刹那はどこへ行った？　作：はにわ改

　
ーー波乱の日曜日が明けた月曜日。
透矢たちが通うアカデミアに、久遠・アルフレッドに続く新たな留学生二人が、たった一週間の短い期間ではあるが、学舎を共にする運びとなった。

『シェリル・アン・マックスウェル』と『メリッサ・エンフィールド』。
この二人に久遠とアルフレッドを加えて、ワシントン・アカデミア側の世界大会代表となる。

「ーーでさ、明日から木曜日まで交流戦だって」

ーー放課後の教室。
透矢、真希、千鶴はすぐには帰らず、他愛ない世間話から新たな留学生について話していた。

「えっと・・・５時限目、６時限目の授業無くして、その時間を使って、１人一戦ずつ、自由にあの留学生の二人に挑めるんだよね？」

「うん、そうみたい。
ちょっと変わったシステムよね」

千鶴が朝の集会で聞いた内容を思い出しながら話し、それに真希が頷く。

「でも、俺は見てるだけってか・・・」

「あんたは昨日、久遠に連れてってもらって、デュエルしたんでしょ？
これは、あくまで日本とアメリカのアカデミアの交流が目的なんだから、我慢しなさいよ」

「う～・・・」

不満そうな透矢。
最初、久遠の話では代表同士で親善試合、ということだったが、
共に来日したクリスの意見でそれが自由参加の交流戦に変えられた。
１人でも多くデュエルしてもらいたい、というのが今回の目的であるため、既にシェリルとデュエルをした透矢には自粛するよう言われていた。

ちなみに真希と千鶴には、昨日の事について、大体のあらすじだけを話しており、
久遠が刹那を騙って呼び出した事については、透矢は敢えて触れていない。

「まぁまぁ、お兄ちゃん。
大会で当たれば、戦うことになるんだから」

「それもそうだな～」

「そうそう。
それに人とデュエルしてるところ見て、どういう戦術を使うのか研究するいいチャンスじゃない」

「お、真希。
意外に策士タイプか？」

「チームの足引っ張りたくないしね。
これでも当日が近付くにつれて、緊張してるんだから」

「固くなんなよ。
いつも通り戦えばいいのさ！」

「うん。
お姉ちゃんならきっと大丈夫だよ」

「う、うん・・・ありがとう、二人とも」

ーー笑い合う３人。

アメリカ出発まであと２週間ほど。
世界大会、という今までにない大きな舞台に立つということで、
透矢は楽しみな気持ちが大きいようだが、真希は緊張しているようだ。

だが共に透矢も、そして千鶴も来てくれるから、それが大きく不安を和らいでくれている。

大会には古今東西、世界の同年代のプレイヤーが集まるという話であり、その実力が如何ほどかは計り知れないが、
自分の信じるデッキで全力を尽くそう、と真希は思い直していた。

「ーーさてと、そろそろ帰ろうぜ？」

「うん、そうだね」

仲の良い３人だから、話し出すと終わりがない。
透矢は無理矢理に話の流れを切り、二人に帰ろうと促した。

そうして教室から出ようとしたところで、３人は１人の女子生徒と鉢合わせになる。

「おっ、朝霧？」

「地影？」

「あ・・・、遊戦名くんに千歳さん、鳴瀬さんも」

「朝霧先輩、こ、こんにちは・・・」

教室に入ってきたのは地影だった。
走ってきたのか、少し息を切らしている。

「どうした、朝霧、そんなに急いで。
生徒会の仕事か？」

「大変なら、あたしで良かったら手伝おうか？」

「いえ、あの・・・刹那さんを見ませんでしたか？」

「刹那？
刹那がどうかしたのか？」

刹那を探しているらしい地影。
透矢が聞くと、明日の交流戦について生徒会室で確認するはずなのに、
肝心の会長・刹那が来てないのだという。
他の主要メンバーは既に集まっているらしく、刹那だけいないということで、地影、炎魅子の二人で広いアカデミア内を探し回っているようだ。

「刹那がいなくなるなんて珍しいな・・・」

「はい。
定刻に刹那さんが現れないなんて、初めてです」

「とにかく、探すの俺も手伝うよ」

「あたしも！」

「私も・・・手伝います」

刹那がいない、という例にない出来事にただ事ではないかもしれない、と感じた透矢たちが一緒に探すと名乗り出る。
地影も最初は遠慮していたようだが、広いアカデミア内を探すのに人手は必要だという透矢の言葉に甘えることにした。

かくして広いアカデミア内の敷地の中、刹那の捜索活動は始まった。




「ーー電源切ってんのか。
携帯に電話しても繋がらないな」

手分けして探すことおよそ１０分。
透矢はふと廊下で立ち止まり、刹那の携帯電話に連絡をいれようとするが、繋がることはない。
ただこれは既に地影が試していて分かっていた事だが、こうして定期的に連絡はしている。

「荷物はあるんだから、校舎のどこかにはいるはずなんだよなーー」

真希たちとメールでやり取りしながら、探していない場所をしらみ潰しに当たる。
だが未だに見つからない刹那。
果たして何処に消えたというのか。

「ーー透矢！」

「アルフレッド！」

透矢とは逆の方向からやって来たのはアルフレッド。
こちらに走ってくるアルフレッドに、透矢も駆け寄って二人は落ち合う。

「お前も探してたのか？
それで・・・刹那はいたか？」

「いや・・・まだ見つかってない」

「ていうか、アルフレッドはまだこのアカデミアに慣れてないだろ。
迷子にならないよう、気を付けろよ？」

「刹那が見付からないと知って、居ても立ってもいられなくてね」

不慣れな校舎を探してくれていたアルフレッド。
だがやはり刹那を見つけるには至ってないようだ。
それから二人は共に廊下を駆け、上下に分かれる階段へと辿り着く。

「よし、俺は下に行こう。
透矢は上を探してくれるか？」

「よし、分かった」

「頼んだよ」

再び、二手に別れることにしてアルフレッドは下に続く階段を降りていき、透矢は上階段を昇り始める。

「・・・って、上は屋上か。
まだ探してないけど、屋上なんかに刹那がいるかな？」

疑問に感じつつも、とにかくしらみ潰しに探すという方針の元、透矢は屋上へと向かった。
そして扉を抜けて、屋上へと１人躍り出た。

ーー外は既に日が沈みかけていて、赤い夕闇の光が校舎を染めている。
その中を透矢は頭を振って、刹那の姿を探す。

「やっぱりいないか・・・って、あれ？」

こんな場所に居るはずがない、と最初は注意が散漫だった透矢だが、
そんな彼の目にも『その姿』があるのを捉えた。

「あれ・・・刹那、か・・・？」

透矢がいる位置から反対側。
遠くに映る小さな後ろ姿。
そこから見える髪型や背丈は、明らかに見慣れた刹那のそれだ。

「って、おい、あいつ何やってんだ？」

屋上。
下界までの高さは約十四、五メートル。
四方は当然手すりによって囲まれているが、よく見ると刹那と思しき姿は、その手すりの向こう側にいる。
後ろ手に手すりを掴んではいるが、その一歩先には足場はない。
踏み外せば下にまっ逆さまだ。

「おい、刹那・・・」

不穏な空気を感じた透矢が、呼び掛けながらその姿に駆け寄ろうとするがーーその瞬間。
刹那は手すりから手を離したのだ。

ーーまさか？！

透矢は反射的に身体を前のめりに、足を全速で駆け出させる。

「ーー止めろ！刹那！！」

まだ離れた位置にいる刹那に声が届くように、喉が張り裂けんばかりの大声で刹那を『制止』しようとする。
彼の声は届いたのか。
『制止』しようとする透矢の動きは間に合うのかーー。

「えっ・・・？」

ーーその時、刹那は振り向く。
その視界には凄まじい形相の何者かが、こちらに迫ってくるのが映ったのだった。