世界大会開幕！vsイギリス校！　作：はにわ改

　
ーードーム内、日本代表控え室。
広々とした部屋に、出番を待つ代表選手たちがくつろげるよう用意された柔らかいソファーにテーブル、更に空調や冷蔵庫などの生活器具も完備してある。
そして壁に掛けられた横長のテレビモニターには、会場の様子が映し出されており、試合の様子を落ち着いて観戦できるのだ。

約３０分の試合会場整備。
それが終われば早速一回戦が始まる。
そして一回戦最初の試合は日本校対イギリス校。
初参加の透矢・真希は迫る初陣を前に、控え室にて言葉少なめに出番を待っていた。

「ーーほーらほら、どうしたい、真希！
お通夜みたいな顔しちゃってさ」

もはや気分が悪そうにさえ見える真希。
炎魅子がそんな真希の横に座ると、背中を軽く何回か叩く。

「うう～せぇんぱぁあい！
あたし、もう駄目かも。
覚悟は決めたつもりでも、やっぱりあんな大観衆の前でデュエルなんて手が震えちゃうよぉ！」

「にゃははは！
大丈夫だって！
真希ちゃんなら、さくっとワンキル決めちまえば、
出番なんてあっという間、あっという間！」

「そんな、世界の代表相手に、ワンキルなんて簡単に決まるわけないわよぉ！」

冗談混じりの炎魅子の元気付けに、真希が普段あまり見せない弱気な表情を見せて、炎魅子にすがり付く。

「いえ・・・そうでもありませんよ」

するとテーブルの上に自前のノート型ＰＣで、
去年のイギリス校との対戦を千鶴と一緒に見ていた地影が口を挟んだ。

「真希さんの対戦相手の人は、去年の先鋒戦に出場し、私が戦いましたがーーアンデット族を主体とした、緩やかな流れのタイプです」

「う、うん・・・」

「つまり長期戦になれば、墓地にモンスターが溜まり、アンデットデッキのペースになりますがーー、
真希さんの足の早さを活かして序盤から早い流れにすれば、充分に勝機はあります」

「本当に？」

「はい。
あとは真希さんがいつも通りの力を発揮するだけです」

炎魅子とは違い、具体的な根拠を述べた上で真希ならば勝てると語った地影。
その後で地影は真希に穏やかな笑顔で激励した。

「ーーそうだぜ、真希。
昨日、暗木先生にも言われたろ？
俺たちは自分のデュエルを楽しんでやりゃいいのさ」

炎魅子と逆隣に座る透矢が、真希の頭を軽く叩く。

「それに一緒に勝とう、って言ったのお前だからな？
俺も何とかしてみせるから、お前も約束守ってくれよ」

「透矢・・・」

「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ファイト！」

「千鶴ちゃん・・・うん、ありがと」

透矢、千鶴から励まされてようやく表情が解れる真希。
炎魅子と地影はお互いを見ながら、小さく笑い合った。

「ーーただいま、みんな」

ーーそれから少しして、席をはずしていた水花の手を引く刹那がクロエと共に帰って来た。

「おかえり、刹那。
親父さんとは話せたのか？」

「うん」

透矢が席を立って出迎え、刹那が笑顔で頷いた。
そう、刹那はクロエと共に父に会いに行っていたのだ。
刹那の父は忙しい身の上だからか、このタイミングでしか会える時間が無かったようだ。

「もっとゆっくり話してくりゃいいのに。
次の対戦では刹那は出ないんだし、
随分会ってなかったんじゃないのか？」

「ううん、大丈夫。
話そうと思えば、また違う機会にいつでも話せるし」

「でもよ・・・」

「ありがとう、透矢くん。
透矢くんにそんな風に気遣ってもらえて嬉しい」

「いや・・・刹那がいいなら、それで・・・」

「くすくす・・・」

気遣いに嬉しそうに微笑んだ刹那を見た透矢は何故か照れたように目を反らすと、
それを隠すようにしゃがんで水花の頭を撫でる。
ぼんやりとそれを眺めている水花に、刹那はおかしそうに笑った。
一方で、真希だけは複雑な表情でそれを見つめていた。

「ーーよし、いいか。
もうすぐ１回戦が始まる！
出場する朝霧、千歳、遊戦名！」

ーー生徒たちをソファーへ座らせたクロエ。
自分だけはその前に立って、間もなく１回戦に出場する生徒の名を上げると、呼ばれた本人たちははっきりと返事をした。

「優勝を目指す上で、弾みと勢いを付ける大事な１回戦だ。
是非、日頃の研鑽と勉学の成果を存分に発揮してもらいたい。

ーー特に、千歳、遊戦名」

厳しい表情のまま、言葉を語るクロエ。
そして再度名を呼ばれる透矢と真希。

「君たちはこの１回戦が、世界大会での初試合だ。
緊張・戸惑いもあるだろうが、
それを知りながら私と刹那が、なお君たち二人を緒戦から推したのは、
私を始め、ここにいる全員が君たちの実力を高く評価、信頼してのことだ！」

透矢と真希を鋭く見据えるクロエ。

昨日は刹那から、そして今日はクロエから伝えられて、
改めて大きな期待が自分たちの肩に掛かっているのだと思い知り、透矢の中では自然と熱いものが込み上げてきていた。
すなわちこの期待を裏切ってはいけないのだ、と。

「どうか張り詰めた空気に負ける事なく、存分にその力を奮い、
そして優勝の栄華を目指して力を尽くしてもらいたい！」

「ーーはいっ！
全力で頑張りますっ！」

「ーーよし、いい返事だ」

クロエの思いに応えたい思いからか、透矢は自然と己を立ち上がらせ、その熱い気持ちを表現した。
クロエもそれを見てやや表情を和らげ、大きく頷いて見せる。
隣に座る真希も、透矢の奮い立ちからその熱さを吸収するように、心の中で必死に強い緊張と戦っていた。

ーーそんなクロエの言葉から数分、
遂に会場スタッフが外から控え室の扉を叩く。
いよいよ初陣が始まる。
クロエの後に続いて透矢、真希、地影、そして更にその後ろから刹那と炎魅子が続く。
水花と千鶴は控え室に居残り観戦。
特に千鶴は記録係として、これから始まるデュエルを余さず見届け、地影から委ねられたＰＣにそれを記録しなければならない。
例え試合に出ることはなくとも、千鶴にも大事な役割が与えられているのだ。

ーーそうして再びゲート前へとやって来たクロエ率いる日本代表。
外から歓声と例の司会の声が聞こえてくる中、遂に戦いの場へと続くゲートが開かれた。

会場の中央に設置されたデュエル場。
出場メンバーには事前に知らされているが、
ここではデュエル・ディスクとデュエル場の地下に内蔵されたコンピューターとをコードで繋ぎ、デュエルを行う。
別段やることは普段のデュエルと変わりないが、ディスクにセットされたモンスターは更に大出力な処理による、よりリアルな映像として、
対戦者二人の間のフィールドに姿を現す事になる。
そのため、対戦者と対戦者の間はかなりの距離があり、
お互いの顔が小さく見える程度だという。
現にクロエたちがデュエル場の前に立つと、既に向かい側にはイギリス校の代表選手が肩を並べているが、
声を届かせるとしたら、かなり大きな声を上げなければならないだろう。

「（・・・エリザ）」

透矢はイギリス校の代表の１人に目を付ける。
そこには昨日、自分を助けてくれたイギリス校の大将を名乗ったエリザの姿。
透矢の視線に気がついたエリザも、小さく笑顔で返してくる。

『ーーそれではデュエル・モンスターズ世界大会、１回戦第１試合！
日本代表とイギリス代表の試合を、始めちまうぜーーっ！？』

デュエル場の中央で例の司会が大袈裟な身体のモーションと共に、そう宣言すると、
数万の観客たちが一斉に拍手喝采を上げた。
その轟音は会場へと注がれ、鼓膜を突き破るのではないかというほどに耳を突き抜ける。

『それでは１回戦第１試合、先鋒戦！
代表選手は前に出てくれぇいっ！』

「ーー行ってきます」

そしてその声が掛かり、まず地影が足を踏み出す。
後ろから透矢たちのエールを受けながらデュエル場の短い階段を登り、地影は戦いの場に踏み立った。
冷静沈着な地影と言えども、緊張はあろう。
だがその静かさの中に、デュエリストとしての闘志を燃やし、同じく向かい側に立ったイギリス側の代表選手に向けて睨みを利かせていた。

そして用意されたデュエル・ディスクに腕を通し、今日までに組み上げたデッキをセット。
開始の合図を前に、地影は１つ深呼吸をして、更に己の気持ちを静めさせた。

『それでは準備はいいかーー？！

１回戦第１試合、先鋒戦！
デュェェエル、スタァアアァートッ！』

『ーーデュエル！』

この大会の全ての始まりとも言えるこの先鋒戦がいよいよ始められた。
後に続く仲間たちのためにも、地影は必勝を志すーー。