『刹那』とのデート　作：はにわ改

　
ーーアルフレッドと凌斗の戦いから１日跨いだ日曜の昼。
透矢は１人で繁華街の駅先、皆が待ち合わせに使う広場で待ち人を待っていた。
待ち人は刹那。
昨日の夕刻に電話があり、練習デュエルがしたいからとの事で、デッキを持参し、今日この時間この場所で待ち合わせることとなった。

「デッキは・・・忘れてないよな。
うん、よし」

噴水のレンガ囲いの上に腰を下ろしながら、刹那を待つ透矢。
少し早めに来た彼は、腰のポシェットに入った大事なデッキがあることを確認する。
ちなみにあくまで練習だから、デュエルディスクまでは持ってきていない。

「・・・にしても、刹那との練習、デュエルかーー」

透矢が独り、呟く。
何故か合点のいかないような表情で。

折角の休日、それも練習デュエルをしたいならと、
真希や千鶴、また他のメンバーを加えたらどうか、と聞いたら、
電話口の刹那は、二人きりでやりたい、と答えた。

それならそうで、別に不思議な事ではないのだがーー。

「（何・・・だろうなぁ？
昨日、刹那と話してから・・・変な感じがするんだよなぁ・・・）」

一種の違和感。
前に刹那とデートをした時、その前の晩に電話で話しているが、
その時には感じなかった『妙な感覚』が透矢の頭を曇らせていた。
それが何かは分からない。
むしろ、何でそんなに気にしているのか、それすら自分で分からない。

「（いや・・・折角、刹那が誘ってくれたんだからな。
変な事気にしてちゃ、練習デュエルに集中出来なくなるな）」

頭を振る透矢。

あの刹那が自分と練習デュエルをしたいと言ってくれたのは嬉しいし、こちらも楽しみであることに違いない。
その時間を有意義に過ごすためにも、変な事を気にしたままではいかん、と無理矢理に考えないよう努めた。

「ーー透・矢、くん！
お待たせ！」

「うん？
来たかーー」

休日の駅先、大勢の人で賑わう中、すっかり聞きなれた『声』が透矢の耳に入る。
背後から聞こえてきた『声』に、立ち上がって振り向くとーー。

「ごめんね、透矢くん、待った？」

「い、いや・・・そんな、事、ない」

「そ、良かったー。
支度に結構、時間が掛かっちゃった」

ゆっくり近付いてくる刹那。
だがその姿を見て、透矢は圧倒される。
庶民の透矢でさえ見て分かる、高そうな所謂『ブランド』物の服と肩下げのバッグ。
そしてイヤリングを始めとしたアクセサリーが身体の各部で光を発し、
紫外線対策なのか、目はサングラスでしっかりガードしている。

一目見て金に不自由のないというその姿は、正に『セレブ』という言葉が、服を着て歩いているようなーー。

「・・・？
どうしたの、透矢くん。
私、どこかおかしいかな？」

「い、いや、別に・・・」

サングラスを下にずらして、露になった目が覗き込んでくる。
思わず凝視してしまっていた透矢は愛想笑いを浮かべて誤魔化す。

「そ、その・・・今日は前と比べて・・・結構、ハデだな？」

言ったら悪いかな、と思いつつもつい口から出てしまう。
前にデートした時は、ずっと大人しい服装だった刹那。
アクセサリーも必要以上につけず、もちろんサングラスも付けていなかった。
加えて化粧も濃いように見え、香水の匂いも強い。

「そうかな？
私にとっては普通なんだけどーー」

「そ、そっか」

あまり突っ込むのはさすがに悪いと思い、それ以上は何も言わない透矢。
しかし違和感は拭いきれず、内心戸惑っていたのだった。

「そ、それで？
今日は練習デュエルしたいんだったよな？
どっかの店でデュエル・スペースでも借りるのか？」

話題を今日の事に移す透矢。
デュエル・モンスターズのカードをメインに販売している店に赴けば、室内の一部をデュエル・スペースとして無料で開放しているところがある。
駅前で待ち合わせたぐらいだから、てっきりその場所に行くものだと思っていたのだがーー。

「もう、透矢くん？
休日に男と女が二人でいるのに、いきなり『デュエル』、ってどうなの？」

「え、あ、悪い・・・」

元より刹那が切り出してきた今日の話だが、確かにそれもそうか、と納得する透矢。
普段、真希に注意されている事でもあるから、素直に反省の意を示す。

「先ずは少し歩きましょ？」

「あ、歩く、って？」

「色んなところ！
ほらほら、早く早く！
時間は限られてるんだから！」

「ちょ・・・、待てって」

透矢の手を強く引いて、はしゃぐように駆け出す刹那。
強引な腕引きに透矢は転びそうな身体を何とか支える。
前もこうして手を引かれたものだが、力はセーブしてくれていて歩きにくくはなかった。

ーー何かが違う。
前のデートの時の刹那と。

透矢は今日出会ってまだ数分の刹那に対して、そんな事を思わざるを得ない。

いや、刹那とは知り合ってまだまだ日は浅い方だから、彼女の全てを知っているわけではない。
だがそれにしてもーー前のデートと比べると、あまりに刹那の振る舞い、態度が違いすぎないだろうか。

ーーそれから刹那の要望通りにしばらく街中を歩く事になった透矢と刹那。
その時間を過ごすなかで、透矢は更に違和感を強めていくのだった。







ーー場所は変わり、透矢たちがいる場所とは二駅ほどを挟んだ別の繁華街。
その駅から少し歩いたところにある、映画館の前。
そこに『彼女』はいた。

「あの子ったら、急に二人で映画を見たい、だなんて・・・どういう風の吹きまわしかしら」

左腕の内側に付けた腕時計を見ながら、彼女は待ち人を待つ。
清潔感漂う大人びた美少女の立ち姿に、町行く男たちの中にはつい視線を傾けてしまう者も少なくない。

「それに同じ場所に住んでいるのに、わざわざ現地で待ち合わせだなんて・・・何を考えてるのかしら」

彼女は首をかしげていた。
待ち人のその意志が図れないようであるかららしい。
だがその待ち人の『計らい』は、彼女の想像を超えるものであった。

「ーーやあ、待たせたかな、久遠
慣れない地だからか、道に迷ってしまったよ」

「え？」

ふと聞き覚えある声から、『待ち人』の名前が耳に入り、彼女はその方角を振り向く。
するとそこには地図代わりに使用していたらしい、携帯を片手にした彼女のよく知る人物が立っていた。

「ーーフレッド！？」

「久遠・・・？
・・・いや、違う。
君は刹那、か？」

「どうしてフレッドがここに？！」

「いや、刹那こそ・・・」

待ち合わせに現れたのは、『待ち人』ではなくアルフレッド。
そしてそんなアルフレッドも、彼女を見てすぐに違う『待ち人』がいることを見抜いた。
すなわち、『久遠』ではなく、『刹那』であるということをーー。

「ど、どうなっているの・・・？」

刹那は状況を把握できず、ただアルフレッドと向き合ってお互いの姿を見るだけだった。
アルフレッドもどうやら想定外であったらしく、かなり驚いた様子を見せている。

刹那とアルフレッド、二人を呼び出したのは同じ人物『久遠』。
その『久遠』は今、どこで何をしているのだろうか。
また今日ここに呼び出した理由とは一体何なのか。

二人は思考能力が回復するまで、黙ったまま立ち尽くすのだった。