運命のデュエル！Ｄ・Ｋの正体！⑰　作：はにわ

　
「ーーバトルフェイズだ！」

ーー透矢のターン。
ドローしたカードはモンスターカードで無かった時点で、彼に考えることは無かった。
スタンバイ・メインフェイズを飛ばして即、バトルフェイズである。

何故なら当初は攻撃力３２００だった『ゼルフィム・ハザード』の攻撃力は、『影縫いの微刃』の効果で９００。
対してこちらには攻撃力６０００の『リューゼリッド』。
真希の場に他のカードは存在しないため、単純に考えてこのバトルフェイズで決着のはずだ。

ーーが、しかし。

「これで終わりだ、真希！
リューゼリッドでゼルフィム・ハザードを攻撃！」

迷わず透矢の攻撃宣言が下されて、リューゼリッドは助走も無しに脚力で空高く飛び上がる。
右手に持った自慢の槍を振りかぶり、それを『龍』に向けて投擲しようとした。

ーーだがその瞬間、龍の周りから吹き荒れた猛烈な勢いの突風がリューゼリッドの態勢を大きく崩させる。
リューゼリッドはやむ無く攻撃を中止し、そのまま元の位置に降り立ったのだった。

「ーー無駄よ、透矢！」

「ど、どういうことだ！
何でリューゼリッドがーー」

「悪いけど、ゼルフィム・ハザードとバトルできるのはこのカードの『正面』にいるカードだけよ！
その他のモンスターゾーンにいるモンスターは、攻撃宣言自体が行えないわ！」

「な！？
ってことは最初（ハナ）からリューゼリッドの攻撃は封じられてたって事か！」

「ま、そういうことね」

ゼルフィム・ハザードの最後の能力。
それは自らの正面に立つ者以外のモンスターのバトル封印。
つまりリューゼリッドの動きは既に封じ込められていたのだ。

仮にそれを知っていたとしても、場にいるモンスターを別のモンスターカードゾーンに移動するのはルール上不可。
ゼルフィム・ハザードのような移動する効果を持っていれば話しは別だがーー。

（何てこった・・・ってことは、俺はこのターン、何も出来ないのか）

手札のドローした１枚。
そのカードは『女帝』に関するカードであるが、残念ながら現状使用するには条件が整っていない。

「ターン・・・エンド、だ！」

手札の１枚は魔法カード。
つまり伏せる事で、罠カードである可能性を演出、つまり『ブラフ』を仕掛ける事も可能だった。
しかし透矢は元々そう言ったプレイはせず、また伏せる事で相手に破壊されるリスクもある。

この最後の１枚を破壊されるわけにはいかない。
透矢は残り５０というライフの中、最終的には何もしないままターンを終了させた。

「ーーあたしのターン、ドロー！」

真希は内心、勝ちに大きく近付いたと思った。
この状況下でターンが返ってきたのだからそう思うのも無理はない。

そんな中でドローしたのは『マイティ・サイクロン』。
発動条件があるため、この時点では発動出来ない。
言ってしまえば無駄なドローである。

だが真希も透矢と同様。
引いたカードが使えないのであれば、スタンバイもメインフェイズも必要ない。

「ーーバトルフェイズ！
ゼルフィム・ハザードで、透矢にダイレクト・アタック！」

ゼルフィム・ハザードの特殊能力。
正面に相手のカードが無ければ直接攻撃できる能力。
ゼルフィム・ハザードの攻撃力は変わらず９００のままだが、最後の灯火のような透矢のライフを削るには充分すぎる。

「あたしの勝ちよ！」

透矢にもう防ぐ術はないーー。
真希は勝ちを確信した。

「いや、まだだ！」

「えっ？」

「ーーリューゼリッドの効果発動！
墓地の『蒼き槍迅』をデッキに戻すことで、相手モンスターを守備表示にする！」

さっきはしてやられたリューゼリッドだが、その借りを返すべく動く。
槍を振りかざして、身に纏う『力』を帯びた水流をゼルフィム・ハザードにぶつけると、その攻撃態勢を崩した。
そして強制的に守備表示にさせられたゼルフィム・ハザード。
当然、攻撃も封じられた格好だ。

「く・・・っ、その効果は相手のターンでも使えたのね！」

「ああ・・・でも、な」

攻撃を防いだ透矢。
だがその表情に笑顔はなく、申し訳なさそうにリューゼリッドをみている。

「・・・ありがとな、リューゼリッド」

礼を口にした透矢。
その言葉にリューゼリッドは特に反応を示さず顔を反らすと、不意にその身体は透矢のデッキに吸い込まれるように消えた。

「そっか、今のでーー」

「ああ。
墓地に『蒼き槍迅』が１枚もいなくなったからな。
リューゼリッドはエクストラデッキに戻ったのさ」

Ｔ・Ｆモンスターの維持には、墓地に素材モンスターが１体以上必要。
真希もすぐにそれに気付き、透矢は少し落胆したように頷いた。
リューゼリッドは己の存在と引き換えに、透矢を守ったのだ。

「大事なモンスターを犠牲にしてまでライフを守るなんてね。
そんなにあたしには負けたくない？」

「そんなんじゃねぇよ」

「だったら何よ」

冗談含みに聞いた真希に透矢は首を振る。

「確かにこのデッキは大事だ。
預り物だけど・・・１枚１枚のカードが、今の俺にとっては宝物さ」

「へぇ？」

「でもな、もっと・・・もっと大事なもんがあるんだよ」

「な、何よそれ・・・」

「俺はそれを守るためにこのデュエルに勝つ。
千鶴・・・そして、真希。
お前たちのためにな」

「と、透矢・・・」

「お兄ちゃんーー」

迷いを吹っ切ったかのような、真っ直ぐな眼差しでそう語った透矢。
予想しなかったその答えに真希はたじろぎ、千鶴は兄を一点に見据える。

「それが・・・真希、お前に辛い思いさせちまった俺の償いだ」

「ば、馬鹿じゃないのーーっ、
あ、あたしは・・・」

透矢の真剣な思いを受け止めることが出来ず、目を反らすだけの真希。
デュエル・キラーの衣装を剥いでからも、強気な姿勢を保ってきた真希だったが、透矢の思いを感じてその心が揺らぎつつあった。

「ーー真希、お前のターンだぞ」

「ーーあ、あたしはこのまま、ターン、エンド・・・」

そして今までむしろ真希が望んで続けてきたデュエルを、今度は透矢が急かした。
真希は戸惑いながらもターンを終了させる。

「俺のターン、ドロー！」

そしてまた舞い戻る透矢のターン。
場にカードはなく、このドローでデュエルの勝敗は決する。
だが透矢は信じていた。
デッキは応えてくれるとーー。

「・・・ありがとな」

透矢はそのカードを見て、デッキに向かってそう呟いた。

「今ならあの時の『お姉さん』の言葉の意味が分かる。
『お姉さん』は俺に大事なものを守る力をくれたんだよなーー」

透矢は数日前の『夢』を思い出していた。
あの時、『お姉さん』が口にした言葉の意味。
それがようやく分かったのである。

「ーー真希、行くぞ！
ラストターンだ！」

透矢は強くそう宣言した。
その宣言通り、いよいよ決着がつくというのかーー。