撃力を変化させる効果を受けない・・・」

そう、『小さな魔法使い』は魔法・罠・モンスター効果により攻撃力が変動しない能力を持つ。
アップしない代わりにダウンもしないが、元の攻撃力が２００である事を考えたら、ややデメリット寄りの効果と言えるだろう。

「行くよ、千鶴ちゃん！
『ハーピィ・レディ１』でチコルを攻撃！」

『コウガ』の時同様、バトルフェイズ中での特殊召喚故、攻撃が可能。

腕から伸びる翼をしなやかに羽ばたかせて上空へと舞い上がり、そして標的目掛けて急降下する。
振りかざされた鋭い爪が『チコル』の身体を切り裂こうとするーー。

「ーーライフで、受ける！」

しかしここで再三、発動される『小さな魔法の防御壁』。
『チコル』への攻撃はダメージを半分にした、千鶴への直接攻撃となる。
『チコル』の代わりにその爪の一撃を受けた千鶴。
８００のダメージを受けて、遂に９５０までへと、ライフを減らしてしまった。

「（ーーや、やべぇ、これで更に真希に追撃があったら千鶴は・・・）」

透矢はとにかく不安そうだ。
さすがに真希のデッキ。
現状で既に千鶴を瀕死に追い込んでいる。
ここで更なる追撃があれば、千鶴は負かされてしまうーー。

透矢は千鶴を見る。
当然余裕はないはずだが、不安に感じている様子でもない。
まるで死を前に覚悟を決めているかのようだ。

「ーーバトル、フェイズ終了。
あたしはカードを１枚、セットしてターン・エンド」

だが追撃はなかった。
真希がターンを終えたのをみて、透矢は胸を撫で下ろす。
ライフを大幅に削られはしたが、何とか凌いだ。
当然、凌いだだけであり、まだ安心するには早いがーー。

「やっぱり・・・辛い、のかーー？」

千鶴では真希に勝てないのかーー。
千鶴を応援する透矢だが、早くもそんなことを考えてしまった。

「・・・デュエルは終わってないわ、透矢くん」

「せ、刹那・・・」

「デュエルはライフが０になるまで終わりじゃない。
引くカードがある限り・・・負けじゃないんだから」

「・・・そう、だな」

「透矢くんが鳴瀬さんを信じてあげなくてどうするの。
それとも、透矢くんも鳴瀬さんは１人じゃ何も出来ないーーなんて思ってるのかしら？」

「そ、そんなこと、そんなことあるわけない！」

刹那の言葉に思わず、透矢が激しく反抗してしまう。
その声に真希と千鶴が自分の方を向き、透矢は何でもない、と返しながら自分を抑えた。

「（・・・待て、よ？）」

冷静になって今の刹那の言葉を思い出し、透矢はある違和感を覚えた。
透矢は再び刹那の方を向く。

「なぁ、刹那？
今、俺『も』って言わなかったか？」

デュエルする二人に気遣って、小声で話しかける透矢。

「・・・言ったわ」

「どういう意味だ？」

刹那はこれまで、デュエルする二人の間を見つつ透矢に応えていたが、透矢にそう聞かれて、ふと真希に視線を移した。

「それはね・・・このデュエルを通して、気付かなければいけないのよ」

「気付く？」

「どんなに仲が良くても、いつも同じ場所に居続ける事は出来ないの」

「・・・え？」

「真希は・・・自分でも気付かない内に、鳴瀬さんを『枷』にしてしまっている。
そしてそれがーー」

今度は千鶴を見る刹那。
それを追うように透矢も同じ方向を見る。

「鳴瀬さんを苦しめてる。
自分が『重荷』である、と認識させられてーー」

「お、重荷って、そ、そんなことーー」

「貴方たちは、ただ鳴瀬さんを大事な妹のように可愛がってきたかもしれない。
でも・・・１度でもあの子の気持ちを本当に考えた事があるかしら？」

「せ、刹那！
な、何でお前にそんなことーー」

何でそんなこと言われなくてはならないのか。
千鶴の何を知っているのか、と反論しかけたが、それは完結しないまま声が詰まった。
刹那の悲しげな『瞳』がそうさせたのだ。

「鳴瀬さんの成長を認めてあげて、透矢くん。
でないと、鳴瀬さんはいつまでたっても次のステップには進めないの」

「成長を・・・認める、ってーー」

「真希もそう。
だから真希にそれを気づかせるために、私はこのデュエルを組んだの」

「刹那・・・」

透矢は信念に従った刹那を、結局否定する事は出来なかった。
何故言い返せないのか。
刹那よりも、千鶴の事は自分がよく知っているはずなのに。
何故、ここまで言いたいように言われて、何も言い返せないのかーー。

透矢は心で葛藤しながら刹那の横顔を見つめ続けていた。