炎魅子vs久遠 禍々しき魔神の恐怖！④　作：はにわ改

　　
ーー攻撃力４２００の『ベルフェゴール』の攻撃。
しかも装備魔法『イビル・クライシス』の効果で貫通能力を付与し、守備力０の『魔神の落とし子』を標的としている。

この攻撃がこのまま通れば炎魅子のライフは全て削り取られてしまうのだが、炎魅子に動きはあるのかーー。

「ーーリバース・カード、オープン！
『爆炎焦熱壁（バーニング・ウォール）』！」

炎魅子は動いた。

前のターンに『バーニング・レイズ』と共に伏せたリバース・カード、『爆炎焦熱壁』。
これが炎魅子のライフを守ってくれるようだ。

「この罠カードで、１度だけ自分が受けるダメージを０にするよ！」

「ーーちっ」

迫り来る『ベルフェゴール』が放った攻撃が、赤い光に包まれた赤子のモンスターを打ち砕く。
本来なら貫通ダメージが発生していたはずだが、炎魅子の罠カードにより、さっきの効果ダメージに引き続きまた帳消しとなった。

「更に！
受けるはずだったダメージ１０００ポイントにつき１つ、フィールド上のモンスターに『バーニング・カウンター』を置くよ！
あたしは４つのカウンターを『バーニング・エッグ』に置く！」

そして追加効果。
受けるはずだった戦闘ダメージは４２００。
それが１０００ポイント単位で一個の『バーニング・カウンター』に姿を変え、
それが『バーニング・エッグ』に置かれる。
これで『バーニング・エッグ』に乗ったカウンターは合計８個。

「にゃはは！
『バーニング・エッグ』に『バーニング・カウンター』が乗ったから、また２００ポイントのダメージを受けてもらうよ！」

そして三度繰り返される。

『バーニング・エッグ』から噴き出した火炎が久遠に襲いかかり、ダメージを与える。

これでライフは３４００。

久遠の額に血管が浮き出た。

「ーーあーもうっ！
相変わらずちょこちょこ、五月蝿い効果ダメージね！
炎魅子！あなたの性格、もろに出てるわ！」

「ーーひょお！
誉め言葉として受け取っとくぜ」

「き～・・・っ、全く、忌々しい！」

合計で６００ダメージ、と比較的軽傷のはずだが、
僅かなダメージを繰り返し与えてくる炎魅子に、久遠は腹を立てる。
炎魅子は逆に嬉しそうにけたけたと笑うのだった。

「ーーいいねぇ、らしくなってきたじゃねぇか、久遠」

「何ですって！？」

「最近のお前、無駄にセレブっぽい振る舞いしたり、似合わねぇ言葉遣いしてたからねぇ。
昔からお前を知ってるあたしからすりゃ、やっぱりそういうすぐ感情的になるお前の方が見慣れてるよ」

「く・・・余計なお世話よ！
知ったような口を利かないで！」

「あっはっはっは！
まぁ、そうカッカしなさんな。
親睦デュエルなんだし、楽しくやろうぜ？」

まるで見透かしているかのような炎魅子に、久遠は苛立ちを深める。
同時に思い直した。
この炎魅子に一泡ふかせるのは、デュエルで叩き潰す事においてほかにない、と。

「ーー『魔神の落とし子』の効果、発動！
フィールドのこのカードが墓地へ送られた時、デュエル中に１度のみ私の場に復活させる事ができる！」

デュエル、再開。
今の『ベルフェゴール』の攻撃でダメージこそ与えられなかったが、もう１つの狙いは『魔神の落とし子』の破壊。
そしてその効果により、破壊された『魔神の落とし子』は即座に久遠の場に復活した。

「この効果で特殊召喚した『魔神の落とし子』は光属性になるーー。

更に手札より『イビル・ブルーム』を通常召喚！」

闇属性から光属性へと反転した、レベル１チューナー、『魔神の落とし子』。
更にまだ行使していない通常召喚権をここで使い、新たなモンスターを召喚。
地が割れ、そこから何本もの黒い根が絡み合いながら伸び、黄色い花びらと共に巨大な眼球が咲く。
見るからに不気味なそのモンスターだ。

レベルは７、攻撃力は２２００。

「『イビル・ブルーム』は相手フィールド上に、レベル５以上のモンスターが存在する時、リリースモンスター無しで召喚出来る！」

「あたしの場にはお前が召喚した、レベル７の『イビル・ゲイザー』がいる・・・か。
へ、全くどこまでがコンボで繋がってるんだか」

炎魅子が久遠の戦術に、呆れすら覚えるほどに感心する。
最初の６枚の手札を確認し、そして『アスタロト』の効果で炎魅子の場にモンスターを召喚してからここまで、瞬時に組み立て、そして最終的な場面を想定したということか。

「いくわよ、炎魅子！

私はレベル７、『イビル・ブルーム』にレベル１チューナー、『魔神の落とし子』をチューニング！」

「（来る・・・ね！）」

久遠の場に召喚された、チューナー『魔神の落とし子』と、『イビル・ブルーム』。
この２体を使用し、更なるシンクロ召喚が行われる。

ーーまだ１ターン目。

にも関わらず、早くも２体目のシンクロ・モンスターを呼びだそうというのか。

観客も瞬きする間も惜しんで、久遠の一挙一動に集中する。

「ーー相反する二つの力を盟約の代償とし、混濁の力を統べし魔界の王よ。
その力を下界に示し、暴虐の嵐で包み込め！」

『魔界の落とし子』が光を、『イビル・ブルーム』が闇の力を導き、
その二つが合わさり『混沌』の力を生み出す。
そして『ベルフェゴール』の時同様、空間が縦に引き裂かれると、そこから醜悪な姿をした『魔王』が姿を現す。

「ーーシンクロ召喚！
『混濁魔神、ベルゼブブ』！」

ーー異界から現れた魔神、『ベルゼブブ』。
その名は『蠅の王』、『糞の王』などという意味があるが、
正にその名に相応しい汚濁に満ちた巨大化したハエというべき姿。

２つ横に並んだ俗に言う『ハエ目』の間からは、蚊を連想させる巨大な針が長く鋭く伸びている。
胴体からは細く３肢からなる脚が無数に生えていて、肩先から生えた他の脚とは違う太い両脚は、槍のような武器を握っているようだ。
背中からは昆虫の翅がこれまた幾重にも連なって生えており、そして全身を細かな毛が隙間なく埋め尽くしている。

「うぇ～・・・やっぱりコイツだけはどうしても好きになれないわ」

恐いもの知らずの炎魅子にも、さすがに苦手な部類なのか、苦笑いを浮かべながら後ずさる。
昆虫が苦手な人間ならば、見るだけで鳥肌がたつような姿だ。

そんな『ベルゼブブ』のレベルは８、そして攻撃力は３０００となっている。

「『ベルゼブブ』、効果発動！」

そして発動される『ベルゼブブ』の能力。
『ベルゼブブ』が目の間から伸びる針を地面に向かって突き刺すと、しゃくり上げるように何かを引っ張り上げた。

針の先に突き刺さっていたのは、ベルゼブブの素材となった『魔神の落とし子』ーー。

「『ベルゼブブ』のシンクロ召喚成功時、私の墓地に存在する悪魔族モンスターを一体除外し、『腐食の眷属』トークンを２体特殊召喚！」

突き刺された『魔神の落とし子』が溶け落ちるように消えてなくなると、『ベルゼブブ』の腹から産み落とされる２体の『ハエ』。
それぞれが手に槍を携えている。
レベルは１、守備力は５００と見た目通りの貧弱なステータスだ。

「あのトークンは・・・！
エンドフェイズ毎に３００ポイントのダメージを与えてくる厄介な奴ーー！」

「それだけじゃないわ！
この『眷属』を戦闘で破壊したモンスターを道連れにする！」

だが仮にも魔神が産み出したモンスター。
ただの見た目通りの『ハエ』ではない。
対処に戸惑えば、どんどん炎魅子のライフを削り取る。

「くすくす・・・カードを１枚セットして、ターンを終了するわ」

ようやく終わる久遠のターン。

だが久遠の場には『ベルゼブブ』と『ベルフェゴール』の２体の強力なモンスター。
そして『ベルゼブブ』の産み出した厄介な道連れ能力を持つ『ハエ』トークン。

今、フィールドは久遠の支配下にある。
次なる炎魅子のターンで、何とか２体の『混濁魔神』たちを打ち倒さなければならない。

「ーーあたしのターン、ドロー」

そんな最中でも冷静にカードを引く炎魅子。
炎魅子に久遠を破る秘策はあるのだろうか。