最強タッグ？！深淵より出ずる者！②　作：はにわ改

　
「ーー我はこれでターンを終了する」

『ラピス』の１ターン目。
例にない効果を持つ魔法カード『アビス』の発動に始まり、デッキを全て墓地に送る。
かと思えば、突然フィールドのモンスターゾーンを埋め尽くす、『闇』に紛れたモンスターたち。

未知のデュエルを予感させる中、透矢の１ターン目が始まる。

「ーー俺の、ターン」

３人による、２対１のトライアングル・デュエル。
全てのプレイヤーは１ターン目のドロー及びバトルフェイズは行えないルールである。

透矢は与えられた５枚の手札に目を配る。

「いきなり裏側で５体も特殊召喚されたモンスター……どんな種類の効果を持っていやがるんだ？」

裏側守備表示のモンスター。
カードの裏面だけ場に存在し、その正体と能力は隠されている。
通常裏側守備表示でモンスターを召喚する場合、
守備力の高いモンスターか、あるいは表側になることで効力を発揮するリバース効果を持ったモンスターか、はたまた戦闘することで能力を発動する部類かーー。

それらの可能性を考え出したら、それこそキリがない。
まして『ラピス』の場にはその裏側守備表示モンスターが５体である。

「透矢くん、気をつけて……」

悩み巡らす透矢を見かねた刹那がそっと声をかける。
このデュエルには水花の命運が掛かっているのだから、迂闊に相手の正体も確認せずに仕掛けることは出来ない。

透矢は緊張に指を奮わす。

「お、俺は、『白銀の盾』を召喚」

ようやく切り出した透矢の第一手はいつも彼がそうしているのと同じ。

サーチと一度の戦闘破壊耐性を持つ『三騎士 白銀の盾』の召喚。
白銀の甲冑に身を包む女騎士が『ラピス』と向かい合う。

「モンスター効果だ！
『白銀の盾』が召喚に成功した時、デッキから『三騎士』を選び、デッキの一番上に置く！
俺は『影縫いの微刃』を選択！」

そして通常の流れに従ってカードをサーチ。
だがこのデュエルにおいては、その彼にとっての『通常』が『迂闊』な一手へと繋がった。

『ーーこの瞬間、我のモンスター、“サードリウス”の効果が発動』

「何っ！？」

『相手のモンスター効果が発動したとき、裏側のこのカードを表側守備表示に変更する』

『白銀の盾』の効果に、隠された『ラピス』のモンスターがその能力をさらけ出す。
５体の裏側モンスター、透矢から見て右から２体目。
裏側のカードが翻り、その不気味な姿が露となる。

『ラピス』の影が渦巻く地面から飛び出すように姿を現したのは、巨大な芋虫のような黄白色の身体に、透明な足のようなものが左右にいくつも伸び、頭部とおぼしき部分からは触手のようなものが数本突き出ている。
目や口はなく、如何にも形容しがたい不快な姿形。

レベルは８、攻撃力は０、守備力は２７００となっている。

『そして、“サードリウス”のリバース効果を発動』

「リバース、効果……！」

『効果を発動したそのモンスターを破壊する』

「な、何だってっ！？」

『サードリウス』の頭部の触手が鋭く伸びる。
柔らかい見た目とは違い、鈍重な威力を秘めたそれは『白銀の盾』の持つ盾を突き破り、その身を貫く。

『ーーマスター……』

「アリアスっ！」

無念の表情で崩れ落ちる『白銀の盾』。
『ラピス』の幼い表情が醜悪な笑みを作り出す。

『くすくす……脆い』

「くっ！」

怒りと悔しさが入り混じる透矢。
迂闊な行動は出来ないとは思いながら、いきなり先手を取られてしまった。

ーーが、幸いなのはあくまで効果を発動したモンスターを破壊するだけであったということ。
効果そのものを無効にされたわけではない。
透矢は焦燥に駈られながらも、『白銀の盾』の効果により、『影縫いの微刃』をデッキから選び、一番上に置いた。

『ーー更に、お前のモンスターが破壊された事により、“アフロディトイス”を表側表示にする』

「え……っ！？」

『ラピス』のモンスターは再び透矢に牙を剥く。
透矢から見て左から２体目。
その裏側モンスターカードが表側表示へと返る。

ーーそして。
突如、透矢の背後の地面から現れた巨大なハサミのような嘴が彼の身体をついばむ。

「ぐぁあああああっ！」

「透矢くんっ！？」

不意をつく激痛。
身体を横に輪切りにされたかのような感覚。
たまらず透矢は膝を付いて、悶絶するかのように身体を抱え込んだ。

「な、何、あれは……！」

透矢の背後から現れた『モノ』。
それは例えるなら巨大な『ムカデ』。
平らで細長い身体の大半を地面に隠し、獲物が近付いたところを今の透矢のように鋭く素早く食い千切る。

『“アフロディトイス”は相手モンスターが効果で破壊された時にリバースし、効果を発動する。
相手は破壊されたモンスターの攻撃力分のダメージを受ける』

「そ、そんな……」

刹那が動けない透矢に代わり、反応する。

『それだけではない。
相手に与えたダメージだけ、我のライフも回復する』

『アフロディトイス』の恐るべき効果。
それにより、透矢のライフは『白銀の盾』の攻撃力１４００ポイント分のダメージを受け、２６００に。
逆に『ラピス』は、５４００へと回復する。

『くすくす……どうした？
まだ始まったばかりだ。
あまり早く終わって、我の興を削いでくれるなよ？

くすくす……あははははははっ！！』

『ラピス』の高笑いがこだまする。

そう、デュエルは始まったばかり。

『ラピス』の操る『アビス・ドミネーター』の凄まじい力、透矢たちはその片鱗を見せられたに過ぎないのだーー。