透矢vsシェリル 剣vs銃の対決！　作：はにわ改

　
「ーーほう、ここがデュエル場か」

「随分、年代物だねぇ」

ーー空港から、神楽坂家所有の２台の車を走らせておよそ１０分ほど。
一行はとあるアミューズメント・パークの地下にある、デュエル場へとやって来た。
濃紺色の壁に囲まれた、百人から二百人は入れそうな広いスペース。
その中央にある『デュエル場』を見て、クリスと舞が口を開いた。

「うふふ、ノスタルジックな雰囲気が素敵でしょう？」

「うむ。
デュエル・ディスクが大きく普及した今、この巨大な『決闘場（デュエル・リング）』を使うことは無いと思ったがーー。
古きを大事にする日本の良き慣習は素晴らしいな」

久遠の声に頷くクリス。

中央の巨大なデュエル・スペースというべき『決闘場（デュエル・リング）』。
対戦する者は、それぞれ両岸に配置されたテーブルの前に立ち、デュエルを行う。
両者の間は二メートル程の距離があり、その部分は地面が窪んでいる。
テーブルにはカードを納めるデュエル・フィールドがあり、そこにカードを置くと、窪んだ地面の部分を使って、それぞれのモンスターが向き合う形で投影される仕組みになっている。

「でも使ってないんだろ？これ。
なら、置いとくだけ無駄じゃないか」

「いいえ。
確かにデュエル目的にはつかいませんが、
大出力の映像を用いてアトラクションの１つに使ってるようです」

「へぇ？
そんなとこ借りて大丈夫なのかい？」

「そこは『コネ』ってやつですわ、ふふふ・・・って、舞先生！
ここは禁煙ですよ？」

「固いこと言うなって」

隙あらばタバコを吸う、知る人ぞ知るヘビースモーカーの舞。
久遠に咎められても、生徒たちの前だろうと構うことはない。

「すげぇっ！
１度、こんなでっかい場所で、思いっきりデュエルしてみたかったんだ！」

「くすくす、透矢くんに喜んでもらえたなら私も嬉しい」

無邪気に喜ぶ透矢を見て久遠も微笑む。
大出力な投影機能により、迫力は凄まじいものがあるが、
コストの面から廃れていきつつあるこの『決闘場（デュエル・リング）』。
しかしながら、過去に伝説と名指しされるデュエリストたちはこの『決闘場』の上で、現在に語り継がれるデュエルを重ねてきた。

そして今日、練習とはいえ自分がその上でデュエルできる事を透矢は嬉しく思うのだった。

「よし、んなら早速始めようぜ！」

「あっはは・・・まるで子供だな。
面白い奴だ」

我慢が出来ない、とばかりに一方のプレイヤーゾーンへと駆け出す透矢。
クリスがそれを見て笑いながら、シェリルに１つ頷いて見せると、
シェリルも頷き返し、透矢とは対岸のプレイヤーゾーンへゆっくりと歩いていく。

「（こんな施設をわざわざ借りるなんて・・・久遠ったら、本当に何を考えてるの？）」

なし崩しにデュエルが始まろうという最中、刹那はやはり久遠の狙いを探っていた。
確かに神楽坂財閥の『コネ』を以てすれば、縁ある企業の一施設を借りる事は不可能ではない。
だがそこまでして、この場所を用意した久遠の真意とは何か。

「あ、そうだ、お姉さま。
二人ともお互いの言葉が分からないはずだわ。
誰かが翻訳してあげないと」

「おお、確かにそうだな」

「んなの、フィーリングで何とかなるだろ」

すると久遠が思い出したように進言する。
確かにお互いの言葉が分からなければ色々と支障はある。
クリスはもっともだ、と頷くが、
壁に寄りかかって既に二本目を吸っている舞は、そんなことを言う。

「お姉さま？
私たち二人で分かれて、二人の翻訳係をしてあげましょ？」

「・・・分かったわ」

「それじゃ透矢くんはお姉さまに譲って差し上げますわ。
私はシェリルの方へ行きますので」

「・・・（必ず・・・後で問いただしてやるわ！）。」

アメリカに留学している久遠はもちろん、刹那も英語は聞くも話すも、教師顔負けの能力を誇る。
翻訳する、という仕事は快く引き受けたが、
担当を決めるにあたり、久遠が白々しく笑うと、刹那は怒りを押し殺しながら目を反らした。

そして姉妹も両岸に分かれて、刹那は透矢に、久遠はシェリルの側に付く。

「刹那？どうした？」

「くす・・・透矢くん、英語分からないでしょ？
だから私が翻訳してあげる」

「ああ、そういえばそうだな。
んじゃ、よろしく頼むぜ！」

「（透矢くん・・・気をつけて。
ーーシェリルは強敵よ！）」

シェリルとの試合に臨む透矢。
その透矢を見る刹那の顔が不安げなのは、シェリルの実力をよく知るからである。

『ーー彼が例の“Ｔ・Ｆ使い”か。
来日早々、デュエルするとは思わなかったが、
幸運な機会に恵まれた、と思うことにするか』

『ふふ・・・彼、中々出来てよ？
あのお姉さまに一応、勝ってるんだから』

『ふふ・・・願ってもない。
久しぶりに、純粋にデュエルを楽しませてもらうとするよ』

「（くすくす・・・見ものですわ。
透矢くんが勝つか、それともシェリルにボコられるかーー。

くすくすくすくすくすくすくすーーあははははっ！）」

英語で慣れたように会話するシェリルと久遠。
久遠はここまで自分の思い通りに事が運んでおり、それが可笑しくてたまらないようだ。

かくして二人は、自らのデッキを手に持つとそれをテーブルのデッキゾーンにセットする。
するとそれは自動的にシャッフルされ、いよいよデュエルの準備は整う。

「ーーよし、では二人とも。
固くならずに、デュエルを楽しんでくれ！

ーーそれでは、デュエル、スタート！」

「ーーデュエル！」

『ーーＤｕｅｌ！』

クリスの掛け声のもと、二人の声が重なり、デュエルは始まった。
限られた者たちのみが観戦を許されたこのデュエル。
果たして、二人のカードは如何な流れを生み出すのかーー。