日本校、勝利を収める　作：はにわ改

　
ーー大会のMＣが最高潮のテンションで、日本校の勝利を宣言する中、
壇上の二人は中央に歩み寄って互いの健闘を讃えるように握手を交わす。

「ーーおめでとう、トーヤ。
あなたの実力以上に、デッキとの絆を見せられた気がしました」

「へへ、なんか照れるけど、そう言ってくれて素直に嬉しいぜ！」

「色々と挑発するような事を言ってごめんなさい。

ーーでも、お陰であなたの力を知ることが出来ましたわ」

「へ？なんだよ、それ……」

「くす……また、デュエルしましょう？」

「あ、ああ……」

何かを含んだような言い回しのエリザに、
この時の透矢は何も察知することは出来なかった。

そして両雄は別れて、互いの陣営へと帰る。
するとそんな透矢に仲間たちが、その勝利を祝福すべく駆け寄った。

「ーーいよっ！大将！
さすがあたしが見込んだ男だぜ、お前って奴はよっ！」

「い、痛ててっ！
何するんっスか、炎魅子先輩！」

透矢の首に腕を回して頭をぽんぽんと叩く炎魅子。
炎魅子らしい祝福に、透矢は非難の声を上げつつも、表情は笑顔だ。

「ーー遊戦名君、世界大会初勝利、ですね。
おめでとう、いいデュエルでした」

「あんがとな、朝霧！」

次に地影。
炎魅子とは正反対に穏やかな賛辞で透矢に柔らかい笑顔を向ける。

「ーー透矢」

「真希っ」

そして真希。
この二人にもはや言葉はいらない。
真希が勝った時同様に、示し合わせたかのようなハイタッチで快音を響かせる。

「ーー透矢くん、おめでとう」

「刹那！
へへ、消化試合ではあったけどな？
何とか勝ってきたぜ！」

「消化試合だなんて、とんでもない。
この勝利は私たちチームにとっても、そして君自身にとっても、大きなものよ」

「そ、そっか？」

「ええ。
チームにとってはいい弾みになるし、透矢くんにとって、いい自信になったんじゃないかな？」

「自信なら元からたっぷりさ。
何せ、俺はこの自分のデッキを信じてるからな！」

４０枚のデッキを握った手を突き出しながら、己の確固たるものを隠さず言い放つ透矢。
真希、炎魅子、地影がそれぞれ笑みを見せ、刹那もそんな彼の姿を頼もしそうに見つめる。

「ーーよくやった、朝霧、千歳、遊戦名。
諸君らの活躍により、我々日本校は優勝という栄華に向けて、幸先良いスタートを切ることが出来た」

「先生っ！」

刹那の後ろにいたクロエが一歩歩み出ながら、今回戦った三人を讃えた。
地影は礼儀正しく一礼を以て返し、透矢と真希は左右並んでガッツポーズを見せると、クロエも目を細める。

「特に千歳と遊戦名は初出場ながら、己の実力を惜しみ無く発揮し、緒戦を収めたのは見事というほかない。
君たち二人を推した私も非常に鼻が高いよ」

「へへ……」

「ほ、誉めすぎですよ、先生……」

重ねて透矢と真希を讃えるクロエに、透矢は鼻をこすり、真希は少し照れながら両手を胸の前で振る。

「ーーだが、まだ一回戦を勝利しただけだ。
この勝利に奢ることなく、これから先の戦いにも、是非、今日のように己の力を存分に振るってほしい。

今日、戦っていない紅月、刹那も同様だ」

「ーーはいっ！」

５人が声を合わせて返事をする。

ーーかくして勝利を収めた日本校。
観客の大歓声に迎えられながら会場を後にするのだった。



「ーー如何ですか、Mｒ・カグラザカ。
日本校の戦い振りは」

ーー観客席の上部に特設された室内のＶＩＰ席。
ガラス面を挟んで、特別に招待された各界の有名人が肩を並べて試合を眺めていた。
その中には今大会の主宰であり、刹那・久遠の父である神楽坂 宗介もいる。
椅子に座る彼の傍らにはワシントン・アカデミアの引率教諭・クリスが立つ。
そのクリスが宗介に問いかけた。

「彼……遊戦名、透矢くん……と言ったか。
彼が娘を破った、ＴＦモンスターの使い手かーー」

「ーーはい」

「なるほど、将来性は感じる」

「そうですか」

「彼ならば……アルフレッド君に並ぶ素質の持ち主だ、という刹那の言葉にも頷ける」

宗介がしきりに頷く。
クリスは淡々と受け答えしながら、その評価に満足しているようでもあった。

「ーーしかも、あの『女帝』のカードをあそこまで使いこなせるとは……『彼女』を思い出させるな」

「私共も……同じ思いです」

「ふむ……あるいは彼こそがーー」

宗介が思い巡らせるように顎を触る。
刹那から直接聞かされた、透矢の実際の在り様をその目にした彼は、何かに納得しているようでもあった。

「ーーところで、暗木くんの行方はどうなっているのかな」

「は……っ。
目下、全力を上げて捜索しておりますがーー」

「彼女もまた得難い戦力なのだ。
急ぎ、救助・確保に総力を上げてほしい」

「了解、致しました」

「手遅れでなければいいが、なーー」

腰を曲げて頭を下げるクリスに、宗介は憂いの眼差しを浮かべる。

公には明かされていない、行方不明の日本校の養護教諭・暗木舞。
選ばれし者が『この時期』に誘拐されたという事実に、宗介は不安を深めていたのだった。