炎魅子vs久遠 禍々しき魔神の恐怖！②　作：はにわ改

　
「何だろう・・・炎魅子先輩、何かを話してるーー？」

ーー観客席。

透矢と刹那たち、更にアルフレッドと壇上から引き上げてきたシェリル・メリッサを加えた、言わば代表選手の集い。
透矢には炎魅子と久遠が仕切りに口を動かしあってるのが目についた。

「ーー炎魅子・・・また、独断で動いたわね」

刹那が爪を噛むように口元に当てながら小さく呟く。
そうしながら、ふと炎魅子に呼びだされた一昨日の事を思い出していた。
炎魅子は自分たち姉妹の『異変』に気付いていて、ずっと気にかけてくれていたようだ。
恐らくその事と関連した、今回の炎魅子の行動に違いない、と刹那は察する。

「なぁ、アルフレッド？
そういえば久遠のデッキって見たことなかったけど、どんな感じなんだ？」

久遠のデッキ。
透矢は未だ見たことがない。
その中身を知る者はこの中に何人かいるものの、透矢はアルフレッドに訊いた。

「一言で言うなら・・・刹那と同じ『混沌（カオス）』だ」

「『混沌（カオス）』か」

透矢は刹那に視線をずらしながら、彼女とのデュエルを思い出す。
『混沌』と言えば、光と闇属性の両方のモンスターをデッキに織り混ぜたデッキの事である。

刹那は『混沌天使（カオス・エンゼル）』という、本来は光属性でありながら闇属性も併せ持つという特殊なモンスターを使用していた。

「違いがあるとするなら・・・刹那さんは『天使族』を主体とする『陽』のデッキ。
久遠さんは『悪魔族』がメインの『陰』のデッキです」

「『混沌（カオス）』・・・『悪魔（デビル）』ーー？」

アルフレッドに続いて、地影が答えると透矢がまるでひとまとめにしたように呟いたその言葉。
多少の違いこそあれ、それは正に久遠が操るモンスター群の名前そのものだった。






ーーデュエル場。
今から久遠のメインフェイズに入ろうと言うところ。
久遠は既に気が立っているようであり、カードを握る指に無用な力が込められていた。

「ーー私のメインフェイズ！
私は・・・エクストラ・デッキの『混濁魔神（カオス・デビル） アスタロト』の効果、発動！」

「（ーー来たね）」

動く久遠。
だが場にカードが何もないにも関わらず、彼女はいきなりエクストラ・デッキへと指を伸ばした。
そうして抜き取られたのは白いカード、即ち『シンクロ・モンスター』。

「エクストラ・デッキに存在するこのカードを墓地へ送り、レベルの合計が８になるように、チューナーモンスターとチューナー以外のモンスターを一体ずつ、
私のデッキから『相手の場に』守備表示で特殊召喚する！」

『混濁魔神 アスタロト』の特殊な能力。
それはエクストラ・デッキに在りながら、その効果を使用できるという類を見ない効果。

「私はチューナーモンスター『魔神の落とし子』と、『イビル・ゲイザー』を炎魅子の場に特殊召喚！」

『混濁魔神 アスタロト』が墓地へ送られ、その効果により炎魅子のフィールドに、２体のモンスターが特殊召喚される。
１体目は『魔神の落とし子』。
赤色の透明な球体に包まれた、不気味な笑いを浮かべる赤ん坊のような姿をしたモンスター。
２体目・『イビル・ゲイザー』は斑模様の皮膚が取り囲んだ
巨大な目だけのモンスター。
その皮膚からは無数の触手が四方八方に伸びている。

『魔神の落とし子』のレベルは１で、守備力は０。
『イビル・ゲイザー』はレベルが７で守備力は２０００となっている。

わざわざ相手の場にモンスターを召喚して何をするつもりか。
それを知る者は、久遠と一部の人間のみであり、炎魅子もその例外ではない。

「ーーそして！
更に魔法カード、『混濁なる者との契約』を発動！」

「（はん・・・っ、いきなり飛ばして来るねぇ、久遠！）」

「相手の場のチューナー・モンスターとチューナー以外のモンスターを一体ずつ選択！
その２体と同じレベルの悪魔族モンスターをデッキから墓地へ送り、そのレベルの合計と同じレベルの『混濁魔神』モンスターを、エクストラ・デッキからシンクロ召喚する！」

そして『アスタロト』の効果に連動した魔法カード、『混濁なる者との契約』。
これが久遠が主体とするモンスター、『混濁魔神』を呼び出すためのキーカードである。

「私はレベル１、『イビル・バイター』とレベル７、『イビル・リッチ』を墓地へ送り、
エクストラ・デッキから『混濁魔神 ベルフェゴール』をシンクロ召喚！」

選択された炎魅子のモンスターは、久遠自ら呼び出したモンスター２体。
そのモンスターと同じレベルのモンスターが墓地へ送られ、合計したレベル、８の『混濁魔神』が特殊召喚される。

「ーー闇を司りし魔界の王の一角よ。
世界を欲望に満ちた混濁たる光で塗りつぶせ！」

墓地へ送られたモンスターのレベル、８つ分の黒光りする球体が久遠のフィールドに縦に一直線に並ぶと、それに沿うように空間が引き裂かれる。
その『向こう側の世界』、光と闇が渦巻く空間から、青白い肌を持つ『魔神』の手が現れ、引き裂かれた空間を力任せに横へと広げる。

「シンクロ召喚、『混濁魔神 ベルフェゴール』！」

１ターン目から、その力を見せつけるべく久遠が召喚したエース・モンスターの一群。
その力の凄まじさを知りながらなお、こうして戦おうとしている炎魅子は、緊張の中に楽しむかのような笑みを浮かべていた。