炎魅子vs久遠 禍々しき魔神の恐怖！③　作：はにわ改

　
ーー久遠のフィールドに姿を現した『混濁魔神（カオス・デビル） ベルフェゴール』。
刹那の『混沌天使（カオス・エンゼル）』と久遠の『混濁魔神（カオス・デビル）』は、同じ『カオス』で在りながら、相反する存在。

刹那の『天使』はその名が示すように神々しさが感じられたが、久遠の『悪魔』もまた、その名の通り非常に禍々しい姿を持つ。

濃緑色の長い髪を持つ、一糸纏わぬ美女。
だがその頭の左右からは闘牛のような角が一本ずつ生えており、その肢体は凍りついているかのように青白い。
そして角と並び、悪魔の象徴とも言える蝙蝠のような巨大な両翼と、股の後ろから生える蛇のように細く長い尾。
そのベルフェゴールの姿を見る者を等しく震わせる。

モンスターとしての能力は、レベルは８、攻撃力は２７００だ。

「ーーくすくす・・・『ベルフェゴール』の効果発動！」

「（奴の効果は確か・・・）」

「このモンスターがシンクロ召喚に成功した時、相手は私の手札と同じ枚数になるまでカードをドロー出来る！

・・・ただし、その場合ドローカード１枚につき、８００ポイントのダメージを受ける」

「（久遠の手札は５枚ーー。
あたしの手札は１枚。
つまり４枚ドロー出来るが、８００掛ける４で、合計３２００のダメージ・・・ってか）」

「あなたがこの効果を行使しない場合、私はデッキからカードを１枚ドローする。

・・・さぁ、どうする、炎魅子？」

『ベルフェゴール』の一風変わった特殊能力。
炎魅子はライフを犠牲に少なくなった手札を補充出来るが、払う代償はライフのほとんど、とかなり高い。
だがこの効果を使わなければ、久遠は純粋に１枚、無償のドローを行える。
たかが１枚、ではあるが、久遠を相手にした場合、それは大きな１枚になり得る事は、炎魅子も承知済み。

ーージレンマとなる選択のはずだが、炎魅子の決断は意外に早かった。

「んじゃ、遠慮なくカードをドローさせてもらうとすっか！」

炎魅子はドローする事を選ぶ。
久遠の手札の枚数、５枚に等しくなるように、４枚のカードをドローする。

「じゃ炎魅子、代金を支払いなさい？
１枚につき８００、合計３２００よ！」

『ベルフェゴール』の赤い瞳が光る。
するとドローした炎魅子のカードから、黒く先の尖った影のようなものが飛び出し、炎魅子の身体を刺し貫いた。

「ぐ・・・っ！」

４つの影に貫かれた炎魅子。
ただの演出とはいえ、不気味であることに変わりはない。
ダメージは１つにつき８００ポイント、合計３２００。
炎魅子のライフは残り８００となった。
いきなり、炎魅子のライフが１０００を切った事で、観客からどよめきの声が上がる。

しかし、久遠はそんな中でつまらなさそうにため息をついた。

「ーーさっさと発動したら？
『あのカード』が伏せてあるんでしょ？」

久遠がだれた表情で炎魅子に言う。
すると炎魅子は強気に笑った。

「あなたほどのデュエリストが、まさかただ単にドローに目が眩んだ訳ではないでしょ」

「へへ・・・流石だね、久遠。

ーーリバース・カード、発動！
『バーニング・レイズ』！」

炎魅子の笑いは、自分のリバース・カードを読んだ久遠に対する賞賛。
そして発動させたリバース・カードは、正に久遠の読み通りのカードだった。

「相手のカード効果でダメージを受けた時に発動！
その数値分、ライフを回復！ってね」

『バーニング・レイズ』の効果。
それにより、たった今受けたダメージ３２００ポイント分のライフを回復し、炎魅子のライフは原点に回帰する。
観客席が再びどよめく。

「ーー更に、受けたダメージ１０００ポイントにつき１つ、フィールド上のモンスター１体にバーニング・カウンターを１つ置く！
あたしは３つのカウンターを『バーニング・エッグ』に置くよ！」

１０００ポイントにつき１つだから、３２００ダメージならば３つ。
『バーニング・エッグ』にカウンターが乗せられ、
元から乗っていた１つとあわせて合計４つの『バーニング・カウンター』が乗ることとなった。

「んでもって！
『バーニング・エッグ』に『バーニング・カウンター』が乗ったから、久遠に２００ダメージ、な」

「ちっ・・・」

してやったりの炎魅子の表情に、久遠は舌打ちで返す。
再び『バーニング・エッグ』から噴き出した火炎が久遠に降りかかり、ライフを３６００まで減らす。

結果として炎魅子は久遠の『ベルフェゴール』の効果を逆手に取り、手札を無償で補充、
更に『バーニング・エッグ』にカウンターを乗せて、ダメージまで返した。

観客席からは炎魅子に対する歓声が上がった。

「へっ！
どうだい、久遠！
あたしだってやられっぱなしじゃなあないからね」

「ふん・・・いい気にならないで、炎魅子。
これくらい想定の範囲内よ」

得意気な炎魅子に、冷たく返す久遠。
その言葉を象徴するかのように、久遠の場に変化が現れる。
『ベルフェゴール』の攻撃力が上昇を刻み、攻撃力が３７００となった。

「ーーああ、わかってるよ。
あたしがドローすると『ベルフェゴール』の攻撃力が１０００ポイント上がるんだろ？」

「ーーそう。
更に私は手札から装備魔法『イビル・クライシス』を発動し、『ベルフェゴール』に装備！」

久遠が発動させた装備魔法。
ベルフェゴールの周りを、紫色の不気味な光が覆い、その中に叫びを上げる無数の顔が浮かび上がる。

「『イビル・クライシス』は闇属性・悪魔族モンスターにのみ装備可能。
攻撃力を５００ポイントアップし、更に貫通能力を得るわ！」

『ベルフェゴール』の攻撃力が更に４２００へ上昇。
更に貫通能力、即ち守備表示モンスターを攻撃した場合でもダメージを与えられる。

「（あたしの場には、久遠が特殊召喚しやがった守備力０の『魔神の落とし子』がいるーー。
こいつを殴りゃ、貫通能力であたしのライフは０ってか！）」

ーーそう、ここまでが久遠が織り成すコンボの狙い。
『ベルフェゴール』による効果ダメージがかわされても、この攻撃でライフを０に出来るのである。

「くすくす、炎魅子。
この攻撃、防げるかしら？

『ベルフェゴール』で『魔神の落とし子』を攻撃！」

『ベルフェゴール』が空へと飛び上がり、その状態から伸ばした人差し指を突き刺すように前に出すと、周りを覆っていた、紫色の光が炎魅子のフィールドに向かって降りかかる。
無数の顔が不気味な叫びを上げながら差し迫る『ベルフェゴール』の攻撃。

通れば炎魅子のライフは０になってしまうがーー炎魅子に対策はあるのだろうかーー。