地影vsメリッサ プライドを賭けた決闘③　作：はにわ改

　
ーー地影とメリッサのデュエル。
名目上は親睦デュエルだが、これには地影のワシントン校側の実力を探るという意図がある。

先攻を握った地影は、１ターン目から動きを見せ、
早くもメリッサのライフを１０００ポイント削り取った。

そうして迎えたメリッサのターン。
いよいよ彼女のデッキが織り成す戦術が明らかになる。

「（前回は機械族、それも『ＸＹＺ』を中心にした『ユニオン・デッキ』だった・・・。
私はメリッサさんの早い動きに、態勢を整えるのが間に合わなかったーー）」

前回大会での苦い思い出を頭に浮かべる地影。
『ユニオン』とは『ユニオン・モンスター』を差し、モンスターでありながら特定のモンスターの装備カードとなる能力を持つモンスター群である。
中でも『ＸＹＺ』は『ユニオン・デッキ』の代表格と言える。

「（あれから一年・・・メリッサさんもデッキが進化しているようですがーー）」

メリッサに挑み負けた生徒たち。
彼らはメリッサの実力を引き出せないまでも、デッキが『進化』している事を地影に教えてくれていた。

「（私が必ず見極めてみせます！）」

地影の今回の役割はあくまで、メリッサのデッキの情報収集。
それは観客席にいる千鶴が記録するのと同時に、地影の脳内にインプットされる。
そうすることでデッキの性質を知り、対策を立てるのだ。

「ーー行っくよ～！
まずあたしは永続魔法、『遺失武装の聖域（ロスト・ウェポン・サンクチュアリ）』を発動！」

始まるメリッサのターン。
まず彼女が永続魔法を発動させると、彼女のフィールドに土色に錆び付いた機械のようなものが無数に現れる。
どれも長き時を経ているらしく、恐らく本来の用途に使用する事は出来ないのだろう。
だがそれらを見ただけでは、一体どんな目的に使用されたかは想像もつかない。

「『遺失武装の聖域』を発動した時ね、デッキから『機巧司令官 エミリア』を手札に加える！
んで、早速それを召喚！」

「（ーー来ましたね）」

メリッサがまず召喚したのは、『機巧司令官 エミリア』なるモンスター。
緑色のセミロングの髪の上に船長（マドロス）帽を被った、眼に光を宿さない無表情の少女。
耳には後ろに向かって伸びる三角形の形をした、イヤーモニター。
そして手足には白い鉄製のプロテクターを装着し、
身体はスクール水着を連想させる、ワンピース型の白い衣服。

不思議な雰囲気を漂わせるその少女の正体とは何なのだろうか。

レベルは１、攻撃力はわずか５００である。
だが地影はこれまで他の生徒たちとの戦いで、必ずこのモンスターが姿を見せていた事から、これがメリッサのキー・カードであると見抜いていた。

「『機巧司令官 エミリア』の特殊能力！
召喚・特殊召喚に成功した時、デッキより『遺失武装（ロスト・ウェポン）』と名の付くモンスター１体を特殊召喚できるよ！」

「（そして『遺失武装』ーー『エミリア』からこの流れが、恐らくメリッサさんの基本戦術ーー）」

「あたしはデッキから『遺失武装（ロスト・ウェポン） 連装式電磁加速砲（ツイン・レール・キャノン）』を特殊召喚！」

『エミリア』の召喚により、更なるモンスター・・・いや『武装』が特殊召喚される。
それは長い砲身の上下を、長方形の厚さの薄い板のようなものが挟み、
それが二門、横並びに一門分の間を空けて連結されている。

レベルは４、攻撃力は１０００だ。
そして肝心なのは、このカードは『ユニオン・モンスター』であるという事だ。

「そして、『エミリア』の効果！
『遺失武装』と名の付くモンスターが特殊召喚された時、『エミリア』に装備カード扱いとして装備出来るの！」

「（・・・ふむ。
通常、『ユニオン・モンスター』が装備・解除出来るのは基本的にメイン・フェイズのみ。
ですが『エミリア』の特殊能力を使えば、バトル・フェイズでも装備可能・・・というわけですか）」

冷静に頭の中で分析し、そしてそこから生み出されるだろう戦術を構築していく地影。

かくして『連装式電磁加速砲』は『エミリア』に装備される事となる。
その兵器には下部に肩当てのような部分があり、そこに合わせて肩に担ぐようにして装備したエミリア。
砲身の長さはエミリアの倍以上あり、かなりの重量だろうが、そんな事は微塵も感じさせない済まし顔。

彼女の肩から突き出るように伸びる砲身が、地影のフィールドを射程に収める。

「『連装式電磁加速砲』の効果！
装備カードとして装備した時、『エミリア』の攻撃力を７００ポイントアップ！」

『エミリア』の攻撃力は５００から１２００へ。
守備力８００の『活火鉱石』を倒せる攻撃力は得たが、『溶帝 ウルカニウス』の攻撃力２４００には遠く及ばない。

「でもって・・・永続魔法『遺失武装の聖域』の効果発動！
『エミリア』に『遺失武装』が装備される度に、デッキの『遺失武装』１枚を除外するよ」

「除外・・・？」

「ふふん、あたしはデッキから『遺失武装 空間歪曲場（ディストーション・フィールド）』を除外するね」

「（あの永続魔法はまだデータにはない・・・一体、除外して何をするつもりーー？）」

永続魔法『遺失武装の聖域』によってカードを除外したメリッサ。
意味もなくそんな行動を取る筈がないと見る地影は、更にその動向に気を配る。

「ーーんじゃ、バトルフェイズ、行きますよ～？
『エミリア』で『ウルカニウス』を攻撃でーす！」

「な・・・？
攻撃力は『ウルカニウス』が上ーーはっ、ユニオンモンスターの効果、ですか？！」

「イッ、エース！
『連装式電磁加速砲』の効果は、装備モンスターより攻撃力の高いモンスターとバトルするとき、攻撃力を２倍に出来るの！」

『エミリア』の攻撃力は１２００。
それが倍になったことで攻撃力は２４００。
『ウルカニウス』の攻撃力と並んだ。

「しかも装備状態の『ユニオン・モンスター』は装備モンスターが破壊される場合に、身代わりになる能力を持つーー」

「さっすが、チカゲ！
じゃ、『エミリア』で『ウルカニウス』と同点バトル！
ーー『ツイン・レール・キャノン』、ファイア！」

『連装式電磁加速砲』を二門、両肩に装備した『エミリア』。
メリッサの攻撃宣言を受けると、『エミリア』の前に立体映像のようなディスプレイと、操作パネルが宙に浮くようにして現れる。
それを両手で操作していくと、両肩の砲門が稼働を始める。

『ーー“ツイン・レール・キャノン”ーー発射！』

操作を終えた『エミリア』が右手を突き出しながら、小さくそう言い放つと、
両の砲門から、上下の鋼鉄板から黒く薄いエネルギーの板に挟まれて、稲光を帯びた赤いエネルギーの塊が発射された。
両門から発射されたそれは、『ウルカニウス』のみを捉え、高速で差し迫る。

「ーー抜かり、なく！
リバース・カード！
『爆散岩衝（ばくさんがんしょう）』！」

「ワッツ？！」

「自分フィールド上の岩石族モンスターを破壊し、その守備力の半分のダメージを相手ライフに与える！
私は『活火鉱石』を破壊し、その守備力の半分、４００のダメージを与えます！」

地影が発動した罠カードにより、『活火鉱石』が弾けるように爆散し、飛散した小さな岩が弾丸のようにメリッサに降りかかる。

「オゥノォ！」

腕でガードしながらメリッサが悲鳴をあげる。
メリッサのライフはこれで２６００。
更にライフ差を広げた。

「それだけではありません！
『活火鉱石』が破壊された時、フィールド上の魔法・罠カード１枚を破壊します！
私は『連装式電磁加速砲』を破壊！」

地影の仕掛けた罠の真の効力はここにあった。
弾け飛んだ岩がメリッサを攻撃しつつ、更に『エミリア』に装備された砲塔を破壊。
これで『エミリア』は素の状態へと戻る。
地影は相手にダメージを与えつつ、攻撃を凌いだ格好だ。

「（私の場のモンスターの数が変わったことで、バトルは巻き戻され、迎撃する事は出来ませんがーー出鼻を挫く事は出来たので、まずまずの流れーーです！）」

地影は思惑通りに進んだ事に頷きながら、自信を深める。
だがまだまだ始まったばかり。
地影はすぐに気を引き締め直した。

「Wｏw！
さすがチカゲでぇす！
相変わらず、カードの使い方が上手くて、あたしはとても尊敬しちゃいます！」

「あ、ありがとうございます。
（負かされた相手に言われても・・・）」

「チカゲとはまた戦いたい、と思ってましたから！
今日、デュエル出来て嬉しいです！
一緒にとことん、楽しみまっしょ！」

「は、はい・・・。
（うう・・・相変わらずのハイテンションにして、遊戦名くんと同じタイプの、純粋なデュエル好き・・・。
親睦デュエルなのに勝負にこだわる私が、なんだか既に負けた気分に・・・）」

メリッサのテンションの高さは地影は嫌いではないものの、どこかペースを乱されているような気持ちにさせられているのだった。

だがメリッサも純粋にデュエルを楽しむ気質を持ちながらも、代表に選ばれるほどの実力者。
勝負はここからであるーー。