最後の四天王　作：はにわ

　
「ーー両親が・・・そうだったのか」

「ええ。
それかららしいの。
水花が心を閉ざしてしまったのはーー」

刹那から語られた水花の境遇。
それは水花が３才の頃。
ある出掛け先の『忌まわしい事件』により、両親を１度に亡くしたのだという。
その『事件』が何なのかまではさすがに語られなかったが、語るに忍びない、そして水花が表情をつくれなくなるほどの出来事なのだから、
想像もつかないような辛い出来事があったのだというくらいは、透矢にも分かった。
ただ当の水花は己の過去の話をしてもやはり表情は変わらない。
それが逆に痛々しいものを感じさせる。

ーーそして蒼井乃財閥の跡取りは一人娘の水花しかいないが、当然のごとくすぐに継がせるわけにもいかず、今は重役たちがその任を担っているとのこと。
加えて水花は今、昵懇（じっこん）の間柄である神楽坂の家に引き取られ、成人するまで面倒を見るつもりらしい。

「この子ね、普段はこんな感じだけど、大好きなデュエル・モンスターズをする時は、
すごく生き生きとした顔を見せるの」

「そっか」

「だから透矢くんも楽しんでくれれば、この子も喜ぶと思うわ。
まぁ、透矢くんには言うまでもないかしら」

「もちろんさ！」

透矢は水花の事について深く突っ込むつもりはない。
デュエルが楽しいと思える子なのだから、自分も勝負とはいえ、今まで通り楽しむつもりなのだ。

神楽坂に引き取られてから刹那とは姉妹のように育ってきたという二人。
抱き抱えた水花の頭を撫でる穏やかな刹那を見て、彼女の心優しい一面を見た透矢。
透矢もまた、ほっとしたようにその様を眺めていたのだった。

「ーー失礼しまーす」

「し、しし失礼、しますぅ・・・」

「おぅ、悪いな、迎えに来てもらっちゃって！
今いくから、そこで待っててくれ！」

ーーと、話している内に真希と千鶴が透矢を迎えにやって来た。
傍にはたまたま出くわしたのか地影の姿もあり、どこか不機嫌そうに眼鏡を光らせている。
真希と千鶴は生徒会の面々に挨拶をしてから部屋を出たが、入室した地影がまず頭を下げる。

「先ほどは取り乱して失礼しました」

「あはは・・・もう、地影ったら本気で怒っちゃ嫌よ？」

「別に怒っていませんが、何か？」

愛想笑いを見せる刹那に、狙ってやっているのか、眼鏡の位置を巧みに動かし、レンズが照明に反射して光り、奥にある瞳が映らなくなる。
そんな様子から怒っていない、と言われても到底そうは思えないのだった。

「え、えーと・・・んじゃ、会長さん。
二人を待たせてるから、そろそろ帰るよ」

「え、ええ・・・分かったわ」

地影が入室した途端、空気が重くなったのを敏感に感じ取った透矢は体よくその場から早々と立ち去ろうとする。

だがふと、聞き忘れていた事を思い出して立ち止まる。

「そういや会長さん」

「『せ・つ・な』よ！」

「うう・・・せ、せつ、な会長さん、聞きたいことが・・・」

「何で『会長さん』だけ淀みないのかしら。
まぁいいわ、それでなにかしら？」

しつこくこだわる刹那だが、何とか許してもらい事なきを得る。

「俺さ、四天王の最後の一人に会ってないと思うんだけど・・・どんな奴なんだ？」

その何気ない質問に、水花を除く生徒会メンバーは異様な反応を見せた。
もっとも、透矢は全くそれに気がついてはいないが。

質問を受けた刹那は１度水花を地に下ろすと、透矢と正面から向き合うように座り直す。
そして神妙な面持ちを見せながら逆に尋ねた。

「そっか・・・透矢くん、まだ四天王最後の一人を知らないのよね？
ーー会ってみたい？」

「え？
ま、そりゃあ、ね。
いずれは戦うかもしんないしさ」

透矢の意向を聞いた刹那がうっすら笑みを見せる。
気のせいか一瞬、目を何かに逸らしたようにも見えた。
一体何を見たかは、透矢には分からなかったが。

「実はね、透矢くん。
最後の四天王はーー」

「ーー刹那！」

「刹那さん！」

刹那が何かを言いかけて、炎魅子と地影が遮るように声を上げる。
一体、何事か、と透矢。

すると刹那は不意に表情を緩ませて、にっこりと微笑んだ。

「うふふ、教えてあげようと思ったけど止めとこうかな」

「えぇ、何だよそれ！
かえって気になるじゃないか！」

「まぁまぁ、そういう見えない要素が１つくらいあった方がおもしろいと思わない？」

「何だよ、それ・・・」

いまいち意味の分からない刹那の発言に、もやもやさせられる透矢。

「ーー大丈夫。
君が勝ち進めば、嫌でも姿を見せるわ。
普段は大勢の生徒に紛れて・・・君の近くで君のデュエルを見守っていても、ね」

「俺が、勝ち進めば？」

「ええ」

「・・・分かったよ。
何だか気にはなるけど、最後の楽しみってのも悪くないしな」

性格なのだろうか。
納得してしまった透矢。
炎魅子と地影が安心したように、平静さを取り戻す。

「んじゃ、お先に、会長さん！
紅月先輩、朝霧も！
また明日な！」

「もぅ・・・透矢くんったら、いけずね」

「じゃあな、遊戦名！
明後日の水花とのデュエル、楽しみにしとくよ！」

「ーー帰り道に気をつけて」

透矢は別れの挨拶をして、今度こそ生徒会室から出ていった。
すると途端に炎魅子と地影が刹那を睨む。

「うっふふ・・・まぁ、いいじゃないの。
透矢くんの性格に助けられたけど、ね」

ほくそ笑みながら語る刹那。

ーー最後の四天王。
普段は生徒会室に姿を現さない謎の人物。
彼の者は通常の生徒会の職務とは違った『任務』を与えられていた。

ーー通称、『デュエル・キラー』。

人知れず、噂だけのその人物は、時近くしてその任務を果たすべく、姿を現そうとしていたーー。