透矢vsエリザ 偉大なる吸血鬼の力！⑥　作：はにわ改

　
ーー『白銀の盾』をアンデット族に変えられ、そして今度は『メルセディア』までが、残酷な拷問器具・『アイアン・メイデン』にその身を閉じ込められた。
透矢の中でわき上がる熱い感情が更に温度を増す。

（ーー冷静になれ、透矢）

感情の高ぶりを感じ取った『女帝』が透矢に語りかけた。

（でもよ・・・！）

（お前にとって我々は『駒（カード）』に過ぎない。
お前が勝つためのな）

（・・・俺は、そんな風には思ってないぜ）

（知っている。
だがお前は言わば我々の指揮官だ。
指揮官は常にクールでなければ務まらない）

（クールに・・・か）

『女帝』の諌めに耳を傾ける透矢。

だが『三騎士』モンスターは自分が愛するモンスターであると同時に、大切な『お姉さん』のカードでもある。
こんな目に合わされて、クールに見つめるなんて事が出来るだろうかーー。

（ーー本当に『アリアス』や『メルセディア』を救いたいと思うなら、冷静に状況を見つめ直すことだ）

（状況をーー）

（・・・これ以上は助言になるな。
正々堂々の勝負に、この上、お前に何かを言うのはあのエリザという女傑に対して非礼の極みだ。
後は巧みに我らの力を使い、この状況を打破して見せろ）

そこまで話して『女帝』は口を閉ざした。
ーー冷静に状況を見つめ直せ。
透矢はその『女帝』の言葉に従って、わき上がる感情を一時押さえて、場の状況を確かめる。

「（ーーそうか・・・なんとなく分かったぞ）」

エリザの場のカードを１枚１枚確認した透矢は何かを掴みとった。
そしてそこに手段を見出だすべく、再び手札のカードに目を落とす。

「（・・・？
熱さが弱まってきているーー？
トーヤの心境に変化が？）」

透矢の様子を１寸漏らさず見ていたエリザが、彼の表情・雰囲気から変化を読み取る。
先ほどまでこちらに襲いかかろうとしていた程の『熱さ』が、確実に冷めつつあった。

「ーー俺は墓地の『女帝の施し』を除外して、
デッキから『女帝』を１枚手札に加える！」

『女帝の施し』の２つ目の効果により、デッキから『女帝』を加え、手札に２枚揃えた透矢。
『女帝』と冠を付けた魔法・罠カードのほとんどに同じ効果が備わっており、手札に常に『女帝』を抱えられるのと同時に、デッキの枚数を減らす圧縮に役立つ。

「そして俺は『女帝』を通常召喚！
『女帝』はレベルが７だけど、場に存在するＴ・Ｆモンスターの素材となるモンスターを１枚、デッキに戻すことで、リリースモンスター無しで通常召喚出来る！」

「（なるほど・・・『メルセディア』は封じ込めたつもりでしたけどーー『女帝』を召喚するための糧に利用したわけですわねーー）」

『メルセディア』は『アイアン・メイデン』によって攻撃・効果を封じられていて、もはや単なる守備モンスターとしての存在でしかない。
だが『女帝』がその『メルセディア』の魂の一欠片を糧に、今、フィールドにその姿を見せる。

「ーー召喚、『女帝の聖杖』！」

フィールドに現れた『三騎士』を統べる『女帝』。
灰色とは違う、白と黒が織り混ざった透き通るような長い髪。
切れ長の瞳が万物を鋭く見据え、内なる強さを確かな輝きとして発している。

「ーー『女帝の聖杖』・・・！
ああ、何て美しく・・・そして雄々しいお姿なのかしら」

その全体像を見たエリザが恍惚の表情で感激を口から漏らし、
観客席も声が上がり、その姿に見入る者が続出した。

そんな『女帝』の能力はレベルが７、攻撃力２５００。
最上級モンスターとしては決して高い能力ではないが、効果がそれを補う。

「『女帝』の効果発動！
１ターンに１度、自分フィールド上に存在する『三騎士』モンスター１体を選択し、その同名モンスターをデッキ・手札・墓地から１体選択して、特殊召喚できる！

ーー来いっ、『白銀の盾』！」

透矢の掛け声に合わせて、『女帝』が手に持つ月を象った杖を掲げて祈りを捧げる。
ーー『女帝』の力、
それは３つに分かれた戦士の魂の一欠片を導く。

そうして透矢のフィールドに、３体目となる『白銀の盾』がデッキより攻撃表示で特殊召喚された。

「よし・・・。

ーー行くぜ、『ラグナシア』」

『何も事前に断る必要などない。
“アリアス”や“メルセディア”が僧であるように、私もお前の駒だ』

このターンにおける己の『役割』を既に心得ている『女帝』。
透矢の気遣いに対し、覚悟を決めた意志を見せるように毅然とした態度で返した。

「だーから！
俺はそんな風に思ってないって言ったろ？」

『ほう、ならばどう思っている』

「ーー大事な・・・仲間さ！」

『・・・ふ。
そうやって恥ずかしい事をあっさり口に出来るのがお前の特徴だ』

「何だよ・・・そっちだって知ってるくせに聞くなよな」

『ふふ、違いない』

『女帝』が笑い、『白銀の盾』たちも小さく笑いながらも、そんなマスターの思いに応えるべく、内に力を込める。
こんな風に思ってくれるからこそ、喜んでその命を賭けられるのだ、とーー。

「ーーバトルフェイズいくぜ！エリザ」

「どうぞ。
ただし、トーヤ？
『鮮血の人狼』がフィールドに存在する限り、他のアンデットモンスターは攻撃出来なくてよ？」

『鮮血の人狼』の２つの効果。
それは自分を攻撃したモンスターを破壊する効果と、自分以外のアンデット族モンスターへの攻撃封じ。

ある意味で２つの効果は嫌らしくも絶妙な組み合わせと言える。

「なら、『女帝』で『鮮血の人狼』を攻撃！」

しかし透矢は構わず攻撃。
『女帝』が杖の先を『鮮血の人狼』に向けると、その先端に白と黒い光を放つエネルギーが混ざりあって、１つの球体を生み出す。
『女帝』が持つ魔力が成し得る彼女特有の攻撃である。

「ーー『アーク・ブラスト』！」

やがて限界点までエネルギーを凝縮したエネルギーの球体が放たれた。
それは徐々に速度を増しながら『鮮血の人狼』へと向かっていく。

「リバース・カード、オープン！
ーー『血の口づけ』！」

「罠カード？！」

「『ヴァンパイア』モンスターが私のフィールドに存在する時に、相手モンスターの攻撃宣言時に発動出来ますの！
わたくしは攻撃モンスターの元々の攻撃力分のライフを回復！」

罠カード、『血の口づけ』。
その効果が発動し、『女帝』の攻撃力２５００分、ライフを回復し、５６００とする。

「そしてこのカードはセット状態に戻りますわ」

「セット状態に・・・？
ってことはターンを跨げば何度でも使い回せるのか！」

再びリバース・カードとして場に置かれる『血の口づけ』。
透矢の言うようにターンを跨ぐ必要はあるが、破壊されない限り何度でも使い回せる強力なカードである。

ーーだが、『女帝』の攻撃は止まらない。
『鮮血の人狼』の胸に炸裂した球体が、断末魔の雄叫びを残して、一瞬の内に呪われたその身体を消し去る。

ーーが。

「くすくす・・・お忘れかしら。
『鮮血の人狼』と戦闘を行ったモンスターは、ダメージステップ終了時に破壊されるという事をーー」

エリザが受けたダメージは５００。
ライフを５１００に減らす。
そして消し去ったかに見えた『鮮血の人狼』の『呪われた魂』が、赤い血の塊のような物体に姿を変え、『女帝』へと向かう。
『女帝』はその物体に胸を貫かれてしまい、破壊されてしまったーー。

だが彼女はそれを知り、覚悟していたのか、神妙な面持ちで最期を迎えた。

「ーー『ラグナシア』・・・済まない！
だけど、これは俺の狙い通りだ！」

「え・・・？」

「通常召喚した『女帝』が墓地へ送られた時、自分フィールド上に存在する『三騎士』モンスターの攻撃力を２５００ポイントアップする！」

ーー『女帝』は死してもなお、『三騎士』にその力の全てを託す。
これにより、透矢の場にいる２体の『白銀の盾』の内、攻撃表示の方がその力を受け取り、攻撃力が３９００にアップさせる。

「攻撃力３９００・・・この効果があるから、『鮮血の人狼』の道連れ効果を恐れていなかったのねーー」

透矢は逆用したのだ。
それも全て、エリザのフィールドにいる『白銀の盾』を呪いから解き放つためーー。

「攻撃力を上げた『白銀の盾』で、『ジル・ド・レ』を攻撃！

ーー『セイバー・オブ・ラグナシア』！」

『女帝』の力を受け継いだ『白銀の盾』がそれを剣に宿させ、渾身の勢いで『純血』のヴァンパイアの一人、『ジル・ド・レ』へと迫る。

自身と同じく魂の一欠片である存在に、呪いをかけた憎きヴァンパイアに、必殺の一撃を繰り出した。

『ジル・ド・レ』の身体は真っ二つに斬り裂かれ、破壊ーー。
同時にエリザに１４００のダメージを与え、残りは３７００となる。

ーー更に、それだけではない。

「呪いをかけた『ジル・ド・レ』は倒したぜ！
ーー戻ってこい、『アリアス』！」

透矢のその声に反応してか、エリザの場にいる『白銀の盾』から急速に毒気が抜けていくように本来の彼女の姿へと戻る。
伸びた犬歯も、まるで時間が逆行するかのように縮んだ。
そして意志を取り戻した彼女は、勇んで透矢のフィールドへと回帰した。

「ーーよし！
先ずは『アリアス』を取り戻したぜ！」

「ふふ・・・さすが、トーヤ。
いかにもその人には『ジル・ド・レ』の呪いによって、『不死（アンデット）』の力を与えていただけ。
故に『ジル・ド・レ』さえ倒せば呪いは消えますわ」

『白銀の盾』を取り戻し、嬉しさを露にする透矢。
『ジル・ド・レ』を倒されたエリザは素直に透矢の力を認めた。

「ーーエリザ、まだまだ行くぜ！
俺のフィールドにはこれで『白銀の盾』が３体揃った！」

「ーーふふ、来ますのね、更なるＴ・Ｆ召喚が・・・」

エリザの場にはまだ攻撃力２８００の『ヴラド』がいる。
透矢の残りのモンスターでは太刀打ち出来ないため、バトルフェイズは終了する。
だがその後のメインフェイズ２にて、『白銀の盾』がその力を解き放とうとしていた。

「フィールドに存在する３体の『白銀の盾』を墓地に送り、Ｔ・Ｆ召喚！

ーー来いっ！
『白銀の戦乙女 アリアス』！」

３体の『白銀の盾』が光の柱を生み出し、それが重なって１つの大きな柱を生み出す。
そこから姿を見せる真の姿である戦乙女、『アリアス』。

『白銀の盾』の呪いを解いた透矢が、こうして２度目のＴ・Ｆ召喚を実現させた。
Ｔ・Ｆモンスター使いであるという事の矜持を皆に見せつけたのだった。