最強タッグ？！深淵より出ずる者！⑧　作：はにわ改

　
『ーー我のエンドフェイズ。
このターン、効果を使用した“グラボイド”が墓地へと送られる』

『ラピス』のフィールドに並ぶ『Ａ・Ｄ』モンスターたち。
その内の４体は再び裏側表示でその姿を隠し、相手が『罠』にかかるのをじっと待ち続ける。
そんな中、最も巨大な『グラボイド』だけは、『Ａ・Ｄ』のリスク効果により、墓地へと送られたのだった。

『ターンエンド』

そして『ラピス』のターンが終わる。
相手の、即ち透矢と刹那の特定の動きに対して効果を発動する『Ａ・Ｄ』モンスター。
だが刹那は少し前から別の事が気になっていた。

「（１ターン目に伏せられた、あのリバース・カード……。
ここまで発動していないけどーー）」

『ラピス』の魔法・罠カードゾーンに置かれた２枚のリバース。
それは１ターン目に魔法カード『アビス』を発動する前に伏せたカードである。
『アビス』は発動コストとして手札を全て捨てるため、それを回避するために伏せたカードーーつまり、ある種の重要なカードである可能性が高いーー刹那はそう見ていた。

「（何か……嫌な予感がする。
可能な限り、対策は用意しておかないとーー）」

刹那の『勘』。
これまでの戦いで養われたそれが教えてくれている。
真に警戒しなくてはならないのは、あの『Ａ・Ｄ』モンスターたちよりも、その背後に姿を隠し続けるリバース・カードである、ということを。

「俺のターン、ドロー」

そしてターンは回り、透矢の２ターン目。
通常ドローによるカードを加えて、手札は３枚。
その手札を見ながら、同時に敵である『ラピス』を見る。

「ーーなあ、刹那。
さっき言ったよな？
水花の両親は水花を護ろうとして、あいつに挑んでーーって」

「え、ええ……」

「その時、刹那は『やっぱり』って言ったよな？
ってことは刹那は気付いていたのか？
水花の両親がどうして死ななければならなかったのか」

「……確証を、得ているわけではなかった」

透矢に問いかけられて、気まずそうに答える刹那。

「いや、ごめん。
刹那を責めているわけじゃないんだ。
ただ、あいつはーー水花と同じ姿をした『奴』は一体、何者なんだ？」

「それはーー」

「お前、明らかに知ってるよな？
あいつの事をーー」

「……」

答えない刹那。
透矢は煽る事をせず、じっと刹那が話すのを待つ。

『くすくす……やめておけ。
何も知らないお前が、我の正体を知ろうなど……。
差し詰め、生まれたばかりの赤子に説法を聞かせるようなものだ』

「なんだと！」

『それよりもデュエルを続けろ。
それとも何もせずにターンを終わらせるか？』

特に『ラピス』は急かしているようではないが、そう言われて透矢はまた手札に向き直る。
だが、水花の事に関する『真実』が朧気に頭を支配するせいか、デュエルに集中しきれない。

「（俺のライフは残り１３００……。
あまり、迂闊な動きは出来ない、かーー）」

前の自分のターンと、『ラピス』のターンで大きくライフを削られた透矢に、もはや余裕はない。
そして既に『ある行動』が封じられている事に気付く。

「（前のターン、俺は召喚した『白銀の盾』の効果を使った時に、破壊されて、その攻撃分のダメージを喰らってる……。
ってことは攻撃力１３００以上のモンスター効果は使えないのか？）」

ーー大きな『枷』。
それはほぼモンスター効果を封じられたに等しい。

かと言ってライフ回復の手段は現状の手札では不可。
このターン、自分に何が出来るのか？

「俺は……墓地の『女帝の雷命』の効果を、発動。
このカードを除外して、デッキから『三騎士 女帝の聖杖』を１枚、手札に加える」

透矢がやや間を置いて動く。
魔法カード、『女帝の雷命』の効果。
このカードは前のターン、『アクティニオン』の効果で墓地へ送っておいたもので、
透矢もやられるばかりでなく、相手の効果を巧みに利用していた。

ともあれ、透矢の手札に『女帝』が加わったのである。

『“女帝”……？』

透矢のその行動に、『ラピス』が今までにない反応を示した。
垣間見たカードに描かれる『女帝』の姿にーー。

『ーー透矢』

「（ラグナシア！）」

手札に加わるや、『女帝』、いや『ラグナシア』が透矢に『語りかけてくる』。

『透矢、“奴”と出逢うのがあまりに早すぎたな。
だが、これが運命というものか』

「（ラグナシア？
あいつを知ってるのか？！）」

『奴はーーデュエル・モンスターズに於ける“負の極み”。
真の“闇”たる存在。
残念だが、今のお前では奴には遠く及ぶまい』

「（ラグナシア、教えてくれ！
あいつは一体何なんだ？）」

『せめて我が力が完全に覚醒していたならばーー』

「（ラグナシア、答えてくれ！）」

『語る』、『ラグナシア』。
透矢の質問には一切、答えようとはしない。

『ーー透矢、はっきり言っておく。
このデュエルに敗北したならば、お前は間違いなく死ぬ』

「（死……っ？）」

『だがお前を殺すわけにはいかない。
お前は、“あの人”が託した希望なのだ』

「（あの人……）」

『お前が“お姉さん”と慕うあの人だ』

「（『お姉さん』……。

な、なんだよ、ラグナシア！
一体どういうことなんだよ！
『お姉さん』も何か関係があるのかっ？！）」

更に積み重なる謎、疑念。
透矢は混乱しそうになり、『ラグナシア』に感情を弾け出す。

『透矢。
不幸中の幸いだが、まだ“奴”も完全ではない。
そしてお前にはパートナーがいる。
まずはこのデュエルを全力で制するのだ』

「（ラグナシア！）」

『ーー集中しろと言ってる！
この勝負にはお前だけではない。
あの刹那というパートナー、そしてお前が必死に助けようとしている水花とやらの命が懸かっているのだ！』

「（刹那と……水花の命）」

『我と、そしてお前が信じる“騎士”たちの力を使い、あの“ラピス”を打ち倒すのだ。
今、お前がすべきことは“真実”を知ることではない。
ーー見誤るな、透矢』

「（く……っ）」

釈然としない透矢が、握りこぶしに力を込める。
だが『ラグナシア』が言う事は正しい。
自分や刹那、そして水花の命運がこのデュエルに委ねられている。
ならば勝つことに全力を注がなくてはならない。
余計な思考に囚われてはならないのだ。

透矢はこのターン、『Ａ・Ｄ』モンスターの罠を潜り抜けながら行動しなければならない。

『ラグナシア』の声を受けて、透矢は集中を取り戻させた。