地影vsメリッサ プライドを賭けた決闘④　作：はにわ改

　
ーーメリッサのバトルフェイズに於いて、地影は用意の戦術によってその攻撃を中断させた。
更にライフも削り、通常ならば地影が巧みに立ち回ったように見える。

ーーが、メリッサの戦術もこれで終わったりはしない。

「ーー自分フィールド上の『遺失武装』ユニオンモンスターが破壊された事で、『遺失武装の聖域』の効果発動！
この効果で除外しておいた『遺失武装』モンスターを自分フィールド上に特殊召喚しまーっす！」

「な・・・っ？！」

「私がさっき除外した、『遺失武装 空間歪曲場』を特殊召喚！」

メリッサはメインフェイズにおいて、永続魔法『遺失武装の聖域』の効果で『空間歪曲場』なるカードを自ら除外していた。
その狙いが今、明らかとなった。

『エミリア』が再び操作パネルを操り出すと、その頭上の空間が円の形に歪み、そこから小さな台座に緑の球体を納めた謎の物体が４つ現れる。
するとそれは自動的に『エミリア』を中心とし、前後左右の四方に配置される。
どうやらその４つの物体こそが、『空間歪曲場』というカードの表れのようだ。

レベルは７、守備力は２０００である。

「『エミリア』の効果でぇ・・・『空間歪曲場』を装備するね？」

「（ま、まさか、これはーー）」

少しずつ見えてきたメリッサの戦術。
まだはっきりと全容を把握したわけではないが、『厄介な代物』であると地影は本能的に察知した。

『・・・“ディストーション・フィールド”、展開ーー。

・・・出力、１２０パーセントを維持。
防衛態勢に移行ーー』

４つの物体からなる『空間歪曲場』。
それらがひし形を描くようにそれぞれが発した緑色の光で、互いが互いを結ぶと、
『エミリア』の周囲を緑色の透明な光が包み込む。

それに合わせて、『エミリア』は守備表示となる。
『エミリア』の守備力は５００、と守備には心許ないが、
『バリア』が張られた以上、もはや数値の低さは問題ではない。

「『空間歪曲場』の装備効果は・・・レベル７以下の相手モンスターによる戦闘と、効果で破壊できなくなるの」

「７、以下・・・？
加えて効果による破壊も出来ないーーですって！？」

「しかも・・・『エミリア』が守備表示でいる限り、『エミリア』が受ける戦闘ダメージはゼロ！
貫通攻撃も防いじゃうよー。
ま、その代わりこれを装備している限り、表示形式の変更は出来ないんだけどねー」

新しいユニオンモンスター、『空間歪曲場』は強固な防御壁を張り巡らせた。
これを越えて『エミリア』を倒すのは、一筋縄ではいかないだろう。

「でね、『エミリア』に新しく『遺失武装』が装備されたから、『聖域』の効果でデッキから『遺失武装』を除外！」

「あっ・・・」

「あたしは、えー・・・っと、
ーー『遺失武装 幻影光子剣（ミラージュ・セイバー）』を除外しよっと」

「（・・・なるほど。
恐らくはこれがメリッサさんの戦術の一連の流れーー）」

地影は把握した。
『聖域』による除外効果は言わば一時的な保存であり、『エミリア』の装備が破壊された時にそのカードを装備する。
そしてまた別の装備を除外ーー単純ながら、強力な回転である。

「除外したユニオンモンスターは、『エミリア』の装備が破壊されれば、何度でも即、特殊召喚されるのですか？」

「ううん、それは１ターンに１度だけ。
でも除外する方は回数制限ナシ！」

「そうですか・・・いずれにしても、脅威に変わりありませんね」

メリッサが『聖域』によって得られる恩恵は非常に大きい。
如何に素早くあのカードを取り除くか、それがメリッサと戦いにおいて大事な要素となりそうだ。

「（ーーメリッサめ。
あまり手の内を見せすぎるな、と言ったのだが・・・。
チカゲに全てを把握されたら、大会当日に対策されてしまうぞ）」

横目でメリッサを気遣うシェリル。

シェリルはこの親睦デュエルでは、極力自分のデッキの力を抑えて戦っている。
それでいて、このアカデミアの生徒たちを次々に倒していくのだから、潜在的な力はかなりのものなのだろう。

「（もっとも・・・チカゲ相手にそれをするのも大変、というものか。
まぁ、私もチカゲの戦いを見れるから、ある意味ではお互い様、っと言ったところかーー）」

シェリルは鼻を鳴らす。

そして今、シェリルは一足先に自分のデュエルの『カタ』をつけた。
彼女は己のデュエルを素早くこなしつつ、地影がこちらのデッキを観察するならばこちらも、という考えで地影の動きを見ている。

「あたしはカードを２枚セットして、ターンエンドでぇす！」

メリッサはメインフェイズ２で、カードを２枚伏せた後、ターンを終了させた。

「では、私のターン、ドローします」

そしてターンが移り、２回目の地影のターン。
ドローして手札は３枚。
地影はメリッサの布陣をどう攻略するのか。
眼鏡の位置を直し、レンズ越しに覗く彼女の瞳が光を発するーー。