炎魅子vs久遠 禍々しき魔神の恐怖！⑨　作：はにわ改

　
「ーー私のターン、ドロー」

久遠のターン、ドロー。
残りライフ７００の炎魅子にとって、如何にこのターンを凌ぐかが命題となる。

「ーースタンバイ！
あたしのフィールド魔法『クリムレイト』が効果を発動！
フィールド上のモンスター全てに『バーニング・カウンター』を置く！」

ドローフェイズ過ぎて久遠のスタンバイフェイズ。
ここでも炎魅子のフィールド魔法、『クリムレイト』が効果を発動。
フィールド上のモンスター、つまり炎魅子の『爆晶竜（バーニング・フレア・ドラゴン）』と久遠の『混濁魔神（カオス・デビル） ベルゼブブ』に『バーニング・カウンター』が１つずつ乗る。
これで、『爆晶竜』にはカウンターが元々持っていた２つと合わせて３つ、『ベルゼブブ』には１つのカウンターが乗せられた。

「ーーんでもってリバース、オープン！
『バーニング・コロナ』！」

続く炎魅子の動き。
２枚のリバース・カードの内の１枚を発動させた。

「あたしの炎属性・ドラゴン族モンスター１体を選択し、そのモンスターに乗っている『バーニング・カウンター』を３つ取り除いて発動！
相手フィールド上の攻撃力が１番高いモンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与えるぜ！」

「・・・ふん」

「あたしは『爆晶竜』のカウンターを３つ取り除いて発動！
吹き飛べ、『ベルゼブブ』！」

『爆晶竜』が空に向かって猛る。
途端に『ベルゼブブ』の周囲の地から次々とマグマが吹き出し、その巨体を呑み込んでしまう。
そうして蠅の王たる魔神を打ち倒した炎魅子。
更に『ベルゼブブ』の攻撃力の半分、１５００ダメージが久遠のライフを直撃し、１８００まで減らす。

「・・・中々しぶといじゃない、炎魅子。
さすが、と言っておいてあげる」

「（ーーこれでやれることはやった。
後はもう１枚のリバース・カードに賭けるっきゃないね）」

一時は原点まで回復した久遠のライフを半分以下まで削った炎魅子。
久遠の感嘆ににやけ面で答えつつも、炎魅子はもう１枚のリバース・カードに視線を向けている。

観客席でも炎魅子のこの追い上げを見せられて、再逆転があるかもしれない、という希望を持つ者も増えていた。

「そんなに頑張っちゃって・・・私に勝ったら何をさせるつもりなの？」

「さぁてね。
それ言っちゃあネタバレだろ」

「まさか私にお姉さまと仲良くしろ・・・とか？」

「ーーっ！」

射抜かれたような、炎魅子の表情。

「え、図星っ！？
何それ、くっさぁーっ！
あはははっ！！」

突然、腹を抱えながら笑い出す久遠に観客が驚く。
さすがにこれは目に余ったか、クリスが久遠を咎める。

「バッカみたい！
そんな風に言うこと聞かせてまで、あたしとお姉さまを仲良くさせて何の意味があるの！」

「ーーああ、あたしもそう思う。
そんなんでお前たちの仲を取り持つ気なんて更々ないさ」

「はぁ？
じゃ何をさせようっての？
さっきの反応からして、あたしの予想も満更ハズレてないんでしょ」

「それは・・・あたしに勝たせてくれたら、教えてやるよ」

にやけながら、飄々とそんな事を言う炎魅子。
それを聞いた久遠が再び吹き出し、炎魅子もそれに合わせて笑った。

「・・・まったく、炎魅子といると飽きないわね」

「そうか？」

「だから私も・・・私も、あなたたちと一緒にいたかったのに」

「久遠・・・っ」

寂しげに笑う久遠。
炎魅子はその表情と言葉に久遠の真実の思いを見た気がした。

「ーーメインフェイズよ。
私は墓地の悪魔族モンスター、『イビル・バイター』、『ベルゼブブ』、『ベルフェゴール』を除外して、チューナー・モンスター『イビル・プリースト』を特殊召喚！」

久遠が真顔になり、デュエルが再開する。
墓地から３体のモンスターが除外されて特殊召喚される久遠のモンスター。
頭から足までの全身を前開きの黒いローブで身を包む、人間らしき姿形。
だが頭の部分からは２本の牛の角がはみ出しており、そして血の気が失せた白い手には凶悪な顔をした牛の剥製が取り付けられた杖が握られている。
果たしてあのローブの中身はどんな姿をしているのだろうか。

魔神を崇拝する者、『イビル・プリースト』。
レベルは１で、攻撃力は０。
そして久遠が言ったようにチューナー・モンスターでもある。

「『イビル・プリースト』の効果を発動。
墓地の悪魔族モンスターを攻守０、効果を無効にして特殊召喚する」

「く・・・やっぱり、シンクロ狙いか！」

「私は墓地から『イビル・ゲイザー』を特殊召喚！」

『イビル・プリースト』がおおよそ人語とも思えない、不可思議な言語を呪文として捧げると、墓地から眼球の悪魔、『イビル・ゲイザー』が甦る。
ただし効果は無効、攻守は０である。

だが久遠の狙いは、炎魅子の言うようにシンクロ召喚だ。

「『イビル・プリースト』の２つ目の効果！
『混濁魔神』モンスターをシンクロ召喚する場合、このカードを光属性チューナーとして扱うことが出来るわ！」

「至れり尽くせり、ってわけか」

「いくわよ、炎魅子！
私はレベル７、『イビル・ゲイザー』にレベル１、『イビル・プリースト』をチューニング！」

闇属性である『イビル・ゲイザー』が『闇』を、そして『イビル・プリースト』が『光』を導き、
その２つの相反する力が再び混濁なる世界への入り口を開いた。

空間が裂けた向こう側に、淀み歪んだ世界が広がる。

「暴虐と憤怒を司る魔界の王！
光と闇、２つの力を盟約の代償として、下界を混濁の色で染め上げよ！」

ーー混濁の世界から現れる新たな魔王。
妖艶な肢体を持ちながら、司るは暴虐。
圧倒的破壊の力を秘めた『混濁魔神』が今、解き放たれる。

「ーーシンクロ召喚、『混濁魔神 アスタロト』！」

炎魅子の前に姿を現した『アスタロト』。
久遠が時折見せるその笑いに似た、『嘲笑』を浮かべる妖艶な魔神。
久遠の数あるエース・モンスターの中でもこよなく愛するこの『アスタロト』が、炎魅子の勝利への希望を今、閉ざそうとしていた。