真希vs千鶴 もう守られるだけじゃない⑧　作：はにわ改

　
ーー『本気でデュエル』。
千鶴の首が懸かったこのデュエルで、そう宣言した真希。
迫る真希の猛攻を如何に凌ぐか、という場面。
ここまでのデュエルを無言で、そして炎魅子たちとは少し離れた位置で見守ってきたクロエ。

普段は理事長である事を隠し、一教諭として生徒の成長を一番近いところで見てきたクロエ。
彼女にはこのデュエルがどう映るのか。

「ーーよぉ、クロエ、センセ」

「・・・舞か。
珍しいな、お前がこんな時間まで残ってるとはな」

「ちょいと野暮用さね。
養護教諭、ってのはてっきり保健室で駄弁ってるだけかと思ったら、なかなか楽な仕事でもないねぇ」

不意に姿を現したのは養護教諭の暗木 舞。

相変わらず疲れたような寝癖顔で、白衣に手を突っ込みながら歩く姿は、生徒たちには見慣れているとはいえ、やはり教諭らしくはない。

舞はおもむろにクロエの隣に腰を下ろすと、足を組み、懐から潰れた煙草の箱を取り出す。

「ーー舞、場所を弁えろ」

「固いこといいなさんな」

「ここは神聖なるデュエル場で、しかもデュエルの最中だ。
お前もデュエリストだろう」

「普段吸えない場所で吸うから、より味深し、ってね」

「全く・・・呆れた奴だな」

結局舞は、クロエの忠告を受け入れず、くわえた煙草に火を点けてしまった。
至福の一時なのだろうか、美味しそうに吸うと、器用に煙の輪を作る。

「んで、今日は何で放課後にデュエルなんてしてんのさ」

「ちょっとな」

「一人は・・・千歳、か？
もう一人は見たことあるけど、名前が出ないねぇ」

「鳴瀬千鶴、だ」

「四天王の千歳が、何でレッドの女の子とデュエルしてるんだい？」

「だから事情がある、と言ってるだろうに」

「悠長だねぇ。
アメリカにいる『クリス』は大変だってのにさ」

舞が切り出した話を耳にして、クロエの眉間にしわが寄る。

「・・・向こうの情勢は厳しいようだな」

「それに比べて日本は平和さ。
今んとこ、目立った被害は無いんだからね」

「ーー被害なら、あったさ」

クロエの視線が不意に動く。
舞がその視線を追うと、その先には久遠に抱えられている水花の姿。

「不憫だよ、あの子は。
何とかしてやりたいけどね」

舞は目を逸らすと、大きく息と共に煙を吐き出す。
クロエは発散出来ない何かを抱え込むように、口を強くつぐんでいる。

「ま、あの子の事はあたしに任せときな。
正直、思い出さない方が幸せなのかもしんないから、治療は躊躇うところがあるけどね」

「頼む。
奴らに襲われながら、唯一無事だった生き証人だ」

「あれを無事とは言わないけどねぇ。
ま、了解だよ、クロエ、センセ」

携帯灰皿に煙草を押し込むようにして、それごと懐にしまいこむと、そのまま立ち上がり、クロエに背を向けて歩き出す舞。

「ーーなんだ、帰るのか」

「時間外労働するほど、給料もらっちゃいないからね。
先に帰るよ」

背を向けたまま手を振りつつ、立ち去る舞。
一体、何をしに来たのかと、クロエは小さく笑うのだった。




ーー再び、デュエル場。
千鶴はこのデュエル、最大の危機を迎えようとしていた。

「ーー行くよ、千鶴ちゃん！
あたしのバトルフェイズ！」

すなわち真希のバトルフェイズ。
フィールドには『ハーピィ・レディ』の三姉妹と、その姉妹の能力により強化された『ハーピィズペット竜（ドラゴン）』。
どちらも攻撃力は３０００に近く、そして『三姉妹』は更なる能力を秘めていた。

「『トライアングル・シスターズ』で、『チコル』に攻撃！
『トライアングル・エクスタシー・スパーク』っ！」

ハーピィ・レディ三姉妹が揃った時、彼女たちの必殺たる合体技が発動可能になる。
『Ｘ』の型から発せられる光線は、浴びたものを跡形もなく焼き尽くすという。

その攻撃力２７００。
非力な『チコル』ではひとたまりもない。
千鶴は自らの身を盾にする覚悟を決め、永続罠カード、『小さな魔法の防御壁（リトル・マジック・ディフェンス）』に目を遣る。

「ら、ライフで受けるよ！」

『小さな魔法の防御壁』を使えば、自分への直接攻撃にする代わりに『小さな魔法使い』を戦闘から護れる。
更にダメージも半分になるため、積極的に活用すべきである。

しかしーー。

「ダメよ、千鶴ちゃん。
『トライアングル・シスターズ』が攻撃する時、相手は罠カードを発動出来ず、罠カードの効果は無効になる！」

「ーーあっ！？」

発動すべきそのカード、だが『トライアングル・シスターズ』の秘めた能力により、その効果は一時的に無効にされていた。

他に対抗する手段もなく、光輝く『Ｘ』の光線が『チコル』を一瞬にして焼き尽くした。

「うあぁあっ！！」

「ーー千鶴！」

焼き尽くされた『チコル』と共に、千鶴も痛烈なダメージを被る。
そのダメージ、実に２５００。
前のターンにせっかく回復したライフの半分以上が吹き飛び、残るライフは１４５０となる。

「・・・つ、続けて、『ハーピィズペット竜』で、『シリル』を攻撃！
ーー『セイントファイアー・ギガ』！」

休む間も与えず、『ハーピィズペット竜』に攻撃命令が下る。
首輪に繋がれた『ハーピィ・レディ』の忠実な下僕が、天を見上げながら咆哮を轟かせる。

その攻撃力は、『トライアングル・シスターズ』によって強化されて、２９００ーー。

「（ま、まずい！
攻撃力２９００じゃ、例えあの永続罠カードを使ってもーー）」

透矢が危機を察する。
『シリル』の攻撃力はわずか２００。
このまま通せば耐えられないのはもちろん、例え『小さな魔法の防御壁』を使って直接攻撃に変更し、ダメージを半減しても１４５０。
千鶴のライフはぴったり削りきられてしまう。

つまり他に対策が無ければ、千鶴は負けてしまうのだーー。

そうして『ハーピィズペット竜』が首を突き出しながら、その口を開くと、そこから超威力の光線が発せられた。

ーー駄目か！

透矢が目を閉じつつ反らした。

「ーー『小さな魔法の防御壁』の２つ目の効果！
このカードを墓地に送ることで、『小さな魔法使い』モンスターが受ける戦闘ダメージを一度だけ０にする！」

敗北の瀬戸際、千鶴には策があった。
『小さな魔法の防御壁』が墓地へと送られ、『シリル』を紫色に透けた『障壁』が包み込み、
襲い来る光線を弾き飛ばした。

これにより、『シリル』の戦闘破壊を防ぎ、千鶴が受けるダメージも０。
際どく真希の攻勢を凌いだ。

「（うん・・・千鶴ちゃん）」

自分の攻撃を防いだ千鶴を讃えるように、頷いて見せる真希。
千鶴の目は未だ集中力を切らさず、研ぎ澄まされている。

「（さて、本当ならあたしのリバース・カードがフィニッシャーになる流れだけどーー）」

真希は自らのリバース・カードを見る。
伏せられたカードは『ヒステリック・パーティー』。
手札１枚をコストに、墓地から『ハーピィ・レディ』を可能な限り特殊召喚出来るカード、だが。

「（千鶴ちゃんはあたしのリバース・カードを『ヒステリック・パーティー』と読み切って、前のターンに『リトル・マジック・フォース』を『伏せてくれた』・・・）」

そう、千鶴は読み切っていた。
前のターンにサーチして、伏せた『リトル・マジック・フォース』は発動した『ヒステリック・パーティー』を破壊できるカード。
ちゃんと自分が教えた事を思い出し、適切な判断をしてくれたのだ。

真希は小さく微笑む。

「あたしはカードを１枚セットして、ターンエンド」

真希は最後の手札をセットし、ターンを終了。
千鶴はまた真希のターンを越し、再び自分のターンを得たのだ。

「（頑張って、千鶴ちゃん・・・）」

真希は心の中で千鶴を応援する。

何とかこのデュエルを勝利で飾り、自分を『超えてほしい』とーー。

実の姉妹以上に強い絆で結ばれた二人のデュエル。
その勝敗の行方や如何に。