透矢vsシェリル 剣vs銃の対決！⑨　作：はにわ改

　
ーー『ヴァルバレア』の地を裂く凄まじい一撃が、『バッファロー・ビル』を切り裂き、更に噴き上げる火炎がその亡骸を呑み込んだ。

やがて大音響、大迫力の演出が収まり、透矢は『ヴァルバレア』を挟んで再びシェリルと向き合う。
同時にシェリルのライフカウンターが、マイナスを刻み始めた。

ーー攻撃は通った！
ーー勝ったんだ！

『ヴァルバレア』の攻撃力は５９００。
攻撃力２８００の『バッファロー・ビル』との戦闘によるシェリルが受けるダメージは３１００。
加えて『ヴァルバレア』の能力により、破壊した『バッファロー・ビル』の攻撃力分のダメージを与えるから、計５９００。

無傷のシェリルのライフをまるごともぎ取り、勝ったのだーー。

ーー透矢が歓喜に奮えたのも束の間。
マイナスを刻み、最終的に０を示すと思われたシェリルにのライフカウンターは、『１００』で何故か止まった。

「あ、あれっ？
な、なんでライフが１００余るんだ？！」

期待とは違う結果に、思わず慌てる透矢。

『ーー惜しかったな』

「えっ！？」

『お前のモンスターを見てみるがいい』

シェリルが冷めた表情で促し、透矢がそれに従って『ヴァルバレア』に目を遣るとーー。

「ーー『ヴァルバレア』？！」

何が起きたのか。
『ヴァルバレア』が苦悶の表情で左肩を抑えている。
左肩には銃創が彫られており、かなりの深手のようだ。
そして彼女の攻撃力もまた５９００から、３１００にダウンしている。

「ど、どうしてーー？」

『演出が派手だったからな。
私の声が埋もれてしまったようだ。
私はダメージ・ステップに“このカード”を発動させていたのだ。
罠カード“エイミング・ショット”をな』

「罠カードーー？」

シェリルが『ヴァルバレア』の攻撃演出の中で発動させていた罠カード、『エイミング・ショット』。
これが彼女のライフを僅かに残したようだ。

『“エイミング・ショット”は自分のガンナー・モンスターと、攻撃力が１０００ポイント以上高い相手モンスターと戦闘する時に発動出来るカードだ。
そして、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を、自分のモンスターの攻撃力分ダウンさせる』

「ダウン・・・そうか、だから『ヴァルバレア』はーー」

『ヴァルバレア』の肩を撃ち抜いたのは、今際の際に放たれた『バッファロー・ビル』の一撃であり、
それにより『ヴァルバレア』の攻撃力は『バッファロー・ビル』の攻撃力分ダウンさせられていたのだ。
だから攻撃力は３１００。

『その後、“ヴァルバレア”と“バッファロー・ビル”が戦闘を行い、私が受けた戦闘ダメージは３００』

「ーー『ヴァルバレア』の効果で『バッファロー・ビル』の攻撃力分のダメージ・・・合計して３１００かーー」

『更に“ガンナーズ・ヘヴン”の効果で８００のダメージを受ける。
合計して３９００のダメージだ。
ふふ・・・首の皮一枚残せたよ』

不敵な笑いを見せるシェリル。

「（俺の・・・『ヴァルバレア』攻撃をーーしかも『女帝』の力を加えた攻撃を防がれたーー？）」

通れば勝つはずだった。
だが実際は通してなお、シェリルは踏み止まった。
口では際どく凌げた、と言ってはいるが、シェリルの表情を見ればこの結果をしてなお、予想の範疇だったかのようだ。

「（これが・・・ワシントン校トップの実力かーー！
すげぇ・・・すげぇぜ！）」

たった１００。
僅かに残したそのライフが、シェリルの強さを物語っているかのようだ。
透矢はそれを改めて思い知り、シェリルの実力を素直に讃えるのと同時に、そんな彼女と戦えていることに、湧き上がるものを感じていた。

『ーーとはいえ、ライフは僅か１００だ。
あなたに何か追撃があるなら、それまでだがーー』

「・・・俺はこのまま、ターンエンドだ」

『ガンナーズ・ヘヴン』により、バトルフェイズは終了。
透矢のメインフェイズ２だが、彼にはそれ以上の追撃はなかった。
元々、リスクを汲んでの最大の一撃である。
二の手を用意していよう筈がない。

エンドフェイズに、『エイミング・ショット』の効果は消え、
『ヴァルバレア』の攻撃力は自身の攻撃力に『女帝』の攻撃力を加えた、４２００に数値を戻す。

『では・・・私のターン、だな』

吹けば消えるような、残りライフ。
更に透矢の場には攻撃力４２００の『ヴァルバレア』。
しかも自ら発動した『ガンナーズ・ヘヴン』により、迂闊にモンスターを召喚すれば、『ヴァルバレア』との戦闘は避けられなくなる。
更に言えば、『ヴァルバレア』の元々の攻撃力１７００より高い攻撃力を持つモンスターを召喚すると、攻撃力が更に７００アップしてしまう。
つまり『ヴァルバレア』の攻撃力は実質４９００なのだ。

『カード、ドロー』

そんな状況に置かれながらあくまで冷めた態度のシェリル。
あるいは既にこのデュエルに先がない、と見切っての諦めの姿勢か。

『ーー！』

だがシェリルがカードをドローした瞬間、僅かだが表情が動いた。
ライフに後がないのは透矢も同様。
緊張しながらシェリルの動向を見守っていた透矢も、その僅かな動きに気付いた。

「（あーらら、透矢くん、残念。
せっかく、シェリルに勝てそうだったのに・・・）」

後ろにいる久遠が目を閉ざして、小さく笑う。
すると刹那はそんな妹の様子を見て、危機を覚える。

「（ま、まさか、『あのカード』を引かれたーー？）」

シェリルが持つ、『最凶』のガンナー・モンスター。
この場面でシェリルが勝つなら、恐らくその１枚をおいて他にない。
この土壇場で引いてしまったというのかーー。

刹那は天を仰いだ。

ーーところが、当の本人であるシェリルはそのドロー・カードを見つめたまま動かない。

ーー動かない。

「（な・・・なんだ、おいおい）」

煮詰まったこのデュエル。
あとお互いに一手で決められるという緊張下では、僅かな時間が長く感じられる。
透矢は足に来るものを感じつつも、集中を切らさずシェリルをじっと見つめる。

ーーそしてそれは時間にして、１、２分程度のものだったであろう。
シェリルが遂に動いた。

だが彼女が取った動きはその場にいる誰もが想像できない、意外なものだった。

静かに目を閉じると、ドローしたカードを再びデッキの一番上に置く。
そしてそのままデッキに被せるように掌を置いた。

『ーーサレンダーさせてもらうわ』

そして、シェリルは告げた。

『サレンダー』。
すなわち『投了』である。