真希vs千鶴 もう守られるだけじゃない⑨　作：はにわ改

　
「わ、私のターン、ドロー！」

迎えた千鶴のターン。
ここまで作り上げた流れを如何にまとめ上げるか。
それがこのターンに彼女に課せられた命題であった。
そして千鶴の最大の目標である、真希に勝つための絶好の機会である。

「め、メイン、フェイズ！
リバース・カード、発動！
罠カード、『リトル・マジック・ソウル』！」

千鶴が前のターンに伏せておいたカード、その内の１枚を発動させる。

「自分の墓地に存在する『小さな魔法使い』モンスター１体につき１個、最大５個まで、魔力カウンターを置く事の出来るカードに、魔力カウンターを置く！」

「千鶴ちゃんの墓地には、さっきあたしが破壊した『チコル』と『マリル』の２体がいるはずね」

「う、うん。
合計２個の魔力カウンターを『小さな魔法のお城（リトル・マジック・キャッスル）』に！
更に『リトル・マジック』と名の付くカードの発動によりもう１個、あわせて３個の魔力カウンターが乗るの！」

墓地から光に包まれた半透明の『チコル』、『マリル』が姿を見せ、すぐにそれは光輝く球体となって『お城』へと吸い込まれる。
更に『リトル・マジック』の発動による１個分が加わり、これで総計１２個。

ーー時は満ちた。

「『小さな魔法のお城』の最後の効果、発動！
魔力カウンターが１２個以上溜まったこのカードを墓地へ送ることで、デッキまたは墓地から、『マジシャンズ・レジェンディリア』を１枚、手札に加える！」

魔力が満ちた『お城』が消えると同時に、その最後の能力が解き放たれる。
今までカウンターを懸命に積み重ねていたのは、この能力を発動させるために他ならない。

かくして千鶴はデッキから『そのカード』を力強く引き抜き、手札に加える。
千鶴がもっとも信頼する、魂のカードを。

「そ、そして今、加えた『マジシャンズ・レジェンディリア』を通常召喚！」

迷わずそのカードを召喚。
ただし、そのカードのレベルは８。
通常召喚するには、２体のリリース・モンスターが必要であるが。

「『小さな魔法のお城』の効果で手札に加えたこのモンスターは、リリース無しで召喚出来る！」

わざわざ手間を掛けて魔力カウンターを溜めた意義がここにあった。
この方法ならば最上級モンスターであるこのモンスターを、スムーズに召喚出来る。

「来て・・・私の魂のカード、『マジシャンズ・レジェンディリア』！」

デュエル・ディスクにそのカードが納められ、いよいよその姿を見せる千鶴の魂のカード。
宙に現れたいくつも重なりあった魔法陣から、未知の言語が帯のように流れだす。
やがてその言語の帯が積み重なり、円柱のような形を作り出すと、その中で彼の姿は生み出された。

魔法陣の消滅に伴い、言語の帯も消え、その全容を明らかにする魔導師。

ーー『マジシャンズ・レジェンディリア』。

「ーーよし、千鶴の奴、やったな！」

透矢は知っていた。
千鶴がよく大事なカード、として語っていた魂のカードの姿を。

地まで伸びた前開きの黒のローブを羽織り、手には身長を高く超える、複雑な装飾と宝玉が埋め込まれた杖。
そして右目を隠すように伸びた銀色の髪を持つ若い女性の風貌。
厳しい表情と鋭い眼差しは、気の弱い者では向き合うだけで腰が引けてしまうだろう。

レベルは８、攻撃力は不定の『？』であるが、現段階では０である。

「『レジェンディリア』の効果！
召喚に成功した時、墓地のレベル２以下の魔法使いモンスターを２体まで特殊召喚出来る！
復活して、『チコル』、『マリル』！」

『レジェンディリア』の特殊能力の１つ。
その長い杖を大地に触れさせつつ、片手で器用に、そして素早く動かすようにすると、そこに魔法陣が描かれる。
そうしてから陣の中心を杖で叩くと、陣全体が光を発し、そこから『チコル』と『マリル』の二人が飛び出した。
すると『シリル』を含めた３人の『小さな魔法使い』たちは、喜ぶように『レジェンディリア』の周りを走り回る。
その様は、いわゆる師と教え子の関係のようにも見える。

ともかく、これで千鶴の場には４体のモンスターが揃い、準備は出来た。
後は自らの全力として、真希にぶつかるだけだ。

「ば、バトルフェイズ！
行くよ、お姉ちゃん！
まず、『チコル』でお姉ちゃんに直接攻撃！」

『小さな魔法使い』たちは、非力だが直接攻撃が可能。
先ずは『チコル』の攻撃が何事もなく通り、真希のライフに２００のダメージを与えて、１６００とする。

「『チコル』の効果で、戦闘ダメージを与えた時に１枚ドロー！
更に『レジェンディリア』の効果！
魔法使い族モンスターが戦闘ダメージを与える度に、『レジェンディリア』に魔力カウンターを１つ置く！」

『チコル』の効果で手札を補充するのと同時、『レジェンディリア』にも『お城』同様に魔力カウンターが置かれる。
杖にいくつも連なる宝玉の１つが光を発する。

「更に、『マリル』、『シリル』でお姉ちゃんに直接攻撃！」

続けて二人の『小さな魔法使い』の攻撃が真希にヒット。
２００ずつだが、確実に真希を追い詰めており、残りライフは１２００を残すばかりとなった。

更に『マリル』の効果で、場の『小さな魔法使い』３体掛ける５００、つまり１５００ポイントのライフを回復し、千鶴のライフは再び２９５０まで持ち直す。

「そして『シリル』の効果で、『レジェンディリア』に魔力カウンターを２つ置く！」

そして『シリル』。
魔力カウンターが２つ溜められ、更に魔法使いが戦闘ダメージを２回与えたため、もう２つ。
『チコル』の分も含めて合計５つの魔力カウンターが溜められた『レジェンディリア』。
杖は５つの宝玉が光を発している。

「お姉ちゃん・・・『レジェンディリア』の３つ目の効果だよ」

「ーーうん。
魔力カウンター１つにつき、攻撃力が１０００ポイント。
それが『レジェンディリア』の攻撃力となる」

「そう。
『レジェンディリア』のカウンターは５つ！
よって攻撃力は・・・５０００！」

大魔導師たるその力。
溜めた魔力をエネルギーに変え、攻撃力として解き放つ。
現状であの伝説の５つ首のドラゴンの攻撃力に並んだ。
だがその力には限りなく、本来ならこの数値は通過点でしかない。

だが、攻撃力５０００ならば、真希のモンスターを倒し、ライフを０にするには充分すぎる。

「お姉ちゃん・・・これが私の全力だよ！
『レジェンディリア』で『ハーピィ・レディ トライアングル・シスターズ』に攻撃！」

尊敬する姉に追い付いたーー。
千鶴は期待と喜びを胸に攻撃に踏み切った。
千鶴は見事勝利を掴んだのだーー。