真希vs千鶴 もう守られるだけじゃない⑤　作：はにわ改

　
ーー観客席には、このデュエルを知る者のみが顔を並べる。
すなわち炎魅子、地影、
刹那の双子の妹・久遠と、彼女に抱えられた水花。
そして普段は教諭として己が正体を隠す、理事長・クロエの計五人だ。

「ーー鳴瀬さん、何とか千歳さんの攻撃を食い止めましたね」

「真希のやつ、戦いにくいはずだけど、いつも通りに戦ってるみたいじゃないか」

「意外というべきか、情に左右されないところはさすが、というところですか」

「ま、刹那から本気で戦え、って口を酸っぱくして言われてたからなぁ」

真希の１ターン目を終えて、地影と炎魅子が言葉を交わしている。
二人とも、とりあえず千鶴が真希の攻勢を凌いだ事に安心しているようだ。

「にしても・・・刹那もちゃんと真希に話したりゃいいのに」

「・・・そう、ですね」

「あれじゃ真希のやつも、正直な話、刹那にはぷんぷんだろ」

「鳴瀬さんが、このデュエルを良き結果に持っていってくれれば、良いんですけど、ね」

このデュエルに込められた刹那の意図。
それを知る二人は、ただ不安そうにデュエルの進行を見守っている。

「ーーさっきから、何の話？」

「あ、いや、なんでもないんだよ。
こっちの話さ」

そこへ、久遠が話に絡んでくる。
刹那が普段そうしているように、水花を膝の上に乗せて、抱き抱えるようにしながらの観戦。
炎魅子は少し慌てたように言葉を濁して、口をつぐんだ。

「それよりもさ、今日はアルフレッドは一緒じゃないんだね？」

「ああ、フレッドなら私を置いて先に帰ってしまったわ」

「そうなんですか・・・」

「全く、付き合いが悪いったらないわ。
どうせ、帰ってもやることなんてないくせに」

ーー久遠は刹那の妹だが、元々アメリカのアカデミアに留学していた身。
その久遠がこうしてわずかな期間、日本に帰ってきたその連れ添いとして、アルフレッドなる同年代の彼を連れてきた。

久遠はアルフレッドに対して、並みならぬ思いを抱いているようだが、彼の態度がつれない、と毒づいていた。

「にしても、あの二人・・・仲が良いわね」

「ああ。
真希と鳴瀬は幼なじみだからね」

「違うわ。
そっちじゃなくて、お姉さまと透矢くんの事よ」

久遠の視線。
その先には、デュエル場の脇で肩を並べる透矢と刹那の姿があった。

「ま、透矢は刹那のお気に、だからさ」

「まるで恋人同士、って感じだけど・・・」

「確かに今までは見られない光景でしたよね。
刹那さんが特定の男の人と、仲良くするところなんて」

「ふぅん・・・」

久遠は興味惹かれる。
姉・刹那が気を示す透矢という男に。
久遠はまだ日本に来て数日だから、透矢の事はまだよく知らない。

だが姉・刹那もそうだが、炎魅子や地影まで好意的に接する彼に、興味を抱かない筈がなかった。

久遠はデュエルよりも、むしろ姉と透矢の動向の方が気になっているようだった。




ーーそして、デュエル場。
真希のターンが終わり、千鶴へとターンが返る。

「わ、私のターン、ドロー！」

大人しい千鶴、普段はアクションと言うにもはばかれる程、静かな振る舞いだが、
今日に限っては気合いの表れか、ドローする際にも大きく腕を振りかぶった。
その気合いは、当然真希にも伝わる。

「わ、私は・・・永続魔法、『小さな魔法の連弾（リトル・マジック・ダブル）』を発動！」

ドローして、手札は１枚。
その１枚をすぐに発動させる千鶴。
これで千鶴の場には永続魔法・罠カードが合わせて３枚並んだ。

「『小さな魔法のお城（リトル・マジック・キャッスル）』の効果！
り、『リトル・マジック』と名の付く魔法または罠カードの発動に成功する度に、魔力カウンターを一つ、乗せる！」

『小さな魔法のお城』の効果により、また魔力カウンターが貯められ、これで計３つ。
いよいよその効果の一端が解き放たれる。

「『小さな魔法のお城』に魔力カウンターが３つ乗ったので、効果、発動！
で、デッキから『小さな魔法使い（リトル・マジシャン）』と名の付くモンスターを特殊召喚！
来て、『シリル』！」

千鶴の掛け声に合わせて、『お城』の正門が開かれると、そこから白いマントととんがり帽子をかぶった女の子が姿を現す。
これで『チコル』、『マリル』、そして今召喚された『シリル』の可愛らしい魔法使いが揃った。
３人は嬉しそうに互いにじゃれあっている。

ちなみに『シリル』のレベルは２、攻撃力は２００。
これは『小さな魔法使い』の固定ステータスのようだ。

「そ、それじゃ、ば、バトル、行くよ、お姉ちゃん！」

「うん、千鶴ちゃん。
思い切り、戦って」

そしていよいよこのデュエル、初めての千鶴のバトルフェイズが訪れた。
既にライフが９５０の千鶴。
ここで巻き返しを図れるか。

『小さな魔法使い』の一見、非力な能力。
しかしそこには独自の戦略が秘められていた。