炎魅子vs久遠 禍々しき魔神の恐怖！⑥　作：はにわ改

　
ーー炎魅子のフィールドに姿を現した彼女のエース・カード。

赤黒い鱗を纏った、逞しい体躯と四肢を生やした竜。
更に赤黒い鱗を内から突き破るように、全身各部から生えた赤紫色の水晶の石柱。
横に裂けた口を開き、轟き声を上げながら背中から生える巨大な翼を広げると、炎魅子と久遠の周りの地から、更にマグマの柱が上空に向かって噴き出した。

その派手な演出に、観客席のテンションも熱さを増す。

「ーーすげぇ、かっけぇ！
あれが炎魅子先輩のエースか！」

「『爆晶竜（バーニング・フレア・ドラゴン）』ーー。
あたしたちが『四龍』カードを継いでからは、全然使ってなかったみたいだけどーー」

「・・・えみこの『本当の竜』。
えみこ、本気になった」

炎魅子の強力モンスターを目の当たりにして歓喜する透矢に、
真希、水花が続けざまに口にする。
透矢が生徒会四天王としての炎魅子とデュエルした時に使った『四龍』。
だがそれはこのアカデミアの伝統に則って使っていただけであり、真のエースは別にいたのだ。

それがあの『爆晶竜』ーー。

「くそ～、久遠の奴もあんなに強そうなモンスターを立て続けに出しやがるしよ。
俺もあの中に混ざりてぇな」

「ったく、本当にあんたはデュエル脳なんだからーー」

透矢の発言に呆れる真希だったが、そこで背後の異変に気付く。
透矢の背後に座る地影。
見ると、頬を膨らませて口を押さえている。
しかし抑えきれてないのか、空気が漏れるような声が出ている。

ーーそして、次の瞬間。
地影の口が『噴火』した。

「ーーあははははっ！
あははっ、あははははっ！」

突然の出来事。
一同が飛び退くように身体を捩り、地影を見る。
唯一反応が薄かった水花でさえも、興味津々に視線を遣っている。

「な、なんだ？
ど、どうした、朝霧！」

「あ、朝霧先輩・・・？」

「め、珍しいわね、地影が声を出して笑うなんてーー」

「何か面白いことでもあったの？」

透矢、千鶴、刹那、真希が地影に訊く。
すると笑いに乗じて溢れた涙を拭いながら、地影は徐々に己を取り戻していく。

「し、失礼しました・・・。
下らないことで、こんな醜態をーー。
お恥ずかしい限りです」

「な、なんだよなんだよ、教えてくれよ！
何がそんなに可笑しかったんだよ」

「そうよ、めっちゃ気になる！」

ハンカチで口を押さえながら咳払いをして、いかにも平常心を演じる地影。
だが皆が堅物、という印象を抱くあの地影が大笑いするなど、そうそう見れる光景ではない。
透矢と真希が当然ながら逃がしてはくれない。

すると地影も観念したのか、恥ずかしそうに吹き出した理由を話し始めた。

「いえ・・・あの炎魅子さんの竜について、前から思っていたのですがーー」

「ふんふん、炎魅子先輩のあの竜がどうした？」

「早く教えてよ、地影！」

まだ躊躇っている様子の地影。
だが透矢たちの視線が厚く、そこまで話しながら肝心な部分を話さないわけにはいかない。

「あの『爆晶竜』という日本語読みは、『ばくしょうりゅう』と読む訳でして」

「ふんふん」

「その・・・音、だけでそれを聞くと、『爆笑する竜』というフレーズが浮かびましてーー」

「爆笑する・・・」

「竜？」

地影が語るその内容に、きょとんとした面持ちで顔を見合わせる透矢と真希。

「それ以来、あの竜が出る・・・たび、に・・・『爆笑する竜』という姿、が、頭に浮か、んで・・・ぷぷ、くくくく・・・あはははっ！」

自分で自分のツボにはめたのか、再び笑い出す地影。
だがそれを聞いた透矢たちは冷ややかな視線で地影を見る。

「（『爆晶竜』を・・・『爆笑、竜』・・・）」

「（く、下らな～・・・）」

「（朝霧先輩の感性って、やっぱり私なんかとは違うんだなぁ・・・）」

「（ふむ・・・地影の新しい一面を見たわね）」

「（・・・１５点。ちかげ、才能ない）」

笑う地影を、透矢たちはそれぞれの思いを抱きながら生温かい目で見守っていた。

「ーーさ、さて、炎魅子さんのあの竜が出た以上、いよいよ出ますよ！
炎魅子の必殺の一撃が！」

「お、おう・・・」

「私も練習デュエルで何度も爆死させられています！
『バーニング・カウンター』を活かす、最大の一撃がーー」

冷たい空気を感じ取ったのか、地影はわざとらしく語彙を強めてさっきの醜態を無かったことにしようとする。

「にしても、朝霧もあんな笑い方するんだな」

「うんうん、あたしも初めて見た！」

「も、もう・・・その話はーー」

だが透矢と真希は離してくれない。
地影の表情が恥ずかしさのあまり、みるみる紅潮していく。

「今度、『地影を笑わせる会』というのをやってみるのも面白いかもね」

「お、刹那！
面白そうだな、それ」

「も、もう、刹那さん、いい加減に許してください～」

困る地影をからかい、和やかな雰囲気の透矢たち。

そんな中、地影が誤魔化すために口走った発言の通り、炎魅子が最大の一撃を放とうとしていた。






ーーデュエル場。

炎魅子のフィールドに姿を現した『爆晶竜』を久遠が見上げる。

「ーー１ターン目に発動した『燃え盛る獄炎』。
あの手札コストで既にそのカードを墓地にーー」

「そうそう」

「ふん・・・抜け目ないじゃない」

さりげない炎魅子の動きを久遠は賞賛するように言う。

ーーレベル８、攻撃力２８００の『爆晶竜』。
『ベルフェゴール』を上回るが、『ベルゼブブ』を下回る攻撃力。
だが『爆晶竜』の真骨頂はその効果にある。

「ーー『爆晶竜』の効果を使うよ！

１ターンに１度、フィールド上に存在する『バーニング・カウンター』を全てこのモンスターに移す！」

発動される能力の『第一段階』。
『ベルフェゴール』や『ベルゼブブ』に乗っていた『バーニング・カウンター』が全て、『爆晶竜』に集約される。
合計して５個のカウンターが、『爆晶竜』へ移された。

「そして！
『バーニング・カウンター』が乗っていた『爆晶竜』以外のフィールド上のモンスターを全て破壊し、
破壊したモンスター１体につき、５００ポイントのダメージを与えるよ、久遠！」

「・・・ちっ」

そして『第二段階』。

爆晶竜が再び轟くと、フィールドが振動を起こしながらマグマの河が揺れる。
同時に地から吹き荒れるマグマ。
まるで『爆晶竜』の力の高まりに共鳴しているかのようだ。

そして爆晶竜の身体の水晶石柱が真っ赤に染まり、口の奥底から黄色い光が見え隠れする。

「行け、『爆晶竜』！
フィールド上のモンスターを全て焼き尽くしな！

ーー『地獄の爆炎（インフェルノ・ボマー）』！」

そうして『爆晶竜』の口から放たれたとてつもない熱量を持った炎。
いや、もはや炎というよりは光。
黄色く輝くその光が一瞬にしてフィールド全体に広がり、
『ベルフェゴール』・『ベルゼブブ』の２体の魔王を、
そして『ベルゼブブ』が産み出したトークンと炎魅子の場にいた『イビル・ゲイザー』も、全てを焼き尽くし、その存在を消し去ったのだ。

「く、ぐく・・・っ！」

まばゆい光に耐える久遠。
この光は久遠が操る『闇』に満ちたモンスターたちを、打ち払える光となり得たのだろうかーー。

炎魅子は握り拳に力を込め、会心の声をあげた。