サタン・ルキフェル④　作：はにわ改

　
「（ーーおかしい……。
『アスタロト』を墓地へ送ってしまっては、他の『混濁魔神』でこのターン、勝利することは出来ないはずーー）」

ーー日本校控え室。

久遠の戦いぶりを見る中で、刹那もまた違和感を感じていた。
すなわち刹那が描いたデュエルの終幕までの流れと、今の久遠の行動と『ズレ』が生じている。

「（……まさか、あの子ーー）」

ーー芽生える不安。

そしてそれはすぐに確信へと変わる。

「（いや……間違い、ないーー。
『アスタロト』を捨てた今、このターン内に勝利するとしたら、“あのカード”を呼ぶしかーー）」

刹那と久遠、お互いにお互いのデッキは当然知り尽くしている。
そして刹那はそう結論付けた時、刹那は反射的に身体を立ち上がらせた。

ーーこうしてはいられない、と。

「刹那？」

突然、立ち上がった刹那に皆の視線が集まる。
そして代表するように透矢が呼び掛けた。

だが刹那はそれに応えることなく、突然入り口へと走り、そのまま外へと出て行ってしまう。

「刹那！待て、どこへ行くっ！？」

クロエが立ち上がり刹那に大声で制止を掛けるも、その時には既に刹那は部屋を出ていってしまっていた。

「なんだ？刹那のやつ……。

昨日の透矢みたく、急に催してきたのか？」

「ちょっと、変でしたね。
刹那さんがあんな風に、私たちに何も言わず出て行ってしまうなんてーー」

無言で出ていった刹那。

炎魅子の言うように、突然催して用を足しに行った、というのが普通の考えだが、
地影の言うように、あの刹那が自分たちに断りもなく出ていったのは、確かにおかしい。
仮に余程切羽詰まっていたとしても、さすがにクロエには声は掛けるだろう。

「刹那……」

ーー確かにおかしい。

もしトイレでないとしたら、画面の中で大事な妹がデュエルに励んでいる最中、刹那は何処に出掛けたというのか。

そう刹那を心配しつつも、確信までは持てない透矢は刹那を追うことはしなかった。






ーー会場。
久遠の長いメインフェイズが続く。

相手方が築いた闇属性に狙いを定めたロックを、あっさり崩した久遠。
だが観客が真に驚くことになるのはこれからだーー。

「ーー私は、場の悪魔族チューナーモンスターとチューナー以外のモンスターを、『リリース』してーー」

久遠の場にはチューナーと非チューナーモンスター。
通常ならばその２体のモンスターを用いたシンクロ召喚を行う事だろう。
観客たちも当然、そう予測した。

だが久遠が宣言したのは、『リリース』。
よもやアドバンス召喚を行うつもりかーー。

「墓地の『イビル・ロード』を私の場に特殊召喚！」

だが実際はアドバンス召喚ではなく、墓地の特殊召喚モンスターを呼び出すためのコストであった。

『魔神の落とし子』、『イビル・ゲイザー』が消え去り、代わりに墓地より甦るモンスター、『イビル・ロード』。
先ほど、魔法カード『悪魔の飽食』を発動するために墓地に送られたモンスター。
人間の数倍にもなる赤茶色の巨大な体躯を持ち、腕は左右に３本一対。
緑色に光る双眼と額に開く第三の瞳、鼻はなく、大きく横に避けた口からはみ出す無数の牙。
正に禍々しい魔物、といった姿であると同時に、恐るべき能力を持つであろうと思わせてくれる。

レベルは９、攻撃力は３１００。
最上級と言えども、攻撃力３０００を越えるモンスターはそうはいない。

だが『イビル・ロード』の力はそれだけではないのだ。

「ーー効果、発動……！
『イビル・ロード』が自身の効果で特殊召喚に成功した時、デッキより悪魔族チューナーモンスター１体を特殊召喚する！」

「デッキから……チューナーモンスターを？！」

「私はデッキより、『イビル・バイター』を特殊召喚！」

効果発動を宣言すると、『イビル・ロード』が巨大な腕を地に打ち付ける。
するとそこに生み出された魔方陣から、新たな魔物が呼び出された。

一つ目の、コブラを思わす黒い蛇のモンスター・『イビル・バイター』。

レベル１、守備力１２００。
チューナーモンスターである。

「更に墓地から『魔神の落とし子』が自身の効果で復活！」

『イビル・ロード』の生け贄にされた『魔神の落とし子』がその効果により復活。
久遠の場には合計３体の悪魔族モンスターが出揃った。

「手札より魔法カード、『星を紡ぐ者』を発動！」

久遠が最後の手札の１枚である魔法カードを発動させた。

「ライフを１０００ポイント支払って発動。
場のモンスター１体を選択！
このターンのエンドフェイズまで、私の場のモンスターのレベルは、選択したモンスターと同じレベルになる！」

「レベルを同じに……する？」

「私は『イビル・ロード』を選択！」

『星を紡ぐ者』の発動により、まず久遠のライフが５８００に減る。
そしてその効果が発動し、久遠の場の３体のモンスターのレベルは『イビル・ロード』のレベルである、『９』になる。

「ーーこれで準備は終わり。
あなた、今日はツイていますわね」

「つ、ツイてる？」

「前大会でも使わなかった私の最強のカード。
それを今から拝ませて差し上げますわ」

久遠が不敵な笑みを見せると、相手が怯んだように後ずさる。

遂にーー『魔王の中の魔王』が降誕する。

「ーー久遠っ！！」

その直前。
刹那が到着する。

『そのカード』の発現を止めるためにーー。