透矢vsエリザ 偉大なる吸血鬼の力！⑫　作：はにわ改

　
ーー透矢にとって恐らく最後のターンにして、最後のドローカード。
エリザのライフはわずか１００。
それをこのターンに削れなければ、場の状況から考えても、次のターンはない。

透矢は息を呑んで、ドローしたカードを見るーー。

「（ーー来た！）」

透矢の目が光る。
この状況を打破し、エリザを倒す事の出来る唯一のカードがーー。

「（ーーあの瞳（め）・・・何かを引き当てましたのね）」

透矢の様子をずっと注意深く観察していたエリザ。
だから透矢の目に力が宿ったのも見逃していない。

「（わたくしの場には『血の口づけ』があります。
単純な攻撃ではわたくしのライフは削りきれないーー）」

一見、エリザの場には攻撃力が２０００の『ヴァンパイア・ドール』が攻撃表示でいるから、攻撃力３９００ある『アリアス』で攻撃すれば話は早いように見える。
だがエリザの場には、２回に渡って発動している『血の口づけ』がある。
もし単純に『アリアス』で攻撃すると、その効果により、エリザは『アリアス』の攻撃力分だけライフを回復出来るのだ。

「（もちろん、トーヤもそれは把握しているはずーー。
ということは、それを封じるカードを引いた・・・？）」

エリザはそう読みつつ、透矢が動くのをじっと待つ。

ーーそして。
透矢はこのターンに於ける動作を確認した後、やや間を置いた形でようやく動き出した。

「ーー俺は、墓地の『白銀の盾』をデッキに戻して、『女帝』をリリース無しで通常召喚するぜ」

「あら・・・そんな事をなさったら、『アリアス』はーー」

「・・・ああ、解ってる。
墓地に『白銀の盾』が１枚も存在しなくなり、『アリアス』はエクストラ・デッキに戻っちまう」

エリザは意外そうだ。
何しろ、攻撃力３９００を誇る『アリアス』の維持を考えず、『女帝』を召喚しようというのだ。

かくして３度目の登場となった『女帝』。
代わりに『アリアス』はエクストラ・デッキへと還ることとなる。

『ーーご苦労だった、アリアス。
あとは私に任せてしばらく休め』

『ーーはい。
アレクシア様、最後の一槍、存分なるお務めを』

『うむ』

去り行く『アリアス』に『女帝』が労いの言葉を送る。
そして『アリアス』は透矢に穏やかな笑顔を見せた後で、静かにエクストラ・デッキへと還っていった。

後を引き継ぐ『女帝』。
レベル７、攻撃力２５００。
立派に最上級の攻撃力とはいえ、『アリアス』の攻撃力よりかなり目劣りしたかのように映る。

だが透矢が敢えて、『アリアス』の代わりに『女帝』を出した答えが、そのドローした１枚にある。

「俺は更に手札から装備魔法、『女帝の聖剣 ラグナロク』を発動！
『女帝』に装備！」

透矢がそのカードを発動させると、『女帝』はそれに合わせて手に持つ杖と盾を地面に置く。
そして『見えない鞘』を持つ左手から、剣を引き抜くような右手の動作を見せると、そこに不意に刀身が象られて、同時に握り手の部分も露となった。

「ーーあの剣は・・・！」

既視感を覚えた刹那が思わず声を出した。
今、『女帝』が握った剣は、前に透矢と刹那がデュエルした際に、
『女帝』がその真なる姿を見せた際に振るった剣である。

ーー銘を、『ラグナロク』。

「このカードは『女帝』にのみ装備可能！
装備モンスターの攻撃力が８００ポイントアップ！」

「専用装備・・・このために、『アリアス』を犠牲にしてまで『女帝』をーー」

『ラグナロク』は『女帝』専用装備カード。
その力により『女帝』の攻撃力は３３００にアップ。
が、まだまだ『アリアス』にその数値は及んでいない。

「よしゃ！
んじゃ一つ、その自慢の剣技を披露してやってくれよ」

『この姿は私が引退した後の姿だ、と言ったはずだ。
あまり無茶をさせてくれるなよ』

「ーーちょ、待ってくれよ～。
『ラグナシア』がやってくれないと、デュエルに負けちまうんだぜ？！」

『ふふ・・・冗談だ。

ーーさぁ、やれ、マスター！』

「お、おう！」

『女帝』と言葉を交わした透矢。
茶目っ気を見せた『女帝』に戸惑いつつも、透矢はその剣の威力を発揮させる。

「『ラグナロク』の３つの効果の内の１つを発動！
手札を１枚、墓地に送ることで、『女帝』より攻撃力の低い相手モンスターを全て破壊する！」

「ーーなんですって・・・！」

透矢は最後に残った手札１枚、『白銀の魂』を墓地に送り、『ラグナロク』の効果を発動。
すると何度か素振りをしていた『女帝』が、その剣の切っ先をエリザのフィールドへ向けた。

『・・・“アリアス”、“メルセディア”。
呪いに落ちたその身から・・・私が今、解き放ってやろう』

エリザの場にいる『白銀の盾』と『守護の鎧』。
『バートリー』の力によってアンデットとして復活させられた部下の躯を、自分のこの手で責任を果たそうという『女帝』の気概。

そして切っ先を左手で持ち、刀身の腹を向けて、閉じた目を隠すように顔の前に横向きに剣を持ってきた『女帝』。
続けて何かを唱えるように小さく口を動かす。

ーーその直後。

『ーー斬』

そう呟き、刀身を横に寝かせて刃の部分を向けた。
隠れていた『女帝』の目を覗かせ、
その瞳に横一閃に斬り裂かれた、『白銀の盾』、『守護の鎧』、『ヴァンパイア・ドール』の身体が崩れ去る光景が映る。

ーー全く一歩も動いていない『女帝』。
どうやったかは恐らく透矢も含む誰にも分からないが、
とにもエリザの３体のモンスターを、断末魔の声も残さずに瞬時に葬ったのだ。

「ああ・・・もう、表現のしようがありません。
今、こうして貴方様と正面から向き合えた事・・・生涯の思い出と致しますわ」

『女帝』の『技』にまた恍惚の表情で、惜しみ無い感動を口にするエリザ。
その一方、３体のアンデットモンスターを破壊された事により、『バートリー』の攻撃力ダウン。
元の２０００という数値に戻った。

「ーーよし！
このままバトルフェイズ！
『女帝』で『バートリー』を攻撃！」

「（『血の口づけ』はヴァンパイアモンスターがいなければ発動出来ないーー。
見事、ですわ、トーヤ）」

透矢の攻撃宣言に合わせて、両手に握り直した剣を頭上へゆっくり振りかざした『女帝』。
何の変哲もない構えだが、それ故に無駄が全くない。

『ーー吸血鬼、不死者との戦い・・・武人としてなかなか楽しめたよ。
・・・この一撃はその私からのせめてもの返礼だ。

ーー受け取ってくれ』

そうして正面に振り下ろされた刃が、地面に突き刺さる。

ーー同時。

『バートリー』がその玉座ごと、額の中心から真っ二つに斬り裂かれた。

ーー古来、伝説に語られるような武人の技は、その威力に反して『静かな』一撃であったという。
極められた一撃に派手さはない。
それが『女帝』の技なのだ。

「くす・・・負けてしまいましたわね」

『女帝』と『バートリー』の攻撃力の差は１３００。
エリザの残りライフ１００を確実に削り取り、同時に勝負を決した。

透矢とエリザの大将戦、透矢が遂に勝利を納め、
そしてイギリス校との戦いは日本側の三戦全勝、という文句なしの勝利で飾ったのだった。