透矢vsエリザ 偉大なる吸血鬼の力！⑤　作：はにわ改

　
「ーーさて、バトルですわ、トーヤ？」

「く・・・っ！」

２体の『純血の吸血鬼（ノーブル・ヴァンパイア）』、『赤い月』に導かれた『人狼』、そして『吸血鬼』と化した『白銀の盾』。
エリザの場には死を超越した存在が並び、それらが透矢に襲いかかろうとしている。

「先ずは『鮮血の人狼』から参ります。
このモンスターの攻撃力はちょうど２０００。
よって『ヴラド』の効果により直接攻撃が可能ですわ！」

「（直接攻撃じゃ・・・『メルセディア』の効果は使えないーー）」

『ヴラド』はその場にいる限り、攻撃力２０００以下のアンデット族モンスターに直接攻撃の能力を与える。
一方、『メルセディア』は自身を含めた自軍モンスターに対する攻撃を無効にする能力があるが、直接攻撃に対しては無力。
言わば穴を突かれた格好だ。

「ーー行きなさい、『鮮血の人狼』！
ーー『血塗られた蹂躙劇』！」

下された攻撃宣言。
『鮮血の人狼』は真上を向いて甲高い雄叫びを上げると、その場から空高く飛び上がり、『メルセディア』の上空を抜けようとする。
そうはさせじと『メルセディア』がそれを阻もうと動きを採るがーー。

「手出し無用ですわ・・・ひれ伏しなさいませ！」

エリザの声に合わせて『ヴラド』の目が赤く光を発し、彼の『能力』が解き放たれる。
すると『メルセディア』は金縛りにあったかのようにその動きを封じられてしまい、
『人狼』はそのまま透矢への正面へと着地した。
そして唸るような声と共に、鋼の爪を装備した右腕を振り上げたーー。

「ーーくっ、リバース・カード！
『女帝の護封陣』！」

しかし透矢に対策があった。
手札の『女帝』を公開しつつ発動された罠カード、『女帝の護封陣』。

「相手モンスターの攻撃宣言時に、手札の『女帝』を公開して発動！
そのモンスターの攻撃を無効にする！」

見せたカードから、『女帝』が飛び出すと、持っていた太陽を象る盾で『人狼』の爪の一撃を受け止める。
そして逆に月を象る杖を振るい、『人狼』を実力で追い払った。

「更に俺はデッキからカードを１枚ドロー！

・・・ふぅ、助かったぜ、『ラグナシア』ーー」

追加効果でカードをドローしつつ、透矢は『女帝』の名を口にしながら礼を言う。
だが『女帝』こと『ラグナシア』の目は厳しく前を捉えていた。

（ーーまだだ、透矢。
奴らの下僕と化した『アリアス』の攻撃が来るぞ）

「う・・・っ！」

ひとまず役目を終えた女帝だが、透矢にそう言い残してからカードへと戻る。
その言葉通り、エリザの追撃が宣言される。

「ーーアンデットと化した『白銀の盾』で、トーヤに直接攻撃！」

鋭く伸びた犬歯を剥き出しにして、咆哮を轟かせながら地を蹴る『白銀の盾』。
『メルセディア』と透矢の場にいるもう１体の『白銀の盾』は、『ヴラド』の魔力により守備に参加出来ない。
透矢は迫る『白銀の盾』に対して、逃げずに真っ向から向き合った。
そして『白銀の盾』が握る細身の剣は、残酷にも透矢の身体を袈裟掛けに突き抜けるーー。

「く・・・っ！」

容赦ない斬撃。
『白銀の盾』の攻撃力１４００が彼のライフを直撃し、残り２６００となる。

ーーその一瞬。
透矢とアリアスの目が互いを見つめ合う。
袂を分かった二人。
透矢はその攻撃に耐えながら決意の炎を燃やす。

「（必ず・・・取り戻して見せる！）」

そうしてエリザの場へと戻っていく『白銀の盾』。
エリザは透矢の様子を一部たりとも見逃してはおらず、口元をカードで隠しながら微笑む。

「（さあ・・・トーヤ。
あなたの中にある『熱いもの』を私に見せて・・・！
私の中に流れる『この血』をたぎらすぐらいにーー！）」

その秘めた『想い』を視線に乗せて、透矢を見据えるエリザ。
透矢はそんなエリザの念に気付くべくもないが、代わりに『女帝』がその一端を捉える。

（ーー妙だな。
奴ほどの実力者ならば、『アリアス』を生け贄とし、更に上級のモンスターも呼べたはずーー）

透矢にも『聞こえないように』、己の心の中で違和感を口にする『女帝』。

（奴め・・・まさか、わざと『アリアス』で攻撃を仕掛けてたのかーー？
透矢を怒らせーー本気を出させるためにーー）

エリザの目からそう読み取った『女帝』。
あくまで『女帝』がそう感じただけで意思を疎通させたわけではないが、
それでも確かにエリザにシンパシーを感じ取っていた『女帝』。

（単なる酔狂かーー狙いは分からないが・・・いずれにしても、変わった娘だーー）

『女帝』はカードの中から、エリザを訝しげに睨みつつも、ただの実力者であるという以上に、他者が持ち合わせない何かを持っている事を感じていたようだった。

「ーーさて、更に攻撃、と行きたいところですけど、
その『メルセディア』という御方がいる限り、モンスターへの攻撃は無意味・・・ですわね」

エリザにはまだ『ジル・ド・レ』と『ヴラド』の攻撃を残しているが、どちらも攻撃力２０００を超えているため、『ヴラド』の直接攻撃付加能力は受けられない。
だからといって、モンスターへの攻撃は『メルセディア』の効果で無効にされる上、更に６００のダメージが飛ぶ。
エリザは素直に自重した。

「わたくしはカードを２枚セットして、ターンを終了いたします」

２枚のリバース・カード、『赤い月』を挟むようにして置かれる。
その２枚は透矢を更に『怒らせる』目的で置かれたカードであった。

「俺のターンだ・・・ドロー！」

透矢の視線はエリザの場の『白銀の盾』だけを見据えている。
彼女を取り戻したいという気持ちの表れか、ドローする仕草にも力が篭った。

「ーーリバース・カード、オープンしますわ」

「ーー？！」

「永続罠カード、『アイアン・メイデン』！」

透矢のドローと同時に発動された、永続罠カード、『アイアン・メイデン』。
すると『メルセディア』の背後に女性の形をした銅像が現れると、それが中心から左右に開き、中の空洞に『メルセディア』の身体が吸い込まれてしまう。
突然の事に為す術がなかった『メルセディア』。
空洞の中で見えない力に動きを封じ込められてしまう。

「な、何だ・・・これは！？」

驚く透矢が声を上げる。

「ーー『アイアン・メイデン』。
『ヴァンパイア』モンスターが２体以上存在する時のみ発動可能。
相手モンスター１体を対象に、その鋼鉄で出来た棺桶に封じ込めますの」

「『アイアン・メイデン』・・・？」

「あら、ご存知なかったかしら。
『アイアン・メイデン』は中世のヨーロッパで使われた拷問器具ですわ」

「拷問・・・だと！？」

「ご覧になって。
開いた扉の内側に先の尖った太い針が突き出ているでしょう？
扉が閉まると、中にいる人間に突き刺さる仕組みですわ」

「何・・・だと！？」

透矢はその銅像を見る。
確かに扉の内側には無数の棘が内側に向かって突き出ている。

「さあ・・・拷問開始ですわ」

エリザが告げると、途端に『メルセディア』が着用していた鎧が見えない力によって剥ぎ取られ、下着姿にされる。
そうしてからもがく『メルセディア』を尻目に、重苦しい音を立てながら扉は閉じられたーー。

「『メルセディア』！」

「『アイアン・メイデン』によって捕らわれたモンスターは攻撃・効果の発動を封じられ、更にわたくしのターンのスタンバイフェイズ毎に、捕らえたモンスターの攻撃力分のダメージを与えますの」

「く、くそ・・・！」

「今頃、中ではあの立派な御方がもがき苦しんでいますわ。
防音構造が働いていますから、悲鳴を聞くことは出来ませんけど」

「エリザ・・・！」

透矢の中で急激な怒りが膨れ上がる。
『白銀の盾』を不死者に変えられ、更に『メルセディア』までがエリザの仕掛けた拷問の餌食となったのだ。
『三騎士』たちを大事に思い、そして愛する透矢がその仕打ちに怒らないはずがない。

「言っておきますが、『アイアン・メイデン』はトーヤのカード効果を一切受け付けませんの。
破壊しようとしても無駄ですわよ」

「く・・・！」

「さぁ、トーヤ？
早く助けて上げないと・・・中の人が永遠に苦痛を味わい続けますわよ？
そしてわたくしのスタンバイフェイズ毎に、あなたもその痛みを共有しますの・・・ふふふ、あはははは！」

ーー残酷なエリザの手口。
透矢は囚われの『メルセディア』を救いだし、エリザに反撃を決められるのだろうか。
透矢の中で力がわき上がるーー。